AIツールの導入が企業の優先課題として加速する中、現場の労働者が実際にどの程度AIを使っているのかを大規模に調べた調査結果が公表された。Gallupが2026年2月に23,717人の米国就業者を対象に実施した四半期調査(誤差±0.9ポイント)によると、AIを年に数回以上使う労働者は全体の50%。裏を返せば、半数はほぼ使っていない。非使用者に理由を尋ねると、最多の46%が「今のやり方を変えたくない」と答えた。AIの壁はスキル不足やツールの欠如ではなく、人間の側の習慣的抵抗にある。
半数がAIを年1回以下、伸びてはいるが浸透は遠い
Gallupの数字を時系列で追うと、AIの日常的な浸透がじわじわ進んでいることは確かだ。毎日AIを使う労働者は前々四半期の10%から前四半期12%、今回13%へと増えた。週に数回以上使う層は全体の28%に達し、組織としてAIを導入済みと答えた従業員も41%と前四半期から3ポイント上昇した。
ただし「組織が導入した」と「個人が使っている」の間には大きな落差がある。50%という利用率は「年に数回以上」というゆるい基準で測ったもので、毎日使っている層はわずか13%にとどまる。残りの半数、つまり約1万2千人規模の回答者は、AIを年に1回も使わないか、まったく使っていない。
技術ではなく習慣が最大の壁
契約管理者のThuy Pisoneはメリーランド州で週に数回、ルーティン業務にAIを使う。だが、PowerPointの作成にAIを使うことは拒否している。理由はスキルを失いたくないからだ。Pisoneのように、AIを部分的に取り入れつつも特定の領域では意識的に避けるという態度は、調査データにもはっきり現れている。
AIツールが利用可能でありながら使っていない従業員に理由を聞いた結果、最も多かったのは「今のやり方を維持したい」で46%だった。技術的な障壁やスキル不足ではなく、既存の仕事のやり方への愛着が最大のブレーキになっている。43%がデータプライバシーやセキュリティへの懸念を、同じく43%がAIの使用に倫理的に反対していると回答した。39%はAIが自分の仕事に役立つとは思わないと答えている。
利用頻度が低い層(月に数回程度)でも構図は似ている。36%が「今のやり方を変えたくない」と答え、38%がプライバシー懸念を挙げた。倫理的抵抗は25%に下がるが、これは実際にAIに触れた経験がある分、抽象的な忌避感よりも具体的な不満にシフトしていると読める。
リーダーと現場で広がるAI格差
AIの利用率には役職による明確な勾配がある。AIツールを提供している組織内で、週に数回以上AIを使う割合はリーダー層で67%、マネージャーで52%、プロジェクトマネージャーで50%、個人貢献者で46%だった。Gallupの著者Andy Kempは、この差について「主流AIツールが従業員の業務にどの程度適合するかを反映している。デスクワーク中心の業務は現在のAIアプリケーションとの親和性が高い」と分析している。
この格差を埋める最大の要因は、マネージャーの支援だった。上司からAI活用の支援を受けていると強く感じる従業員の78%がAIを頻繁に使っていたのに対し、そうでない場合は44%にとどまった。数字はここからさらに開く。マネージャーの支援を受けている従業員がAIによる職場の変革を実感する可能性は9.3倍、自分の強みを活かせる機会が増えたと感じる可能性は7.8倍に達した。
システムの統合度も大きい。AIが既存の業務システムにうまく組み込まれていると強く感じる従業員の88%がAIを頻繁に使い、そうでない層の55%を大きく引き離した。ツールを導入するだけでは足りない。既存の業務フローの中にAIが自然に溶け込む設計と、上司が使い方を率先して示す環境の両方が揃って初めて、現場の利用率は動く。
AI導入企業ほど高まる雇用不安
AIを積極的に導入している企業の従業員は、そうでない企業の従業員より職場環境の激変を実感している。AI導入企業では27%が「破壊的な職場変化」を報告しており、非導入企業の17%を10ポイント上回った。採用の拡大(34% vs 28%)と人員削減(23% vs 16%)が同時に進んでいるのがAI導入企業の特徴で、新しい役割が生まれる裏で既存の役割が消えている。
この現実を反映して、5年以内に自分の職がAIや自動化で失われる可能性が「ある程度」または「非常に」高いと答えた労働者は全体の18%に上った。2025年時点の15%から3ポイント上昇している。AI導入企業に限ると、この数字は23%まで跳ね上がる。AIの恩恵を間近で目にしている層ほど、自分の仕事が置き換えられるリスクを肌で感じているわけだ。
バージニア州北部でソーシャルワーカーとして働く53歳のScott Segalは、高齢者や支援が必要な患者を医療資源につなぐ業務にAIを活用している。だが同時に、AIが自分の職を代替することへの不安から、「ヘルスケア・シャペロン・サービス」という独自の緊急時対応計画を練っている。AIを使いこなしながらも代替に備えるSegalの行動は、導入企業の従業員が抱える矛盾の縮図だ。
生産性は上がったが、変革には程遠い

AIを使っている従業員の65%が、生産性と効率の向上を実感していると回答した。その度合いにはやはり役職差があり、「極めて肯定的な影響」と答えた割合はリーダー層で21%、個人貢献者で13%だった。ヘルスケアや技術職では改善の実感が強く、サービス職や事務職では効果が限定的か、むしろマイナスだったという報告も見られた。
ルイジアナ州バトンルージュの労働・雇用弁護士Elizabeth Blochは、ChatGPTを外交的なメール文面の作成に活用している。一方で法的リサーチでのハルシネーション(AIが事実と異なる情報を生成する現象)のリスクを指摘し、不適切な使い方は司法制裁につながりうると警告する。AIの生産性効果は使い方の的確さに左右され、導入すれば自動的に成果が出るものではない。
だが個人レベルの効率化と、組織としての変革には深い溝がある。AI導入組織において「AIが仕事のやり方を根本的に変えた」と強く同意した従業員はわずか約10%だった。65%が「自分の生産性は上がった」と答えながら、組織全体の変革を実感しているのは10人に1人。AIは個々のタスクを効率化しつつも、組織の仕事の進め方そのものはまだほとんど変わっていない。今後AIが職場を本当に変えるかどうかは、ツールの性能向上ではなく、46%の「変えたくない」をどう動かすかにかかっているのだ。
Sources