DeepSeekは2026年10月17日、画像とテキストに対応するAIモデル「DeepSeek-V4.1-Flash-1017」を公開した。9月に登場したV4.1 Flashの改良版で、公式Webサイトとアプリに加え、APIのdeepseek-flashも新版に切り替わっている。料金とAPIの呼び出し方法を維持しながら、コード修正やツールを使った作業の性能を高め、処理時間と出力トークン数も削減したという。ただし、競合モデルを上回るベンチマークがある一方、依然として差が残る分野もあり、実行環境によっても評価結果は変わる。DeepSeekは公式更新履歴で性能と効率の両面での改善を強調しているが、低価格モデルにどこまで実務を任せられるかを判断するには、ベンチマークの得点だけでなく、作業完了までにかかる時間と費用も考慮する必要がある。

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コード修正では競合を上回り、端末操作ではOpusとの差を縮小

コード修正能力を測る「DeepSWE v1.1」で、DeepSeek-V4.1-Flash-1017は77.0を記録した。旧版の74.2から改善し、DeepSeekが公表した比較表では、Opus 5の74.0、GPT-5.6 Solの73.0を上回っている。K3やGLM-5.3に対しても大きな差を付けた。一方、端末を操作して課題を解くエージェントの評価「Terminal-Bench 4.0」では、Opus 5が引き続き首位を維持している。

10月17日版の公式モデルカードに掲載された主な評価結果は以下のとおりだ。

評価 V4.1 Flash旧版 1017版 K3 GLM-5.3 GPT-5.6 Sol Opus 5
Terminal-Bench 4.0 31.2 42.3 12.6 37.9 39.9 51.8
DeepSWE v1.1 74.2 77.0 67.5 66.9 73.0 74.0
ProgramBench 20.3 29.1 17.5 19.0 23.0 37.0
NL2Repo-Bench 65.4 68.2 58.0 58.0 56.8 75.3

Terminal-BenchはPass@1、DeepSWEは課題解決率、ProgramBenchはAlmost@1、NL2Repo-BenchはScoreを指標としており、異なる行の数値を同じ意味の正解率として比較することはできない。また、これらはDeepSeekが選んだモデルのバージョンと評価条件に基づく結果であり、各社の全モデルや最新世代を網羅した独立ランキングではない。

Terminal-Bench 4.0では、旧版の31.2から新版の42.3へと11.1ポイント上昇した。Opus 5の51.8との差も、旧版の20.6ポイントから9.5ポイントへ縮まっている。新版はGPT-5.6 Solの39.9やGLM-5.3の37.9も上回っており、従来は競合に後れを取っていた端末操作でも成績を伸ばしたことが分かる。

ただし、この改善がすべてモデル自体の性能向上によるものとは限らない。旧版のモデルカードでは、Terminal-Benchの評価に主にDeepSeek Harnessを使用したと説明されているが、新版の脚注ではClaude Codeが指定されている。DeepSWEについても、新版ではMini-SWE-V2が使われた。つまり、公表値から確認できるのは評価スコアの改善であり、実行環境を固定してモデルだけを入れ替えた場合に、どれだけ性能が向上するかを示すものではない。

ほかのコード関連ベンチマークでも、改善の程度は異なる。ProgramBenchでは旧版の20.3から29.1へ伸び、GPT-5.6 Solの23.0を上回ったものの、Opus 5の37.0には届かなかった。NL2Repo-Benchでも68.2を記録し、K3、GLM-5.3、GPT-5.6 Solを上回ったが、Opus 5の75.3とは差がある。DeepSWEで最高得点を記録したからといって、あらゆるコード関連作業で競合を上回るわけではない。

エージェントの実務能力で高評価、視覚・推論では課題も

ツールを使った実務的な作業を評価するベンチマークでは、さらに目立つ結果が得られた。Automation-Bench、Agents' Last Exam、Apex Benchの3種類すべてで、1017版は比較表に掲載された4つの競合モデルを上回っている。単純なコード修正にとどまらず、複数のツールを使いながら一連の作業を進める能力でも、改善が見られる。

評価 V4.1 Flash旧版 1017版 K3 GLM-5.3 GPT-5.6 Sol Opus 5
Automation-Bench v1.0.6 54.8 60.5 46.7 48.8 45.8 50.3
Agents' Last Exam 31.8 35.4 27.6 28.5 26.7 28.6
Apex Bench v1.1 64.6 72.1 47.8 56.6 54.3 65.8

数値は1017版の公式モデルカードによるものだ。Agents' Last Examの開発チームは、長時間にわたる専門的な実務を、成果の検証が可能な形で評価することを目的としている。1017版はこのベンチマークで35.4を記録したが、一般的な職場の仕事を35.4%自動化できるという意味ではない。それでも、知識を問うだけの試験とは異なり、実際に作業を進める能力を評価する材料となる。

