SpaceXSIは2026年10月14日、音声を聞いて音声で返すAIモデル「Grok Voice 3.0」を公開した。独立評価機関Artificial Analysisの音声対話の総合指数で86.9を記録し、OpenAIとGoogleの比較対象モデルを上回っている。Voice Agent APIの料金は旧版と同じ1分0.08ドルだ。ただし、前世代から大きく伸びたのは顧客対応の課題を完了する能力で、応答開始までの時間はむしろ延びた。この得失を分けると、今回の首位が電話窓口の運営や音声アプリの開発に持つ意味が見えてくる。
総合点の伸びを支えた顧客対応
Grok Voice 3.0の総合指数は、前世代の81.3から86.9へ上昇した。Artificial Analysisが公開する比較表では、GPT-Live-1のAstra・medium設定が83.2、Gemini 3.8 Liveの拡張推論High設定が82.6となる。名前が同じモデルでも設定が違えば別の結果になるため、この条件を外して優劣を語ることはできない。
総合指数は、音声で出された問いを解く能力と、顧客対応を完了する能力を評価する。さらに、人が会話を好む度合いと、対象会話で最後のツール操作を正しく終えた割合を加えた、4要素の等重み平均だ。全要素の結果がそろったモデルだけに点数が付く。会話の間や割り込みを扱うFull Duplex Benchは、別に示される指標である。
| 指標 | Grok Voice 2.0 | Grok Voice 3.0 | GPT-Live-1(Astra・medium) | Gemini 3.8 Live(拡張推論High) |
|---|---|---|---|---|
| 総合指数 | 81.3 | 86.9 | 83.2 | 82.6 |
| 顧客対応のτ-Voice | 56.5% | 71.6% | 74.5% | 68.6% |
| 応答開始までの時間 | 0.70秒 | 0.81秒 | 1.34秒 | 1.35秒 |
出典はArtificial Analysisの公開比較表(2026年10月15日確認)。τ-Voiceは模擬顧客対応の成績、応答開始までの時間はBig Bench Audioでの測定値であり、別々の試験に基づく。τ-Voiceは可能な場合に3試行を平均する一方、GPT-Live-1のAstra設定は1試行の結果とされる。
総合指数の上昇5.6点のうち、τ-Voiceの改善だけで約3.8点分を説明できる。 τ-Voiceの新旧差は71.6−56.5=15.1ポイント。4要素を同じ重みで平均するので、総合点への寄与は15.1÷4=3.775、丸めれば約3.8点になる。公表値から算出した点数上の寄与であり、学習手法や現場の生産性がどれだけ改善したかを示す計算ではない。
τ-Voiceでは、音声の模擬顧客が航空券の変更や小売の請求、通信サービスの問題を持ちかける。AIは業務ツールと規則を使って処理し、最後のデータベースの状態が正解と一致するかで評価される仕組みだ。話が滑らかに続くだけでは点につながらず、依頼された処理を終える必要がある。
とはいえ、この試験ではGPT-Live-1の74.5%がGrokの71.6%を上回る。総合首位になったことと、個々の問い合わせを最も確実に解決することは同義ではない。人の好みを示す評価も、総合指数には公表時に固定した値が使われるため、更新され続ける会話人気順位から総合点を逆算すると食い違う。
1秒未満の応答と料金をどう比べるか
Grok Voice 3.0の応答開始は0.81秒で、旧版の0.70秒から0.11秒延びている。一方、比較対象のGPT-Live-1は1.34秒だから、差をGPT側の時間で割ると約40%短い。顧客対応の成績を引き上げつつ競合より短い待ち時間を保ったが、前世代に対してすべてが速くなったわけではない。
この時間は、Big Bench Audioで最初の音声トークンを生成するまでの平均である。電話回線を含む通話全体の待ち時間でも、τ-Voiceで用件を解決し終えるまでの時間でもない。窓口での体感を考えるなら、話し始めの速さと、処理が完了するまで利用者を待たせる時間を分けて確かめる必要がある。
