fal Researchは2026年10月19日、Black Forest Labs(BFL)と共同開発した動画生成AIモデル「FLUX 3 Max」を公開した。BFLの基盤モデル「FLUX 3」を追加学習し、推論処理も最適化したもので、falの公表データによると、10秒の動画を生成する時間は従来の126.44秒から12.45秒へと短縮された。競合する「Seedance 2.5」と比較しても約22倍の速さだという。映像の品質や指示への追従性を改善しながら、動画制作で試行錯誤を繰り返す際の待ち時間を大幅に減らすことを目指している。
ただし、falが公表した生成時間と、実際に利用者が動画を受け取るまでの待ち時間は必ずしも一致しない。APIが返す推論時間には前後処理が含まれず、生成設定によっても処理速度は変わる。また、品質評価で上位に入ったのは画像から動画を生成する能力であり、文章から動画を生成する場合にも同じ評価が当てはまるとは限らない。実際の制作環境でどれほどの効果が得られるかは、こうした条件を踏まえて判断する必要がある。
追加学習と推論処理の最適化で生成時間を約10分の1に短縮
FLUX 3 Maxは、BFLが開発した基盤モデル「FLUX 3」をベースに、fal ResearchがBFLと協力して追加学習を施したモデルだ。falの公式説明によると、追加学習では映像の忠実度、動きの一貫性、プロンプトへの追従性を改善し、画像から動画を生成する際の品質向上にも取り組んだ。既存のモデルが習得した映像表現を土台に、さらに学習を重ねることで、生成結果の品質を高める狙いがある。
fal Researchは追加学習と並行して、学習済みモデルの推論処理も最適化した。モデルの実行方法を見直すことで、映像を生成するまでの時間を短縮し、一定時間内に処理できるリクエスト数も増やしたという。さらに、独自の推論エンジンを使い、モデルの実行を支えるシステムや配信処理も調整した。つまり、今回の高速化は追加学習だけによるものではなく、モデルの実行方法と周辺システムの改良を組み合わせた成果とされる。ただし、各工程が生成時間の短縮にどの程度寄与したかは公表されていない。
falが公開した比較表によると、10秒の動画を生成する平均時間は、従来のFLUX 3が126.44秒だったのに対し、FLUX 3 Maxは12.45秒となった。約10.2倍の高速化に相当する。同じ表ではSeedance 2.5が277.80秒とされており、FLUX 3 Maxは約22.3倍速い計算になる。比較対象はいずれも長さ10秒、アスペクト比16:9、解像度720pまたは768pの動画で、数値はfalが公表した条件下での平均生成時間だ。
こうした高速化が特に役立つと考えられるのは、映像制作で何度も生成を繰り返す場面だ。例えば、カメラの動きや被写体の演出を変更する場合、結果を確認してから次の指示を試すまでの時間が短ければ、その場で映像を調整しやすくなる。数分の待ち時間が十数秒に短縮されれば、制作工程の進め方にも影響する可能性がある。ただし、公表された平均値は特定の条件で測定されたものであり、サーバーの混雑時や異なる設定でも同じ速度が得られるとは限らない。
公表された12.45秒とAPIの推論時間は同じとは限らない
FLUX 3 Maxの速度を評価する際には、falの比較表にある「12.45秒」と、APIが返す推論時間を区別する必要がある。文章から動画を生成するAPIの仕様では、timings.inferenceという項目が、モデルが動画のノイズ除去処理に費やした時間を秒単位で表すと定義されている。動画生成AIでは、ノイズを段階的に除去しながら映像を作り上げる処理が中心となるが、動画が完成して利用者に届くまでには、それ以外の処理も必要になる。
falのAPI仕様には、timings.inferenceについて「プロンプト拡張、デコード、アップロードは含まない」と明記されている。プロンプト拡張は入力された指示を補完する処理で、デコードはモデルの計算結果を動画として扱える形式に変換する処理だ。生成された動画をアップロードする時間も推論時間には含まれない。したがって、APIが返す推論時間だけを見ても、利用者が動画を受け取るまでの総所要時間は分からない。
