ArmはQualcommとの重要なアーキテクチャ・ライセンス契約(ALA)解除の試みを断念し、QualcommのArm互換チップ製造継続が確定した。この決定は、Nuvia買収を巡り2022年から続く両社間の訴訟における大きな転換点となる。Qualcommは高性能Oryon CPUの開発に注力し、PCおよびスマートフォン市場での競争力強化を進める。
QualcommのArmライセンス継続が決定
Qualcommの2024年第4四半期(12月29日締め)業績報告によると、ArmはQualcommとのALA解除を求めない方針を示したとのことだ。
QualcommのCristiano Amon CEOは投資家向け電話会議で「Armは当社のALA解除計画を現在持っていない」と述べ、「世界中の消費者に利益をもたらす高性能製品、特に優れたOryonカスタムCPUの開発を継続することに期待している」と語った。
この決定により、QualcommはSnapdragon Xシリーズ(PC向け)やSnapdragon 8 Elite SoC(ハイエンドスマートフォン向け)を含むArmベース製品の開発・販売を継続できる。Snapdragon XシリーズはMicrosoftのAI機能「Windows Copilot+」搭載PC向けに認証された唯一のプロセッサとなり、またSamsungは次期フラッグシップスマートフォン「Galaxy S25」にSnapdragon 8 Eliteを採用予定である。
訴訟の経緯:Nuvia買収から現在まで
本件は2021年のQualcommによるNuvia買収に端を発する。Nuviaは、Appleのカスタムプロセッサ設計を主導したエンジニアらが設立し、ArmのALAに基づいて独自のArm互換CPUコアを設計していた。Qualcommは同社を買収し、その技術をOryonブランドとして展開する計画を立てた。
しかし、ArmはNuviaの設計に関し、Armの承認なしにQualcommへ譲渡することは契約違反だと主張。2022年にQualcommを提訴し、ALAの解除などを求めた。昨年の陪審裁判ではQualcommに概ね有利な評決が下されたが、両社は評決内容の明確化を求めて訴訟を継続している。
知的財産保護とビジネスの両立
ArmのJason Child CFOは決算説明会で「訴訟で勝訴しないことを前提に収益予測を立てていた」と述べ、「Qualcommから従来と同等のロイヤリティ収入を継続して得られる見込み」と説明。訴訟の主目的は知的財産保護にあったと強調した。
一方、Qualcommは別途、Armの契約義務不履行を主張する訴訟を提起しており、2026年前半の法廷審理が予定されている。
両社の業績とAI戦略
Qualcommの2024年第4四半期は売上高117億ドル(前年同期比18%増)、純利益31.8億ドル(同15%増)と好調。チップ販売は101億ドルと四半期として初めて100億ドルを突破した。
Armも2024年第4四半期に売上高9億8300万ドル(前年同期比18%増)、純利益2億5200万ドルを記録し、増収増益となった。
両社はAI、特に軽量LLM(大規模言語モデル)への取り組みを強化している。QualcommのAmon氏はオンデバイスLLMへの期待を示し、ArmのRene Haas CEOも「コンピューティング需要がシリコン供給能力を上回る時代」と述べ、新たなビジネスチャンスに意欲を示した。
Armのライセンス停止要求撤回は、QualcommのOryon CPU開発と市場展開を加速させる要因となる。高性能・省電力のOryon CPUは、PCおよびスマートフォン市場での競争力強化に不可欠だ。
一方、Armは知的財産保護の姿勢を維持しつつ、安定的なロイヤリティ収入確保を優先した形となる。AI時代を迎え、オンデバイスAIの重要性が高まる中、両社の建設的な関係構築が技術革新を加速する可能性がありそうだ。
Sources
- Qualcomm [PDF]
- Reuters: Qualcomm says Arm has withdrawn license breach notice
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