Linuxのnetdevメーリングリストでは2026年4月20日から、保守負荷の高い古いネットワーク関連コードを削除またはツリー外へ切り出す提案が続いている。Andrew Lunn氏が4月21日に投稿した旧式Ethernetドライバ18本の削除案も、その流れの上にある。しかも同じスレッドでは、3c59xについて現行利用を申告する返信が当日中に付いた。少なくともこのドライバについては、「明確なユーザーが見えないコード」と一括りにする説明が難しくなっている。

Lunn氏の投稿は[PATCH net 00/18] Remove a number of ISA and PCMCIA Ethernet driversという件名で、27,646行を削ると説明している。対象には3c509、3c515、3c574、3c589、3c59x、amd系、smsc系、cirrus系、xircom、8390系などが含まれる。4月21日時点ではあくまで削除提案の投稿段階であり、Linuxカーネルへ既に反映された変更ではない。

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Lunn氏の削除案は18本・27,646行:理由はAIとfuzzerによる負荷増加と利用実態の不透明さ

Lunn氏が4月21日のカバーレターで示した理由は比較的明確である。旧式ドライバは最近まで大きな保守負荷ではなかったが、最近はAIやfuzzerを使う新規参加者が問題を見つけるようになり、保守作業が増えているという説明だ。そのうえで、実際にユーザーがいるか分からないドライバを修正し続ける意味は薄いという認識を示した。

この説明に含まれている論点は、AI単独ではない。Lunn氏自身の文面に即してまとめるなら、AIとfuzzerを使った問題報告の増加、そしてユーザーが不明なコードの扱いが争点である。削除対象の範囲は「ISAおよびPCMCIAのEthernetデバイス」と整理され、複数ドライバを一括で落とす方針が示された。

Lunn氏は同日フォローアップで、本来は18本のシリーズだが、b4 sendeximの組み合わせで10本に切り詰められたようだと補足している。これはシリーズの趣旨を変えるものではないが、投稿がまだ調整過程にあることを示している。

旧式NICだけの話ではなく、前日にはhamradioとATMでも削除提案が出ていた

この18本削除案をold Ethernetだけの個別案件として扱うと、netdev側の動きは見えにくい。実際には前日の4月20日、Jakub Kicinski氏がAX.25/hamradio系とATM系の削除提案を連続して投稿していた。時系列で見ると、4月21日のLunn案は、netdevが保守の難しい領域をまとめて整理し始めた流れの延長線上にある。

hamradio/AX.25の提案では、Kicinski氏は長年のbug/syzbot magnetであり、AI生成のバグ報告流入にも十分に対応できなかったと述べたうえで、コードをmod-orphanへ移す方針を示した。ここでは保守者の負担と、ツリー内に残し続けるコストが正面から理由として書かれている。

ATM側の提案では、未使用プロトコル群とレガシーATMデバイスドライバを削除する一方、ATM core、PPPoATM、USB DSLモデムドライバはDSL接続維持のため残すとした。つまり4月20日の整理は「古いものを全部消す」という処理ではなく、依存関係や現行用途を見ながら残す部分と落とす部分を分ける形で進んでいる。さらに4月21日には、lec_atm_closeに関するsyzbot報告もnet-next向けに流れており、古いネットワーク機能群が継続的な報告対象になっている状況も確認できる。

この文脈を踏まえると、4月21日の旧式Ethernet削除案は、AIを見出しにした単発の話というより、netdevが保守不能領域を削る波の一部として位置づけられる。

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3c59xは「ISA/PCMCIAの古いNIC」という整理に収まりきらない

今回のスレッドで重要なのは、Byron Stanoszek氏が3c59xについて現役利用を申告した点である。Stanoszek氏は、3Com 3C905-B/CXを搭載した産業用PCの数百台規模の導入で3c59xを現在も使っており、Linuxカーネルも年1回程度は最新へ更新していると書いた。これで直ちに削除方針が変わったとまでは言えないが、少なくとも3c59xについては、明確な利用者が見えないドライバと説明することが難しくなった。

この返信が重要になるのは、Lunn氏の冒頭整理と3c59xのカバー範囲にずれがあるためである。3c509系の文書は3c509と3c589をISA/PCMCIA系として整理している一方、3c59x向けのVortexドライバ文書は3c900系、3c905系、CardBus製品群まで含む。3c59xは削除対象リストの中では、単純にISAまたはPCMCIAだけのドライバとして説明しにくい位置にある。

この点は、今回の提案を読むうえで重要である。3c59xを削除対象へ入れる判断と、「ISAおよびPCMCIAの古いEthernetデバイス」という総括の間には、少なくとも対象範囲のずれがある。そこへ現行利用の申告が加わったことで、18本をひとつの類型としてまとめる説明には補足が必要になった。

2025年のXircom対応を見ると、突然の方針転換ではなく従来基準の延長にある

Lunn氏の4月21日の投稿は、netdevがこの日に初めて旧式コードの扱いを厳しくしたことを意味しない。2025年8月、Xircom向けのクリーンアップ提案に対し、Lunn氏は実機なしの変更は壊しやすく、得るものがなく、レビュー時間を浪費するとして否定的な見解を示していた。旧式ハード向けコードは、実機を持つ側が責任を持って扱うべきだという基準が、以前から存在していたことになる。

今回の18本削除案は、その基準がより強い形で表れたものと位置づけられる。利用実態がはっきりせず、AIやfuzzerによって問題報告が増えるコードを、誰が引き受けるのかという問いが前面に出たためである。一方で、3c59xには現役利用の申告が付いた。これにより、少なくとも対象全体を一律に「ユーザー不明の旧式ドライバ」と整理することは難しくなった。

4月20日のATM削除案が依存部分を残し、hamradio/AX.25案がmod-orphanという出口を用意したように、netdevの整理は削除か維持かの二択では進んでいない。4月21日のold Ethernet案でも、今後の論点は古さそのものより、どのドライバに現行利用があり、誰が保守責任を担えるのか、対象をどこまで切り分けられるのかに集まる。


Sources