一方、高度な推論や視覚認識では競合との差が残る。難問を集めたHLE(Humanity's Last Exam)のツールなし評価では、旧版の36.8から42.6へ改善したものの、Opus 5の56.3には大きく及ばなかった。画像を扱うベンチマークでも旧版から得点を伸ばしているが、GPT-5.6 SolやOpus 5を一貫して上回っているわけではない。

評価 V4.1 Flash旧版 1017版 K3 GLM-5.3 GPT-5.6 Sol Opus 5
HLE・ツールなし 36.8(39.1†) 42.6(44.0†) 43.5 42.0† 44.5 56.3
Chartography・ツール使用 78.9 83.0 68.1 — 79.9 84.0
BabyVision・ツール使用 89.6 92.5 85.7 — 88.9 94.1
ZeroBench-main・ツール使用 49.0 51.0 41.0 — 53.0 52.0

数値は1017版モデルカードに基づく。†はHLEのテキストのみの部分集合を表し、「—」は比較表に数値が掲載されていない項目を示す。HLEの42.6とGLM-5.3の42.0は評価対象が異なるため、直接比較することはできない。また、公式更新履歴によると、ZeroBench-mainは5つの候補による成功を評価するPass@5を使用しており、1候補で測るPass@1とは区別する必要がある。

視覚系では、Chartographyが78.9から83.0へ、BabyVisionが89.6から92.5へと改善した。ただし、これらはツールを組み合わせたシステム全体の成績であり、モデル単体の画像理解能力を直接示すものではない。画像を正確に理解できたのか、それとも外部ツールを活用することで正しい答えに到達したのかは、分けて考える必要がある。また、評価結果には誤差や信頼区間が示されていないため、Opus 5に近い得点を記録したことだけで、両モデルの能力が同等だと結論付けることもできない。

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同じAIモデルでも実行環境によって成績は変わる

今回の性能改善を評価するうえで注意したいのが、AIエージェントを動かす実行環境の違いだ。旧版のモデルカードに掲載された比較では、同じV4.1 Flashを使ってDeepSWE v1.1を評価した場合でも、Codexで65.6、Claude Codeで69.8、mini-SWEで74.2と結果が異なっている。最も高いmini-SWEとCodexの差は8.6ポイントに達した。これは1017版の結果ではなく、9月版の同一モデルを異なる実行環境で評価した事例だ。

AIエージェントは、モデルに質問を入力して回答を受け取るだけの仕組みではない。ファイルの読み込みやコマンド実行などのツールを組み合わせ、作業履歴を管理しながら複数の工程を進める。ツールの呼び出し方法や、エラーが起きた際にモデルへ返す情報によっても、その後の判断や作業結果が変わる。このため、モデルカードに掲載された最高スコアが、自分の使っている開発環境でも再現されるとは限らない。

推論に割り当てる計算資源も、評価結果を左右する。旧版の競合比較では最大の推論設定が使われていたが、新版の比較表の脚注だけでは、すべてのモデルで推論予算や処理の反復回数が統一されていたかは確認できない。また、新版モデルカードには推奨サンプリング設定が記載されているものの、その設定が比較表のすべての測定に使われたことを保証するものではない。実際に導入を検討する際は、モデル名だけでなく、実行環境のバージョン、推論設定、課題の合格条件をそろえて比較する必要がある。

DeepSeek自身も今回の更新で、DeepSeek Harnessに加え、TencentのCodeBuddyとWorkBuddy向けの最適化を進めたと説明している。また、DeepSeek Harnessを0.2.1-rc.1以降へ更新することを推奨している。モデルだけを入れ替えて公表スコアの再現を期待するよりも、自分が利用するツールとの組み合わせで、作業品質や処理時間がどの程度変わるかを確かめることが重要だ。

API料金は据え置き、作業完了までの費用は下がる可能性

DeepSeek-V4.1 FlashのAPI料金は今回の更新でも据え置かれた。閑散時の料金は100万トークンあたり、新規入力が0.15ドル、出力が0.60ドルで、キャッシュに一致した入力は0.003ドルとなる。過去の会話や作業履歴を繰り返し参照するAIエージェントでは、キャッシュを再利用できた入力と、新たに処理する入力・出力を分けて費用を見積もる必要がある。

公式料金表で2026年10月17日に確認できる料金は以下のとおりだ。

100万トークンあたり Flash・閑散時 Flash・ピーク時 V4 Pro・閑散時 V4 Pro・ピーク時
入力・キャッシュに一致 0.003ドル 0.006ドル 0.022ドル 0.044ドル
入力・キャッシュに不一致 0.15ドル 0.30ドル 0.66ドル 1.32ドル
出力 0.60ドル 1.20ドル 1.98ドル 3.96ドル

