AMDが2024年に発売した最新CPUシリーズ、Ryzen 9000(Zen 5アーキテクチャ)が市場で大きな苦戦を強いられている。複数の情報源によると、この新シリーズの売上げは「壊滅的」であり、AMDにとっては2011年の不評だったBulldozerアーキテクチャ以来の「最悪の発売」と評されている。
Ryzen 9000シリーズが世界中で売れていない
発売から約1ヶ月が経過した現在、Ryzen 9000シリーズの販売実績は予想を大きく下回っている。オーストラリアの小売業者によると、一部の店舗では発売直後の販売台数が一桁にとどまったという。これは、通常数千台規模で売れる新製品としては異例の低さである。
同様の傾向は他の地域でも見られる。ドイツの大手オンラインショップMindfactoryの公開データによると、Ryzen 7 9700Xの販売台数は発売から1ヶ月で約160台にとどまっている。これは前世代のRyzen 7000シリーズが発売1週間で達成した850台という数字と比較すると、極めて低い水準だ。
米国の主要ECサイトでの販売ランキングでも、Ryzen 9000シリーズの苦戦ぶりが如実に表れている。Neweggではトップ20にRyzen 9000シリーズが1モデルも入っておらず、Amazonでも最上位モデルのRyzen 9 9950Xが32位、Ryzen 9 9700Xが28位と振るわない。対照的に、前世代のRyzen 7000シリーズや、競合のIntel第13世代、第14世代CPUが上位を占めている状況だ。
日本でも、Amazonランキングでは上位50位にはRyzen 9000シリーズは一つも入っておらず、記事執筆時点では56位にRyzen 9 9950Xが辛うじて登場している状況だ。価格ドットコムの売れ筋ランキングには第3位にRyzen 9 9950Xが登場しているが、こちらは販売数でのデータなのかは不明なため参考にはならないかも知れない。
この販売不振は、AMDにとって深刻な問題となっている。特に、Intelとの競争が激化するデスクトップCPU市場において、Ryzen 9000シリーズの不調は大きな痛手となる可能性がある。AMDがこれまで築き上げてきたRyzenブランドの評価にも影響を及ぼす恐れがあり、今後の対応が注目される。
販売不振の原因
Ryzen 9000シリーズの販売不振には、いくつかの要因が考えられる。最も大きな原因として挙げられているのが、パフォーマンスが期待外れであることだ。AMDは、Zen 5アーキテクチャによって前世代比で16%のIPC(1クロックあたりの命令実行数)向上を謳っていたが、実際の消費者向けワークロードでは、この性能向上が十分に体感できないケースが多いという。
特に、ゲーミング性能においては、前世代のRyzen 7000シリーズX3Dモデルに及ばないケースもあり、ゲーマーからの支持を得られていない。例えば、Ryzen 7 7800X3Dは依然として人気が高く、その価格は上昇傾向にあるほどだ。
価格設定も大きな問題となっている。Ryzen 9000シリーズは、前世代モデルと比較して大幅な性能向上が見られないにもかかわらず、高価格帯に設定されている。例えば、Ryzen 5 9600Xは約49,980円で販売されているが、前世代のRyzen 5 7600は30,000円程度で入手可能だ。この価格差に見合う性能差が感じられないため、多くの消費者が前世代モデルを選択している。
競合他社との比較も、Ryzen 9000シリーズにとって不利に働いている。IntelのCPUは安定性の問題を抱えているにもかかわらず、第13世代、第14世代モデルともにRyzen 9000シリーズよりも好調な売れ行きを見せている。これは、Intelが積極的な価格戦略を展開していることや、実世界のシナリオでより一貫したパフォーマンスを発揮していることが理由として挙げられる。
この状況は、前世代モデルへの需要シフトを引き起こしている。Ryzen 7000シリーズ、特にX3Dモデルの人気が高まり、価格も上昇傾向にある。例えば、Ryzen 7 7800X3Dは、年初には40,000円程度で入手可能だったが、現在では60,000円を超える価格で取引されている。
AMDにとって、Ryzen 9000シリーズの不調は深刻な問題となっている。デスクトップCPU市場でのシェア争いにおいて、Intelに対する優位性を失いかねない状況だ。また、これまで築き上げてきたRyzenブランドの評価にも影響を及ぼす可能性がある。
今後の展開として、AMDは価格戦略の見直しや、X3Dモデルの早期投入など、何らかの対策を講じる必要があるだろう。また、次世代製品の開発においては、消費者のニーズにより即した性能向上を目指す必要がある。特に、ゲーミング性能の改善や、価格対性能比の向上が求められる。
市場全体としては、AMD、Intel両社の競争が激化することで、消費者にとってはより魅力的な製品が登場する可能性がある。特に、Intelの次世代Arrow LakeプロセッサーやAMDのZen 5 X3Dモデルの登場が期待されており、デスクトップCPU市場は今後も目が離せない状況が続きそうだ。
Xenospectrum’s Take
AMDのRyzen 9000シリーズの販売不振は、ハイエンドCPU市場の複雑さを浮き彫りにしている。技術的には前進しているはずの新世代製品が、実際の市場では苦戦を強いられているという現象は、単純な性能向上だけでは消費者の心を掴めないことを示している。
この状況から、以下の点が重要だと考えられる:
- 価格対性能比の重要性:消費者は単純な性能向上よりも、投資に見合う価値を求めている。AMDは価格戦略を再考する必要がある。
- ゲーミング性能の優先:ハイエンドCPU市場では、ゲーミング性能が重要な指標となっている。X3Dモデルの人気がこれを裏付けている。
- ブランド戦略の再考:RyzenブランドはAMDにとって重要な資産だ。今回の不振を乗り越え、ブランド価値を維持するための戦略が必要だろう。
- 競争の重要性:AMDの苦戦は、短期的にはIntelに有利に働くかもしれない。しかし、長期的には両社の競争が市場を活性化し、消費者に利益をもたらすはずだ。
- 技術革新の方向性:単純な性能向上だけでなく、消費者のニーズに即した革新が求められる。電力効率や特定用途向けの最適化など、多角的なアプローチが必要だろう。
AMDのRyzen 9000シリーズの苦戦は、今後Arrow Lake-SことCore Ultra 200シリーズを発売していくIntelに有利に働く可能性がある。そうした中でのIntelの反撃によって、市場全体の活性化につながることを期待しつつ、今後の展開を注視していく必要があるだろう。また、Ryzen 9000シリーズについては、発売当初に見られたパフォーマンスの不振もいくつかの改善を経て大きな向上を見せ始めており、ユーザーによっては安心して購入する土壌が整いつつあるとも言える。消費者としては、この競争の結果もたらされる技術革新と価格競争の恩恵を享受できる可能性が高いため、購入のタイミングや選択肢を慎重に見極めることが重要になるだろう。
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