公開資料から確認できる時間の違いを整理すると、次のようになる。
| 時間の種類 | 測定対象・確認できる内容 | 利用時の注意点 |
|---|---|---|
| falの比較表にある12.45秒 | 10秒・16:9・720p/768pの動画を生成した平均時間 | 同じ比較表に掲載されたモデル間の比較に使えるが、APIの推論時間との対応は明記されていない |
APIのtimings.inference |
モデルが動画のノイズ除去に費やした計算時間 | プロンプト拡張、デコード、アップロードなどを含まない |
| リクエスト送信から動画取得までの時間 | 利用者がAPIへリクエストを送信してから、生成された動画を受け取るまでの時間 | 実際の利用環境と生成設定で測定する必要がある |
このように、falの比較表とAPI仕様では、時間の測定対象が必ずしも同じではない。12.45秒がそのままtimings.inferenceの値に相当するかどうかも明らかにされていないため、両者を同一視したり、不明な前後処理の時間を推測して加算したりすることは適切ではない。
生成速度に影響する設定としては、reasoning_levelもある。この項目ではlowとhighを選択でき、既定値はhighに設定されている。falは処理にかける計算量を増やすほど生成時間が長くなると説明しているものの、両設定で品質や速度がどの程度変わるかは明らかにしていない。そのため、公開された12.45秒という数値が、どの設定でも再現できると考えるべきではない。
なお、falのモデル紹介ページには、10秒の動画を「約11秒」で生成し、Seedance 2.5より「25倍以上高速」とする記述もある。専用ページの12.45秒、約22倍という数値とは異なるが、両者が同じ条件で測定されたものかは不明だ。これらを混同せず、比較する際には測定条件と数値の出典を確認する必要がある。
画像から動画を生成する品質評価では首位と統計的に並ぶ
生成速度だけでなく、映像の品質についてもfalは競合モデルと同等の水準に達したと主張している。その根拠として挙げているのが、AIモデルの性能比較を手がけるArtificial Analysisの「AA-Video-I2V v1.1」だ。この評価では、元になる画像から音声付きの動画を生成し、人間が2つの生成結果を比較してどちらを好むかを選ぶ。その結果をEloという相対的なスコアに換算し、各モデルの評価を算出している。
Artificial Analysisの評価表では、FLUX 3 Maxは1138 Eloで2位となり、首位のMiniMax H3は1140 Eloだった。上位3モデルの評価は以下のとおりだ。
| モデル | Eloスコア | 95%信頼区間 |
|---|---|---|
| MiniMax H3(768p) | 1140 | 1124〜1156 |
| FLUX 3 Max(720p) | 1138 | 1123〜1153 |
| Dreamina Seedance 2.5 | 1138 | 1121〜1155 |
Eloスコアの推定値ではMiniMax H3がわずかに上回っているものの、3モデルの95%信頼区間は大きく重なっている。信頼区間は推定値の不確かさを表すものであり、今回の数値だけではモデル間の小さな得点差を決定的な性能差とは判断できない。falがFLUX 3 Maxを「同率首位」と表現しているのも、上位モデルとの評価の差が明確ではないことを根拠としている。ただし、信頼区間が重なっているからといって、モデル間の品質が完全に同等だと証明されたわけではない。
falの専用ページに掲載された暫定評価では、FLUX 3 Maxが1139、MiniMax H3が1141となっており、Artificial Analysisの評価表とは数値がわずかに異なる。評価は投票数や集計時点によって変動するため、異なる時点の数値を比較してモデル自体の性能が変化したと結論づけることはできない。VentureBeatの10月19日付記事も、FLUX 3 Maxの高速化を紹介するとともに、上位モデルの信頼区間が重なっている点を指摘している。