ピーク時間は中国の祝日を除く月曜日から金曜日の日本時間10〜13時と15〜19時で、それ以外は閑散時料金が適用される。なお、現行のProモデルは「V4-Pro-0813」で、9月に告知されていた提供終了予定は撤回され、引き続き利用できる。

例えば、閑散時に新規入力100万トークン、キャッシュ済み入力100万トークン、出力10万トークンを使用した場合、Flashの料金は0.213ドル、V4 Proでは0.88ドルとなる。Flashは「0.15+0.003+0.60×0.1」、Proは「0.66+0.022+1.98×0.1」で算出した値だ。同じトークン量を処理する場合の料金差は明確だが、これはあくまで説明用の試算であり、同じ仕事を同等の品質で完了させた際の実測費用ではない。また、検索やコード実行など、エージェントの動作に必要な外部サービスや実行基盤の費用も含まれていない。

今回の効率改善は、こうした単価の違いとは別に費用削減につながる可能性がある。DeepSeekは、ベンチマークの成績を改善しながら、作業時間と出力トークン数を減らし、複数の実行環境で性能と費用の両立を図ったと説明している。出力トークン数が減れば、単価が同じでも出力に対する請求額は小さくなる。さらに、作業の失敗や修正のやり直しが減れば、一つの仕事を完了するまでの総費用も下げられる。ただし、公式モデルカードと更新履歴には処理時間やトークン数の具体的な削減率が掲載されておらず、今回の更新によって実際の支払額が何割下がるかは算出できない。

加えて、同日に公開された検索・ページ取得APIには、モデル本体とは別の料金体系がある。Search & Fetchガイドによると、検索とページ取得はいずれも成功1000件あたり0.75ドルで、失敗したリクエストや検索結果が空だった場合、タイムアウトした場合には課金されない。Harnessなどを通じて利用するサーバー側の検索・取得機能は現在無料だが、日本時間11月1日午前1時から従量課金が始まる。したがって、モデルのAPI単価が据え置かれていても、エージェントが使用する機能を含めた総費用まで変わらないとは限らない。

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公開モデルを自前で動かす際の技術的な条件

DeepSeek-V4.1-Flash-1017は、最大100万トークンのコンテキストと画像入力に対応するV4.1 Flashの小規模な更新版だ。9月版の基盤には、本体が5520億パラメータのMixture of Experts(MoE)アーキテクチャが採用されている。MoEは処理に応じて必要な部分だけを選択して動かす仕組みで、入力処理時には80億、出力処理時には160億パラメータが動作する。さらに、トークン列から情報を取り出す「Engram」と呼ばれる条件付きメモリを1960億パラメータ分備えている。9月版のモデルカードでは、モデル本体とEngramを区別して説明している。

また、入力と出力で処理構造を変える「Causal Encoder-Decoder」を採用し、大量の会話履歴や実行ログを繰り返し読み込む際の負荷を抑える設計となっている。過去の入力情報を保持するKVキャッシュも複数の層で共有することで、全体のコンテキストを扱うために必要な容量をV4-Flashの約4分の1に削減した。ただし、これは9月版で公表されたアーキテクチャ上の特徴であり、今回の1017版で新たに達成した削減率ではない。また、今回報告された出力トークン数の減少が、特定の構造や学習手法によって生じたと断定できる説明も公開されていない。

モデルの重みとリポジトリはMITライセンスで公開されているが、推論時に動作するパラメータ数が少ないからといって、モデル全体を保存するためのメモリ容量も小さくなるわけではない。同様に、KVキャッシュの容量が約4分の1になったという説明から、サーバー全体の必要メモリまで同じ割合で削減できるとは判断できない。自前の環境で動かす場合には、モデル本体と条件付きメモリを保持するだけでなく、画像入力やツール呼び出しの形式にも正しく対応した推論環境を用意する必要がある。

DeepSeekが公開した推論実装も、本番運用向けに最適化された配信エンジンではなく、コードの理解しやすさを重視した参照実装だと明記されている。Jinja形式の会話テンプレートは付属しておらず、Pythonによる参考実装や、会話形式を変換するための「deepseek-recipe」が案内されている。公開されたモデルを実際のサービスに組み込むには、推論を効率的に処理する仕組みを整え、使用するツールとの接続や動作を検証しなければならない。

今回の更新によって、DeepSeek-V4.1 Flashはコード修正やツールを使った実務的な作業で競争力を高めた一方、高度な推論や一部の視覚タスクでは依然として競合モデルとの差が残っている。導入の判断では、APIを利用する場合も自前で運用する場合も、既存の作業を同じ合格条件で評価し、品質を維持しながら処理時間と総費用を削減できるかを確認することが重要だ。その条件を満たす仕事が増えれば、低価格のFlashに任せられる範囲は、単発の質問への回答から、複数の工程を伴う長時間の作業へと広がる可能性がある。