DeepSeekは2026年8月13日、オープンソースのAIエージェント実行基盤「DeepSeek Harness」を開発者プレビューとして公開した。モデルやツールと同じく、セッションとサンドボックスもプラグインとして扱う。エージェントループとユーザーインターフェースも交換対象だ。AIエージェントの振る舞いを決める部分を固定製品から切り離し、設定で組み替えられる部品へ変えた。もっとも、公式リポジトリは互換性を壊す変更が今後入ると明記しており、現時点では完成品ではなく設計思想を試すための公開版である。

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モデルからUIまで、設定で差し替える

DeepSeek Harnessがプラグインにしたのは、外部ツールの接続口に限らない。公式サイトはモデルとツール、スキルを交換対象に挙げる。セッションとストレージ、サンドボックスも分離し、実行ループやスケジューリング、UIにも同じ機構を適用した。アーキテクチャ文書によれば、モデルアダプターやツールレジストリに加え、セッションログとエージェントループも設定から置き換えられる。開発者はHarness本体を書き換えず、既存プラグインの交換や新しい機能の追加ができる。

起動時には複数の「バンドル」を順に重ね、名前付きの「プロファイル」を組み立てる。基礎バンドルにはモデル接続とツール、永続化が入る。サンドボックスと承認ポリシーに加え、認証情報とテレメトリーも同じ層が担う。Webアプリやヘッドレス実行は、その上位に重なる。各層の設定行はパッチで置換できるため、たとえばローカルのファイルシステムとプロセス実行をリモートサンドボックスへまとめて切り替えられる。

公式配布には用途の異なる4つの実行モードがある。

モード 主な役割
Standard ファイル操作とシェル、検索を備え、計画やサブエージェントも使えるコーディングエージェント
Code モデルが生成したコードから複数回のツール呼び出しをまとめて制御
Minimal シェルとファイル編集だけを残し、最小環境でモデルを評価
Creator 実行中の構成を調べ、Cordisプラグインをメモリ上で試して新しいプリセットを作成

この4モードは別々の製品ではない。同じ部品群を異なる構成で起動できること自体が、プラグイン設計の実例になっている。Node.jsを用意すれば、npx @deepseek-ai/dsh webでWeb UIを起動でき、MITライセンスのソースからビルドする方法も公開されている。

Cordisが部品の着脱を元に戻す

全機能を分割すると、部品を外した後にイベントリスナーやタイマーが残り、別の部品が依存先を失う危険が増す。DeepSeek Harnessは、この問題を基盤のメタフレームワーク「Cordis」で処理する。Peking UniversityとDeepSeek-AIのYifan Shi、Wei Zhang、Tianyi Cuiによる付随論文は、動的な構成に二つの条件を置いた。部品の削除時に副作用を巻き戻す「時間的コンポーザビリティ」と、部品間の依存を宣言して変化に追随させる「空間的コンポーザビリティ」である。

Cordisでは、プラグインがコンテキストを通じてツールやイベントリスナーを登録する。登録時に解除処理もひも付け、アンロード時には実行順と逆の順序で巻き戻す。ネットワーク接続のように個別の終了処理が必要な資源には、開発者がctx.effect()でdisposerを返す。別サービスを使うプラグインはinjectで依存先を宣言し、必要なサービスが揃うまでCordisが読み込みを待つ。

論文は比較対象としてVisual Studio Codeを挙げる。著者らが2026年6月9日に取得したMarketplaceデータでは、インストール数上位100拡張のうち87が実行コードを含み、組み込み以外の拡張への依存を宣言していたのは7だったという。VS Codeの拡張ホストは個別の実行コードをその場でアンロードできず、無効化や削除にはホストの再起動が必要になる。Cordisが狙うのは、プロセス全体を落とす代わりに、機能単位で副作用と依存関係を回収することだ。

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追記専用ログから実行を組み立て直す

DeepSeek Harnessはエージェントの実行履歴も交換可能な部品にした。システムプロンプトと、接続先から受け取った推論情報を追記専用のセッションログへ記録する。ツール呼び出しと結果、サブエージェントの割り当ても同じログに入る。コンテキスト注入も例外ではない。モデルへ渡った内容はログから再構成できなければならないという実行時の不変条件を設け、会話表示だけを履歴の正本にしない。

一つのモデル要求と付随するツール実行を「ステップ」、複数ステップからなる処理を「ターン」として残す。再開と分岐、検索と再生は同じイベント列から導かれる。トランスクリプトとテレメトリーも別の履歴を持たない。この設計なら、UIを交換しても実行記録の意味を保ちやすく、失敗したツール呼び出しやモデルへ渡った文脈を同じ系列で追える。

記録の充実は、保存する情報の範囲も広げる。DeepSeekのデータ処理説明は、入力とモデル出力、セッション文脈を既定で利用者の端末内に保存するとしている。ツール実行結果やファイルパス、APIキーも対象で、同意なくサーバーへ送らない。ただし、外部モデルやWebツールを設定すれば、データは接続先へ送信され得る。MCPサービスと外部プラグインも同様だ。ローカルファーストという性質は、組み込んだサービスまで自動的にローカル化する保証ではない。

リリース候補に残る三つの境界

公開時点のパッケージはリリース候補であり、公式READMEはAPIと構成の互換性が壊れる変更を予告する。プラグイン作者がいま追うべきなのは機能数より、サービスの識別子やイベント契約がどの段階で固定されるかだ。Piエージェントの開発を率いるArmin Ronacherも8月14日、完璧ではないと断りつつ、この分野で設計上の選択を見直したくなる新しさがあると評価した。

Cordis自身にも保証の境界がある。第一に、巻き戻せるのはフレームワークが追跡できる状態までだ。外部へ送信済みのデータや第三者が更新するファイルは自動では元に戻らず、送信を遅らせるか、削除や返金に相当する補償処理をアプリケーション側で用意する必要がある。第二に、依存宣言はサービスへのアクセスを制限できるが、悪意あるコードをホスト環境から隔離するには別のサンドボックスが要る。

第三の境界はプラグイン同士の互換性だ。Cordis論文は、独立して開発された部品では、同じ識別子のインターフェースが版によって変わる問題と、無関係なサービスが同じ識別子を使う衝突が残ると認める。現行実装はnpmのpeer dependencyで版の条件を扱うが、提供者がセマンティックバージョニングを守ることまでは強制できない。

DeepSeek Harnessの価値は、モデル性能の差ではなく、エージェントを構成する部品をどこまで安全に交換できるかで測られる。安定したAPIが出た後、外部プラグインを実行中に着脱してもセッションが続き、権限とログの境界を運用者が検証できるかが、設計思想から実用基盤へ進める条件になる。