Appleは2月25日、今後4年間で5000億ドル(約75兆円)を米国に投資する大型計画を発表した。テキサス州に新AIサーバー工場を建設し、2万人の雇用創出を含む同計画は、Trump政権の中国輸入品関税引き上げを背景に打ち出されたものだ。
500億ドル投資の全容:AI・半導体技術に重点
Appleが発表した5000億ドルの投資計画は、同社の米国におけるこれまでで最大の支出コミットメントとなる。この投資は、人工知能、シリコンエンジニアリング、および全国の学生や労働者のスキル開発に焦点を当てたさまざまな取り組みを支援するものだ。
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「我々は米国のイノベーションの未来に強気であり、この5000億ドルのコミットメントで長年の米国投資を基盤に構築することを誇りに思います」とTim Cook CEOは声明で述べた。
投資計画には、全50州におけるサプライヤーとの協業、直接雇用、Apple Intelligenceインフラストラクチャとデータセンター、企業施設、および20州でのApple TV+制作が含まれる。Appleは引き続き米国最大の納税者の一つであり、過去5年間で750億ドル以上の米国税を支払い、2024年だけでも190億ドルを納税していると述べている。
ヒューストン新工場:Apple Intelligence用サーバーの国内製造へ
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今回の投資計画の目玉の一つが、Appleは製造パートナーと協力して今年後半からヒューストンに新設される、AIサーバー製造工場だ。2026年に開設予定の250,000平方フィート(約23,225平方メートル)のサーバー製造施設は、数千の雇用を創出する見込みだ。
これまで米国外で製造されていたこれらのサーバーは、Appleが開発するAIパーソナルアシスタント「Apple Intelligence」を支えるための重要な役割を果たし、高度なセキュリティアーキテクチャである「Private Cloud Compute」の基盤となる。Private Cloud Computeは、強力なAI処理能力とAIクラウドコンピューティング向けに大規模に展開された最先端のセキュリティアーキテクチャを組み合わせたものだ。
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これらのサーバーはAppleのエンジニアによる長年の研究開発の成果を統合し、データセンターにAppleシリコンの業界をリードするセキュリティとパフォーマンスを提供する。
Appleのチームは、これらのサーバーを非常にエネルギー効率の高いものに設計し、すでに100%再生可能エネルギーで稼働しているAppleデータセンターのエネルギー需要を削減する。Appleは米国中の顧客にApple Intelligenceを提供するにあたり、ノースカロライナ、アイオワ、オレゴン、アリゾナ、およびネバダのデータセンター容量の拡大も計画している。
製造基金倍増:100億ドル規模に拡大し半導体国内生産を加速
Appleは、米国における高度な製造業を支援するため、2017年に設立した「US Advanced Manufacturing Fund(米先端製造基金)」を50億ドルから100億ドルに倍増することも発表した。この基金は、米国内のサプライヤーや製造業者への投資を通じて、技術革新と雇用創出を促進することを目的としている。
基金の拡大には、アリゾナ州のTSMCのFab 21施設での先進的なシリコン生産に対するAppleからの数十億ドルのコミットメントが含まれる。Appleはこの最先端施設の最大の顧客であり、同施設では2,000人以上の労働者が米国内でチップを製造している。Appleチップの大量生産は先月始まった。
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Appleが使用するシリコンは、デバイス全体で驚異的な機能、パフォーマンス、および電力効率をAppleユーザーにもたらすように設計されている。Appleのサプライヤーはすでにアリゾナ、コロラド、オレゴン、ユタを含む12州の24の工場でシリコンを製造している。同社のこの分野への投資は、Broadcom、Texas Instruments、Skyworks、Qorvoなどの米国企業で数千の高給の雇用を創出している。
これまでに、Appleの米国先端製造基金は、ケンタッキー、ペンシルバニア、テキサス、インディアナを含む13州でのプロジェクトを支援してきた。これらのプロジェクトは地元企業の構築、労働者の訓練、およびApple製品のための幅広い革新的な製造プロセスと材料の創出に貢献している。
次世代製造業人材育成:デトロイトに製造アカデミー設立
先進製造業への企業の移行を支援するため、AppleはデトロイトにApple Manufacturing Academyを開設する。Appleのエンジニアたちは、ミシガン州立大学などのトップ大学の専門家と共に、中小企業にAIやスマート製造技術の導入についてコンサルティングを行う。
