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Metaが新たなスマートグラス「Oakley Meta HSTN」を発表:AIスマートグラスはアスリートの“目”になるか? 3K録画・8時間駆動でGoProに挑む

Y Kobayashi

2025年6月21日

MetaがRay-Banとの成功に続き、スポーツアイウェアの巨人Oakleyと提携し、新カテゴリー「パフォーマンスAIグラス」を打ち出した。3K動画撮影、8時間駆動という飛躍的進化を遂げた「Oakley Meta HSTN(ハウストン)」。これは単なる新製品か、それともウェアラブルの未来を塗り替える一手なのだろうか。

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Ray-Banを超える「パフォーマンスAIグラス」の誕生

Oakley Meta HSTN」は、先行する「Ray-Ban Meta」の成功を土台としながらも、その性能をあらゆる面で凌駕する「パフォーマンスAIグラス」という新たなカテゴリーを標榜する。その進化は、スペックシートの数字に明確に表れている。

スペックOakley Meta HSTN (New)Ray-Ban Meta (従来モデル)進化点
動画解像度3K (Ultra HD)1080pより鮮明で高精細な映像記録が可能に
カメラ12MP (超広角)12MP (超広角)解像度向上によりセンサー性能を最大限に活用
バッテリー通常使用で最大8時間通常使用で最大4時間2倍の持続時間で長時間の活動に対応
充電ケース最大48時間分の追加充電最大32時間分の追加充電ケース併用で2日以上の利用が可能に
充電速度20分で50%充電短時間での急速充電に対応
防水性能IPX4IPX4汗や雨しぶきに対応するスポーツ仕様

最大の注目点は、カメラ性能の劇的な向上だ。解像度が1080pから3Kへと引き上げられたことで、アスリートは自身のパフォーマンスや、目の前に広がる絶景を、これまでにない臨場感と精細さで記録できるようになった。これは、ハンズフリーで高品質な一人称視点(POV)映像を求める市場、すなわちGoProなどが君臨してきたアクションカメラの領域への、Metaからの明確な挑戦状と言えるだろう。

さらに、バッテリー駆動時間が最大8時間へと倍増したことは、実用性を飛躍的に高める。トレーニング、ハイキング、あるいは丸一日のイベントでも、バッテリー切れを気にすることなく利用できる。IPX4等級の防水性能は、激しい運動で流れる汗や、突然の雨にも耐えうる設計であり、まさに「パフォーマンス」の名に恥じない堅牢性を備えている。

なぜOakleyなのか? Metaの野心と市場戦略

Ray-Ban Metaが記録した数百万台という販売実績は、Metaにとって、AIスマートグラスがニッチなガジェットではなく、マス市場に受け入れられる可能性を証明した重要な成功体験となった。その成功を足がかりに、Metaが次なるターゲットとして見据えたのが、より専門的で、ユーザーのエンゲージメントも高いスポーツ市場である。

この戦略において、Oakley以上のパートナーは存在しなかっただろう。1975年の創業以来、Oakleyは革新的なテクノロジーと未来志向のデザインで、スポーツアイウェアの代名詞であり続けてきた。MetaとOakley、そして両社の親会社であるEssilorLuxotticaとの強固なパートナーシップは、単なるブランドの貸し借りではない。

EssilorLuxotticaの最高ウェアラブル責任者であるRocco Basilico氏が語るように、これは「ライフスタイル、コミュニティ、そしてユースケースにまたがるコネクテッドアイウェアのカテゴリーを構築するという、我々の野心の規模を反映した、より広範な多ブランド・多技術戦略の一部」なのだ。この発言は、今後、同じくEssilorLuxottica傘下にあるPradaなど、他のブランドからもAIグラスが登場する可能性を示唆しており、Metaがアイウェアというプラットフォームを通じて、人々の生活のあらゆるシーンにAIを浸透させようとする壮大な計画を窺わせる。

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「見る」だけじゃない。「考える」アシスタント、Meta AI