もう一つ重要なのは、この評価が画像から動画を生成する「Image-to-Video」を対象としていることだ。FLUX 3 Maxは文章だけから動画を生成する機能も備えているが、今回の順位はその性能を直接評価したものではない。例えば、元画像に写った人物や商品の外観を維持しながら動きを付ける場合と、文章だけを頼りに場面全体を構成する場合では、求められる能力が異なる。品質を比較する際には、実際に利用する生成方式に合った評価結果を確認する必要がある。
文章・画像・キーフレームに対応、料金は11月7日まで75%引き
FLUX 3 Maxには、文章から動画を生成するText-to-Videoに加え、画像から動画を生成するImage-to-Videoと、複数のキーフレームを指定するKeyframes-to-VideoのAPIが用意されている。Image-to-Videoでは動画の開始画像を指定できるほか、終了時の画像も任意で設定できる。Keyframes-to-Videoでは最大10枚の画像を、それぞれ重複しないフレーム位置に配置し、動画の途中の場面も指定できる。
例えば、商品写真に動きを付けたい場合は開始画像を指定し、最後の構図まで決まっていれば終了画像も設定できる。動画の途中に特定の場面を挟みたい場合は、複数のキーフレームを使う方法が考えられる。なお、falの専用ページには、10月18日時点の情報として入力方式が2種類と説明されている箇所もあるが、現在公開されているAPI仕様にはキーフレーム方式も含まれている。利用できる機能を確認する際は、各APIの最新仕様を参照する必要がある。
生成できる動画の長さは5〜20秒で、1秒刻みで指定できる。既定値は5秒で、音声生成は標準で有効になっているが、必要に応じて無効化できる。アスペクト比は横長の16:9だけでなく、縦長の9:16や正方形の1:1などにも対応する。標準の解像度は720pで、1080pの出力も選択できる。ただし、1080pはアップスケーリングによって出力する方式であり、ネイティブ1080pで生成するモデルと品質を比較する際には、この違いに注意が必要だ。
料金については、falが2026年11月7日まで75%割引のキャンペーンを実施している。課金は生成された動画の長さに応じて行われ、推論に要した時間ではなく、出力動画の秒数によって料金が決まる。文章から動画を生成する場合と、画像から生成する場合の料金は同じとされている。falが掲載している料金を基に、10秒の動画を生成した場合の費用をまとめると以下のようになる。
| 出力解像度 | 割引期間中の秒単価 | 10秒動画の費用 | 通常料金での10秒動画の費用 |
|---|---|---|---|
| 720p | 0.0425ドル | 0.425ドル | 1.70ドル |
| 1080p(アップスケーリング) | 0.0725ドル | 0.725ドル | 2.90ドル |
通常料金は720pが1秒当たり0.17ドル、1080pが0.29ドルで、表の金額はそれぞれの秒単価に10秒を掛けて算出したものだ。割引期間中は比較的少ない費用で複数の案を試せるが、実際の制作では生成に失敗した映像を作り直す場合もあるため、必要な品質の動画を完成させるまでの総費用も考慮する必要がある。
FLUX 3 Maxの特徴は、動画の品質を維持・改善しながら、生成にかかる待ち時間を大幅に短縮したとされる点にある。ただし、falが示した高速化の数値だけでは、実際の制作環境でどれほど時間を節約できるかは分からない。導入を検討する場合は、動画の長さ、解像度、音声の有無をそろえ、reasoning_levelのlowとhighも比較したうえで、APIの推論時間と動画を受け取るまでの総所要時間をそれぞれ測定することが望ましい。
同じ条件で必要な品質の映像を安定して生成できるのであれば、FLUX 3 Maxの高速化は、動画制作における試行錯誤の進め方を変える可能性がある。今後は、実際の利用環境でも公表値に近い生成速度が得られるか、また、生成時間の短縮が映像の品質や制作コストにどのような影響を与えるかが注目される。