料金の比較にも分母の違いがある。公式料金表は、Grok Voice 3.0を1分0.08ドル、1時間4.80ドルとし、テキスト入力1回につき0.004ドルも記載する。時間単価を据え置いたことは確認できるが、テキストを併用する実装では時間料金だけが請求額とはならない。
これに対し、Artificial Analysisの費用欄は、固定した40問を処理する費用を「入力音声の長さ」で1時間に換算したものだ。音声とテキストの入出力に加え、別途示される推論トークンを含み、ツール利用料とキャッシュ割引は含めない。その条件ではGrokが4.80ドル、GPT-Live-1のAstra設定が5.83ドル、Geminiの拡張推論High設定が3.50ドルとなる。
つまりGrokは、この比較対象のOpenAIモデルより安い一方、Googleモデルより高い。同じ4.80ドルという数字が並んでも、APIの時間料金と評価用音声から換算した費用は別物である。導入費用を見積もる際には、利用者が話す長さとAIが返す長さを含む、自社の通話に近い条件で比べたい。
Starlinkの実績と、業務評価が測るもの
SpaceXSIによると、StarlinkのコールセンターはGrok Voiceで1日2万件の問い合わせを多言語で受け、約70%を人の介入なしで解決している。Grok Voice 3.0を使うエージェントは、本人確認から機器のトラブル対応へ進み、クレジットの発行や交換機器の発送まで担うという。応答するだけでなく、契約や機器に関わる処理を最後まで進める導入例だ。
ただし、70%は同社の実績報告であり、新版への更新だけで達成した改善率ではない。発表文は集計期間や問い合わせの構成、再問い合わせ率を示しておらず、別の企業の窓口でも同じ割合を達成できるとは限らない。
企業向け評価のEVA-Benchでも、同社はGrok Voice 3.0の正確さが74%で首位だったと発表した。ServiceNow AI ResearchのEVAは、模擬ボット同士で複数往復の音声会話を行い、業務を正しく完了したかと、会話体験が良かったかを分けて評価する。航空券変更などの顧客対応が50シナリオ、社内IT支援が80、人事関連が83という構成である。
EVAの設計から分かるのは、会話の印象と業務結果を別々に測る理由だ。聞き取りやすく応答しても処理を誤れば窓口の仕事は終わらず、正しい操作でも何度も聞き返せば利用者は待たされる。Starlinkの報告は実運用の規模を示し、模擬試験は条件をそろえた比較に役立つ。それぞれが答える問いは異なる。
既存APIはすでに切り替わっている
grok-voice-latestを使う既存のセッションは、すでにGrok Voice 3.0へ切り替わっている。開発文書によれば、接続先やセッションのパラメーター、イベントの仕様は旧版と共通だ。Grok Voice 2.0は非推奨となり、版名を直接指定している場合にはgrok-voice-3.0への変更が案内されている。
APIの互換性が保たれていても、モデルの受け答えまで同一とは限らない。開発文書は、本番の安定性のために「版を指定したモデル名に固定する」ことを勧める。今回のように最新を指す名前が更新されれば、アプリ側のコードを変えなくても、返答の内容やタイミングを確かめ直す理由が生じる。
一方、OpenAI Realtimeから移行する場合の案内では、システムプロンプトを短くし、GPTモデルの不具合や制約を回避するためだけに足した指示を取り除くよう勧めている。推論は標準でreasoning.effortがhighになり、noneにすれば無効にできる。この設定と応答時間の関係は自社の用件で測るべきで、公開表の速度差を推論設定だけの影響と決めつけることはできない。
対応言語には日本語も含まれる。日本語の電話窓口に採用するなら、実際の問い合わせを使い、モデルの版と設定を固定して、用件の完了率と応答の待ち時間を同時に比べることになる。両方が必要な水準を満たせば、今回伸びた顧客対応能力を、人へ引き継ぐ通話を減らすために生かせる可能性がある。