Oakley Meta HSTNの心臓部には、もちろん「Meta AI」が搭載されている。「Hey Meta」というウェイクワードで起動するこのAIアシスタントは、単なる音声操作ツールではない。内蔵されたカメラで「見た」情報をリアルタイムに理解し、対話できるマルチモーダルAIであることが、その真価だ。

Metaが提示するユースケースは、アスリートの日常に深く根差している。

  • ゴルフのラウンド中: 「Hey Meta、今日の風はどれくらい強い?」と尋ねれば、即座に風速情報を得られる。
  • スケートボードのセッション中: 「Hey Meta、ビデオを撮って」の一言で、完璧なトリックの瞬間をハンズフリーで記録し、そのままSNSに投稿できる。

これらはほんの一例に過ぎない。将来的には、自身のフォームをAIに分析させたり、目の前のトレイルの難易度を尋ねたりといった、より高度なインタラクションが期待される。Oakley Meta HSTNは、単にアスリートの「目」を記録するだけでなく、パフォーマンスを向上させるための「思考する」パートナーとなりうるポテンシャルを秘めているのだ。

デザインとテクノロジーの融合:OakleyのDNA

このスマートグラスが単なる「カメラ付きメガネ」と一線を画すのは、Oakleyが50年にわたり培ってきたデザイン哲学と技術の結晶が注ぎ込まれているからに他ならない。

ベースとなったのは、Oakleyの人気フレーム「HSTN」。その大胆かつ洗練されたデザインはそのままに、スマートグラスとしての機能がシームレスに統合されている。

特筆すべきは、Oakley独自の「PRIZM™レンズテクノロジー」の採用だ。これは、人間の脳と目が光をどのように処理するかをデコード(解読)することで生まれた革新技術。光のスペクトルを分子レベルで微調整し、特定の色やコントラストを強調することで、着用者は景色の細部をより鮮明に認識できる。これにより、アスリートはより速く反応し、最高のパフォーマンスを発揮することが可能になるという。

フレーム素材には植物由来の軽量素材「BiO-Matter」、鼻パッドには汗などの水分でグリップ力を増す特殊素材「Unobtainium®」を採用するなど、細部に至るまでアスリートのための機能性が追求されている。

製品ラインナップは、通常モデル6種類に加え、Oakleyの50周年を記念したゴールドのアクセントと24K PRIZM™偏光レンズが特徴の限定版も用意される。

  • 限定版 Oakley Meta HSTN (50周年記念モデル): $499 USD (7月11日予約開始)
  • 通常版コレクション: $399 USD~ (2025年夏後半発売)
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覇権を狙うMetaと、避けられぬプライバシーという壁

Metaの動きは、まさに黎明期を迎えつつあるスマートグラス市場の覇権を握るための布石だ。市場調査会社Counterpoint Researchは、2025年に「数百のスマートグラス戦争」が勃発すると予測。GoogleがWarby Parkerと、Snapが自社開発で、そして水面下ではAppleやSamsungも開発を進めていると噂される中、MetaはEssilorLuxotticaとの提携という強力なカードで先行する構えだ。

しかし、この技術の普及には、巨大な壁が立ちはだかる。プライバシーの問題である。

常時装着可能なカメラという存在は、利便性と引き換えに、ユーザー自身と周囲の人々のプライバシーを常に脅かす可能性をはらむ。録画中であることを示すLEDインジケーターは搭載されているものの、それが社会的な合意形成の決定打となるとは考えにくい。

さらに、Metaのデータ収集ポリシーに対する懸念も根強い。ユーザーがMeta AIに話しかけた音声データがどのように扱われるのか。視覚情報を含むデータがどのように利用されるのか。ユーザーは、この便利なデバイスと引き換えに、自身の最もプライベートな情報の一部を巨大テック企業に差し出しているという現実を直視する必要があるだろう。

Oakley Meta HSTNの成功は、技術的な革新性やデザインの魅力だけで決まるのではない。Metaがこのプライバシーという巨大な壁に対し、いかにしてユーザーと社会の信頼を勝ち得ることができるか。その一点にかかっていると言っても過言ではない。この挑戦は、フレームの耐久性と同じくらい、あるいはそれ以上に強固な信頼の基盤を築くことができるかどうかの戦いなのである。


Sources

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