SteamOS非対応の携帯ゲーミングPCやデスクトップ向けに「実質的なSteamOS代替」として支持を集めるBazziteが、2026年4月10日にTestingブランチ向けの大型アップデートを公開した。カーネル更新やMesaのバージョンアップといった定番の改良に加え、今回は軽量化・セキュリティ・ハードウェア対応の三方向が同時に強化されている。Universal Blueが開発するこのFedoraベースOSは、Fedora 44への移行を控えた2026年前半に、こうした多面的な強化をまとめて実施した。

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ベースイメージ約1GBの削減:QEMUとROCMをDXバリアントへ分離した判断

今回のアップデートで最も目立つ変更は、ベースイメージのサイズ削減だ。QEMU(仮想化ソフトウェア)とROCM(AMD製GPUコンピューティングフレームワーク)をBazzite本体から切り出し、開発者向けバリアントであるBazzite-DXに移動させた結果、通常ユーザー向けのイメージが約1GB軽量化された。これはダウンロードサイズとOTAアップデートの転送量に直接影響する変更だ。

この判断の背景にあるのは、ユーザー層の分離だ。仮想マシンを動かすQEMUやGPU演算に特化したROCMは、ゲーミング用途ではほとんどのユーザーが使わない機能である。これらを全ユーザーに配布し続けることは、ダウンロード帯域とストレージを無駄に消費させ、イメージの管理複雑度も上げる。Bazzite-DXへの分離によって、一般ゲーマーはQEMUとROCMを含まない軽量なイメージを受け取り、OTAアップデート時の転送データ量も削減される。

あわせてカーネルはバージョン6.19.10 OGC(Open Gaming Collective)に更新され、グラフィックスのレンダリング基盤であるMesaも26.0.4に引き上げられた。Mesa 26.0.4ではVulkanレンダリングの改善とRadeonSIドライバーの最適化が含まれており、AMD GPUを使うユーザーにとってはゲーム互換性とパフォーマンス両面での恩恵が期待できる。

サプライチェーンセキュリティへの本格対応

今回のアップデートでは、配布物の信頼性を担保する仕組みが本格的に整備された。具体的にはSBOM(Software Bill of Materials、ソフトウェア部品表)のチェンジログ生成への活用、Build Attestation(ビルド証明)の導入、OpenSSFセキュリティスキャンの実施、署名付きISOの提供が揃って実装された。これらは配布物の完全性と透明性を保証するための手法であり、大規模なオープンソースプロジェクトへの適用が広がっている。

SBOMはソフトウェアに含まれる全コンポーネントを一覧化した文書であり、脆弱性が発見されたライブラリを追跡するときに参照される。Build Attestationはビルド工程が改ざんされていないことを暗号学的に証明する仕組みだ。OpenSSFはオープンソースソフトウェアのセキュリティ向上を目的とする業界団体で、そのスキャン基準をクリアすることはプロジェクトの成熟度を示す指標となっている。

Linuxデスクトップ全体でセキュア・バイ・デフォルトへの流れが強まるなか、ゲーミング特化OSがサプライチェーンの透明性をここまで整備した例はほとんどない。SBOMと署名付きISOが揃えば、企業や教育機関でBazziteを管理PCに展開する際のセキュリティ要件への対応が容易になる。これがゲーマー以外への展開を直接促すかは別として、基盤として信頼できるOSとしての要件を一つ満たした。

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拡張されたハードウェア対応——Elgato・ステアリング・ROG Ally

Elgato 4Kキャプチャーカードのネイティブサポートが追加され、ゲーム配信や録画を行うクリエイター層が設定不要でデバイスを使える環境が整った。ステアリングホイールのドライバーサポートも拡張されており、レーシングゲームの愛好者が追加設定なしに周辺機器を接続できるようになった。配信・録画・シミュレーションといった周辺用途でのLinux移行を検討しやすい環境が着実に広がっている。

ASUS ROG Ally向けには、ASUSCtlのパッチが適用されてファンカーブのカスタマイズとキーボードバックライト制御が可能になった。ROG AllyはWindowsプリインストールのハンドヘルドPCだが、SteamOSが正式対応していないためBazziteが事実上の選択肢となっている機種だ。ファン制御やバックライトという細かな部分まで手が届くようになることで、Windowsと比べた際の「LinuxだからできないこのPC固有の機能」というギャップが一つ埋まる。

ストリーミングソフトウェアのSunshineもプリインストールから外され、ujustコマンド経由のオプションインストールに変更された。Sunshineを常時使わないユーザーには起動時の常駐プロセスが一つ減り、使いたいときだけインストールする選択ができる。QEMUとROCMの分離と同じロジックで、デフォルト構成のフットプリントを最小化しつつ機能性を損なわない方向への調整が続いている。

ゲームモード向けロードマップとFedora 44:次の節目に向けた布石

今後の開発方針についてはゲームモード・ハンドヘルド・HTPC(Home Theater PC)向けに6項目のロードマップが公開された。現時点ではすべて計画中だ。UI系ではOpenGamepadUIオーバーレイの統合とSteam UI内へのチェンジログ表示が含まれ、ハード制御ではSteamOS-Manager経由のTDP(熱設計電力)制御とLegion GO 2の入力不具合修正、システム面ではゲームモード更新体験の改善とNvidiaストリーミングのバグFixを含むgamescopeの更新が挙げられている。

Kyle Gospo氏(Bazziteプロジェクト開発者)は「私たちの主な焦点は今やゲームモード/ハンドヘルド/HTMCイメージに移っており、ValveやほかのメーカーがいまShippingしているものと同期させるため大きな変更と改善が進んでいる」と述べた。この方針転換の背景には、Steam Deck以降に急増したROG Ally・Legion GOなどSteamOS非対応ハンドヘルドの存在がある。デスクトップで安定実績を積んだBazziteが、次の強化対象としてゲームモードとハンドヘルド用途を明確に位置づけた。

基盤となるディストリビューションについてはFedora 44への移行が予定されており、テスト完了を条件にFedora 44のリリースと同日の移行を目指している。Fedora 44は新しいカーネルとより広範なドライバーサポートを基盤として届ける。今回整備したセキュリティ基盤と軽量化の上にゲームモード改修が乗り、ROG Ally・Legion GO 2の対応改善と合わせれば、ハンドヘルドLinuxの選択肢として現実的な完成度に近づく節目になる。


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