Phoronix が 2026 年 4 月 10 日に公開した Linux 版ブラウザ比較では、Chrome 147 が新しい JetStream 3 で Firefox 149 を上回った。一方で、Firefox は MotionMark と StyleBench で勝ち、消費電力、CPU 使用率、メモリ使用量は両者とも近い値に収まった。ベンチマークの勝敗だけを見ると Chrome 優位に見えるが、負荷の種類を分けて読むと、描画系では Firefox、JavaScript と WebAssembly 系では Chrome という構図がはっきりする。
比較条件とJetStream 3の前提
この比較は、Intel Core Ultra X7 358H Panther Lake 搭載のノート PC 1 台で行われ、Ubuntu 26.04 上で Mozilla と Google の公式リリース版を使って測定された。比較条件が揃っている分、同じ環境での傾向を見るには適している。ただし、これはあくまで 1 つの構成での結果であり、別の CPU、GPU、あるいは Linux デスクトップ環境でも同じ順序になるとは限らない。
ここで重要なのは、今回の主役が単なる「新しいベンチマークスコア」ではないことだ。JetStream 3は2026年3月31日に公開され、従来より大きく、より現実的なワークロードへ寄せた更新として設計されている。公開側の説明では、オープンなガバナンスのもとで 200 件超のプルリクエスト、500 ファイル超の変更、70 を超えるワークロードの統合を経ており、1年半以上かけてまとめられた。さらに 12 個の WebAssemblyワークロードを含み、Wasm のスコア計算も初回反復ではコンパイルとインスタンス化の時間を含めるよう変わっている。つまり、JetStream 3はJetStream 2の単純な延長ではなく、何を測るか自体が変わったベンチマークだと読む必要がある。
ベンチマーク結果が示した差
Phoronixの結果では、Chrome 147 は JetStream 3 で Firefox 149 に対して 1.47 倍の値を示した。参考として、同じ記事内では JetStream 2 相当の比較で 1.44 倍、元の JetStream では 1.37 倍だったとされている。数値だけを見れば Chrome の優位は新しい JetStream 3 でも維持されており、しかも差は少し広がっている。
ただし、この差をそのまま「Chrome 全般が速い」と言い切るのは早い。Phoronixは、JavaScriptが重いテストではChromeが先行し、Firefoxは MotionMarkとStyleBenchで勝っている。これは、ブラウザの性能差が単一の指標では表れにくいことを示している。JavaScriptとWebAssemblyの演算寄りの負荷ではChromeが強く、グラフィックスやスタイル計算に近い負荷では Firefoxが強い、という整理が最も素直だ。
WASMの結果も、記事全体としては「拮抗している」「差が小さい」と読むのが妥当だ。JetStream 3自体がWasmの比重を変えているため、ここでの差はエンジンの実力差だけでなく、ベンチマークの設計変更の影響も受ける。分析として言えば、JetStream 3のスコアは「JavaScriptエンジンの総合力」だけではなく、「より大きいワークロードをどこまで効率よく処理できるか」を強く見ている。そのため、Chromeの優位が見えたとしても、それは旧来のマイクロベンチマークに強いかどうかとは別の話になる。
資源使用の面では、両ブラウザはかなり近い。平均消費電力はChromeが 11.44W、Firefoxが11.74W。CPU使用率はChromeが8.13%、Firefoxが 8.35%。メモリ使用量はChromeが4.67GB、Firefoxが4.83GB だった。差はあるが、ここから読み取れるのは「片方だけが極端に重い」という状況ではないことだ。少なくともこの環境では、性能差がそのまま電力やメモリの大差に結びついているわけではない。
Chrome 147とFirefox 149の更新内容
Chrome 147 は 2026 年 4 月 7 日に stable 版が公開され、element-scoped view transitions、CSS contrast-color()、Rust XML parsing の導入が release notes にある。さらに、Chrome 147 の紹介では CSS border-shape も挙げられている。これは、単なる高速化の話ではなく、ブラウザの機能面でも更新が進んでいることを示す。
Firefox 149 は 2026年3月24日に公開され、popover の hint 値、font-family: math の <math> 対応、shape-outside の xywh() と rect() 対応、@container における <container-query> のオプション化、アドオン向けの初期 split-view サポートが追加された。こちらも、性能だけでなく機能面の更新がある。さらに同日、Firefox 149 には高影響の脆弱性を含む security advisory が出ており、WebRender の use-after-free や sandbox escape の問題が列挙されている。ここは性能評価と安全性の話を混同しないほうがよい。分析としては、同じリリース日でも「更新の中身」と「セキュリティ対応の緊急度」は別軸で考えるべきだ。
この切り分けを入れると、今回の記事の意味は少し変わる。Chrome 147の勝利は「新しいベンチマークでJS/WASM系の負荷に強かった」という話であり、Firefox 149の強みは「描画系の負荷で優位を保った」という話だ。どちらが優れているかを一言でまとめるより、どの作業に向いているかを分けて見るほうが実用的だろう。動画編集や複雑なWeb UI、WebAssemblyを多用するアプリでは、JetStream 3のような負荷が関心事になる。一方で、ページ描画やスタイル計算の手応えを重視するなら、MotionMarkとStyleBenchの結果のほうが参考になる。
JetStream 3時代の読み方
分析として最も重要なのは、JetStream 3の導入で「ブラウザの速さ」の定義が少し変わったことだ。BrowserBench側は、JetStream 3が現代的なJavaScriptとWebAssemblyアプリケーションの計算集約部分に焦点を当てると説明している。つまり、今回Chromeが優勢だったのは、より大きい ワークロードと新しいWasmスコア方式に対して強かったからだと読める。これは Chromeの総合優位を意味する場合もあるが、同時にワークロードの設計変更に敏感な指標だということでもある。
逆にFirefoxの強みも、単に「遅いが描画だけ速い」という単純な話ではない。Firefox 149 は機能面の更新が多く、しかも描画系のベンチマークでは勝っている。ページ生成やスタイル計算を多用する場面では、こちらの結果のほうが実感に近い可能性がある。JetStream 3ではChrome 147が先行し、描画系ベンチマークではFirefox 149が優位だった。今回の実測結果は、ブラウザ全体の優劣よりも、負荷の種類ごとに異なる強さを示していると言えるだろう。
Sources
- Phoronix: Chrome 147 vs Firefox 149 On Linux
- BrowserBench: JetStream 3 Announcement
- Google:
- Mozilla: