Intelが長年開発を進めてきた次世代モバイルプロセッサー「Lunar Lake」が、ついに正式発表された。「Core Ultra シリーズ2」として市場に投入されるこの新プロセッサーは、高性能と省電力性を両立させ、AIの処理能力を大幅に向上させたIntelの意欲作だ。この発表は、モバイルコンピューティング市場に大きな波紋を投げかけている。
Core Ultra シリーズ2の登場により、IntelはQualcommのSnapdragon X EliteやApple Silicon、そしてAMDの新しいRyzen AI 300シリーズとの競争に本格的に参入する。特筆すべきは、Core Ultra シリーズ2がx86アーキテクチャを採用しながらも、Armプロセッサーに匹敵する電力効率を実現したことだ。これは、長年x86アーキテクチャの弱点とされてきた電力効率の問題に対する、Intelからの力強い回答と言える。
さらに、AI処理能力においても、Core Ultra シリーズ2は業界トップクラスの性能を誇る。Intelは、プラットフォーム全体で最大120 TOPS(1秒あたりの演算回数)のAI処理性能を実現したと発表しており、これはQualcommやAMDの最新チップを上回る数字だ。この高いAI処理能力は、今後ますます重要性を増すオンデバイスAI処理において、大きなアドバンテージとなるだろう。
Core Ultra シリーズ2の革新的なアーキテクチャ
Core Ultra シリーズ2の最大の特徴は、その革新的なアーキテクチャにある。Intelは従来のPコア(パフォーマンスコア)とEコア(効率コア)の設計を一新し、8コア構成(4Pコア + 4Eコア)でありながら、前世代の16コア/22スレッド構成に迫る性能を実現した。この大胆な設計変更により、チップの小型化と電力効率の向上を同時に達成している。
具体的な性能向上としては、スレッドあたりの性能が最大3倍、全体的な性能が最大80%向上したという驚異的な数字が報告されている。これは、コア数を減らしながらも、各コアの性能を大幅に向上させることで実現された成果だ。特に、新しいLion Cove PコアとSkymont Eコアの採用が、この性能向上の鍵となっている。
電力効率の面でも、Core Ultra シリーズ2は大きな進歩を遂げている。Intelの試験では、Core Ultra 7 268Vを搭載したデバイスで最大20.1時間のバッテリー駆動が可能だとしている。これは、QualcommのSnapdragon X Eliteを約2時間上回る結果だ。さらに、Microsoft Teamsのビデオ通話テストでも、Core Ultra シリーズ2はSnapdragon X Eliteを上回る持続時間を記録している。
パフォーマンスの面では、Intelは Core Ultra シリーズ2が競合製品を凌駕する性能を持つと主張している。特に、単一スレッドの性能ではSnapdragon X Eliteに対して20%から64%の優位性があるとし、AMDのStrix Point「Ryzen AI 9 HX370」に対しても3%から33%の優位性があるとしている。これらの数字は、実際のデバイスでの検証が待たれるところだが、IntelがCore Ultra シリーズ2に込めた自信の表れと言えるだろう。
また、Intelは競合他社との比較において、ソフトウェアの互換性も強調している。特に、QualcommのArmベースのチップでは動作しない一部のゲームやアプリケーションが、Core Ultra シリーズ2では問題なく動作するという点を挙げている。これは、x86アーキテクチャの長年の蓄積がもたらす利点であり、多くのユーザーにとって重要な選択基準となる可能性がある。
新たな“Battlemage” Xe2 GPUの採用
Core Ultra シリーズ2の革新は、CPUアーキテクチャだけにとどまらない。新しいXe2 “Battlemage”グラフィックスアーキテクチャの採用により、統合GPUの性能も大きく向上している。Intelによれば、グラフィックス性能は前世代から平均30%向上しており、これにより薄型軽量なノートPCでもカジュアルなゲーミングやクリエイティブ作業が快適に行えるようになる。
具体的には、Xe2グラフィックスは8つのXe2コアと8つのレイトレーシングコアを搭載し、4K解像度で最大3つのディスプレイ出力をサポートする。また、様々な4Kビデオコーデックの効率的なサポートも実現している。これらの改良により、ビデオ編集やグラフィックデザインなどのクリエイティブ作業においても、Core Ultra シリーズ2搭載デバイスの活躍が期待される。
さらに、Xe2グラフィックスはAI処理能力の向上にも貢献している。Intelによれば、Xe2グラフィックスは最大67TOPSのAI処理性能を提供するという。これは、画像処理や動画編集におけるAI支援機能の性能向上に直結する。また、IntelのAI駆動型アップスケーリング技術であるXeSSの性能向上にも寄与しており、ゲーミング体験の質を高めることが期待される。
電力効率の面でも、Xe2グラフィックスは大きな進歩を遂げている。例えば、4Kビデオのハードウェアデコーディング時の消費電力が、前世代の24Wから2.5Wへと劇的に低減されている。これにより、高解像度ビデオの再生時でもバッテリー寿命を大幅に延ばすことが可能となった。
Core Ultra シリーズ2におけるAI処理能力の強化も、特筆に値する。新しいNPU(Neural Processing Unit)の搭載により、プラットフォーム全体で最大120 TOPSのAI処理性能を実現している。これは、CPU、GPU、NPUの総合力であり、特にNPUは最大48 TOPSの処理能力を持つ。この数字は、競合他社の製品を上回るものだ。
NPUの性能向上により、Core Ultra シリーズ2を搭載したデバイスは全て「Copilot+ PC」として認定される。これは、Microsoft Copilotなどの高度なAI機能をオンデバイスで快適に利用できることを意味する。具体的には、リアルタイムの言語翻訳、高度な画像処理、自然言語処理などのAIタスクを、クラウドに頼ることなく高速に処理できるようになる。
また、Intelは、Core Ultra シリーズ2のAI処理能力がより高精度な演算にも対応していることを強調している。具体的には、FP16(16ビット浮動小数点)命令のサポートを挙げており、これはAMDやQualcommのチップがINT8(8ビット整数)までしかサポートしていないことと対比させている。この高精度演算のサポートは、科学技術計算やディープラーニングなど、より高度なAIアプリケーションでの優位性につながる可能性がある。
Dell、HPらが9月24日から搭載デバイスを発売
Core Ultra シリーズ2の市場投入に関しては、2024年9月24日から搭載デバイスの出荷が開始される予定だ。この早期の市場投入は、Intelが競合他社に対して攻勢をかける姿勢の表れと言える。すでに、Dell、Lenovo、HP、Acer、ASUSなど主要PCメーカーから、Core Ultra シリーズ2を搭載した新モデルが続々と発表されている。
具体的な製品としては、Dellの新XPS 13やHPのOmniBook Ultra Flip 14などが早くも予約受付を開始している。これらの製品は、Core Ultra シリーズ2の性能を最大限に引き出すべく設計されており、薄型軽量でありながら高い処理能力と長時間のバッテリー駆動を実現している。また、これらの製品の多くは、Intelの新しい「Intel Evo」規格にも適合しており、クールで静かな動作、即時の起動、長時間のバッテリー駆動、ハードウェアセキュリティ機能、将来性のある接続性、高い持続可能性基準などが保証されている。
Core Ultra シリーズ2は、全部で9つのSKU(製品型番)がラインナップされている。内訳としては、フラッグシップのCore Ultra 9が1つ、4つのCore Ultra 7、そして4つのCore Ultra 5からなる。全てのSKUが8コア構成を採用しており、最大3つのThunderbolt 4ポート、Wi-Fi 7、Bluetooth 5.4、オンチップLPDDR5XメモリといったIGPメモリーをサポートしている。最大のターボ電力は37Wに設定されており、これはモバイルデバイスにおける高性能と電力効率のバランスを考慮した結果だと考えられる。
ただし、一部の期待されていた機能が含まれていない点も指摘されている。例えば、Thunderbolt 5のサポートがないことや、オンボードメモリの容量が16GBと32GBの2種類に限定されていることなどだ。これらの点については、将来のアップデートで対応される可能性もあるが、現時点では明確な情報は提供されていない。
Core Ultra シリーズ2の登場により、ハイエンドノートPC市場に新たな活気が生まれることは間違いない。特に、AIの処理能力が重視される現在のトレンドにおいて、Core Ultra シリーズ2の高いAI性能は大きな魅力となるだろう。また、x86アーキテクチャの互換性を維持しながら、Armプロセッサーに匹敵する電力効率を実現したことで、Intelは従来のユーザーベースを維持しつつ、新たな市場セグメントへの参入も狙えるポジションを確立したと言える。
Intelによる性能の主張は素晴らしい物があるが、今後は実機での性能検証や長期的な使用感の評価が待たれるところだ。特に、Intelが主張する性能や電力効率が実際の使用環境でどの程度実現されるか、そしてソフトウェアエコシステムがどの程度Core Ultra シリーズ2の能力を活用できるようになるかが注目ポイントとなる。また、QualcommやAMDといった競合他社がどのような対抗策を打ち出すかも、モバイルプロセッサー市場の今後の動向を占う上で重要な要素となるだろう。
Core Ultra シリーズ2の登場は、単にIntelの新製品というだけでなく、モバイルコンピューティングの新時代の幕開けを告げるものだと言える。高性能と省電力性の両立、強力なAI処理能力、そして幅広いOEMパートナーとの協力関係により、Intelは今後のPC市場において強力な競争力を持つことになる。ユーザーにとっては、より高性能で効率的なデバイスが手に入るチャンスが広がったと言えるだろう。
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