このアカデミーでは、プロジェクト管理や製造プロセス最適化などの重要なスキルを労働者に教える、スキル開発カリキュラムを備えた無料の対面およびオンラインコースも提供する。これらのコースは、企業のサプライチェーンにおける生産性、効率性、品質の向上を推進するのに役立つ。
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Appleは長年にわたり、米国の労働者や学生の教育とスキル開発への投資に取り組んできた。これには、4-H、Boys & Girls Clubs of America、FIRSTなどの組織への継続的かつ拡大する助成プログラムが含まれる。これらの組織は、コーディングなどの重要なスキルを若者が学ぶのを支援する無料のプログラムを作成するために、全国のコミュニティでAppleと密接に協力している。
次世代のイノベーターへのAppleのサポートには、ハードウェアエンジニアリングとシリコンチップ設計のキャリアに学生を準備させる同社のNew Silicon Initiativeなどの取り組みも含まれる。昨年、このプログラムはジョージア工科大学の学生にも拡大され、現在全国8校の学生に提供されている。Appleは今年からUCLAのCenter for Education of Microchip Designers(CEMiD)との新たな協力を含め、このイニシアチブの拡大を継続している。
研究開発強化と2万人雇用計画:AI・シリコン技術に注力
Appleは米国全土でR&Dを拡大し続けている。過去5年間で、Appleは米国を拠点とする先進的なR&D支出をほぼ倍増させ、今後もその成長を加速させる予定だ。
最近、Appleは最新のiPhoneラインナップに加わるiPhone 16eを発表した。iPhone 16eは、A18チップの業界をリードする効率と、新しいApple C1(Appleによって設計された最初のセルラーモデムであり、iPhoneで過去最もパワー効率の高いモデム)のおかげで、高速でスムーズなパフォーマンスと改善されたバッテリー持続時間を提供する。
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Apple C1はAppleシリコンの歴史に新たな章を加え、何千人ものエンジニアの作業をまとめる数年間のR&D投資の結果である。Apple C1は、追加のApple製品のモデムシステムを革新し最適化することを可能にする長期的な戦略の始まりだ。
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今後4年間で、Appleは約20,000人を雇用する計画であり、その大多数はR&D、シリコンエンジニアリング、ソフトウェア開発、AIと機械学習に焦点を当てる。この拡大されたコミットメントには、全国のAppleのR&Dハブへの大規模な投資が含まれる。これには、カスタムシリコン、ハードウェアエンジニアリング、ソフトウェア開発、人工知能、機械学習などの分野に焦点を当てた米国全土のチームの拡大が含まれる。
投資発表の背景:Trump政権の対中関税強化との関連
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この大型投資発表は、Tim Cook CEOがTrump大統領とホワイトハウスで会談した直後に行われた点が注目される。Appleは製品製造場所についてTrump政権から圧力を受けており、同社の製品の大部分は中国で組み立てられている。
今月初め、Trump大統領は中国からの輸入品に対して長らく警告していた10%の関税を課す命令に署名した。これは彼の最初の大統領任期中に課された最大25%の既存の関税に追加されるものだ。また、外国製半導体に対する25%の関税も予想されており、これはAppleに影響を与える可能性がある。
この投資発表はTrump氏の関税に対応するためのものと見られており、ホワイトハウスが中国からの輸入品だけでなく、外国製の鉄鋼やアルミニウムなどの重要な商品にも新たな関税を課している中で行われた。
Trump氏は25日、自身のSNS「Truth Social」に、Appleの発表理由は「我々がやっていることへの信頼」だとする投稿を行った。
過去の投資実績と今回の戦略的意義
今回の発表はAppleが行った初めての大型投資ではない。2021年には今後5年間で4300億ドルを国内に投資する計画を発表し、2018年には5年間で3500億ドルを米国経済に貢献し、20,000人の雇用を創出するという約束を行っている。
しかし、Appleは2019年にMac Proの生産を国内から中国に移したとされ、iPhoneは依然として中国やインドで製造されている。今回の発表では、半導体とサーバーの国内生産に焦点が当てられているものの、他のデバイスの生産を国内に戻す計画は明確にされていない。
この5000億ドルの投資は、国内製造を強化し、特に半導体とAIサーバーの生産を米国内に確保することで、今後予想される輸入関税からAppleを部分的に保護する狙いがあると考えられる。同時に、R&Dへの投資とスキル開発プログラムによって、米国の技術革新と製造業における競争力を強化する効果も期待できそうだ。
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