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Google、次世代デザイン言語「Material 3 Expressive」を正式発表: Pixelから始まるデザインの大変革

Y Kobayashi

2025年5月14日

Googleは、AndroidおよびWear OSの次世代デザイン言語「Material 3 Expressive」を正式に発表した。これは、4年前に登場した「Material You (Material 3)」をさらに進化させ、より感情に訴えかけ、直感的で、ユーザーを惹きつける体験を目指すものとなっている。4年ぶりとなる大規模なデザイン刷新は、次世代Android体験をどう変えるのだろうか?

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Material 3 Expressiveとは? – Androidデザイン哲学の次なる到達点

Material 3 Expressiveは、Googleが「M4ではない」と明言するように、既存のMaterial 3を置き換えるものではなく、その延長線上にある「進化形」である。 Googleによれば、この新デザイン言語の核となるのは「感情的インパクト」。ユーザーがデバイスを単なるツールとしてではなく、自己表現の一部として捉える現代において、インターフェースが感情を喚起し、繋がりを育むことの重要性を強調している。

この思想は、Googleが実施した大規模なユーザー調査に裏打ちされている。46件の研究、18,000人以上の参加者から得られた知見によると、表現力豊かなデザインは年齢を問わず好まれ、「遊び心」「エネルギー」「創造性」「親しみやすさ」といった項目で従来のデザインを凌駕する評価を得た。 さらに驚くべきは、重要なUI要素をユーザーが発見する速度が、表現力豊かなスクリーンでは最大4倍も向上したというデータである。 つまり、美しさだけでなく、実用性においても大きな進歩が期待されるというのだ。

一部では、特に米国の若年層iPhoneユーザーへのアピールが狙いではないかとの指摘もあるが、Googleのデザインチームは、より普遍的なユーザーエンゲージメントの向上を目指していると強調している。

何が変わる? Material 3 Expressiveがもたらす6つの主要な進化

では、具体的にMaterial 3 ExpressiveはAndroidの体験をどのように変えるのであろうか? 主な進化点を6つに分けて見ていこう。

1. 生命を吹き込む「スプリングモーション」と心地よい触覚フィードバック

おそらく最も体感しやすい変化は、アニメーションとインタラクションであろう。「弾むような(springy)」と表現される新しいアニメーションは、物理法則に基づいた「スプリングシステム」(空間スプリングとエフェクトスプリング)によって制御され、より自然で滑らかな動きを実現する。

例えば、通知をスワイプして消去する際には、心地よい触覚フィードバック(ハプティックランブル)と共に、隣接する他の通知も微かに反応するような演出が加わる。 アプリの切り替え、音量スライダーの操作、通知シェードの展開など、日常的な操作の隅々に、この生き生きとした動きが取り入れられる予定である。

2. 個性を際立たせる「ダイナミックカラー」と洗練された「背景ぼかし」

Material Youで導入された、壁紙の色に合わせてUIカラーが変化する「ダイナミックカラー」は、Material 3 Expressiveでさらに進化する。より鮮やかで大胆な色彩が用いられ、UI要素間の視覚的な分離と階層構造が明確になる。 これにより、ユーザーはインターフェース上の情報をより直感的に理解できるようになるであろう。

また、クイック設定パネルや通知シェード、最近使ったアプリ画面などでは、背景に「ぼかし効果」が適用される。 これにより、手前のコンテンツが際立ち、奥行きのある洗練された印象を与えると同時に、ユーザーが現在地を見失わないようにコンテキストを維持する効果も期待される。

3. 情報を伝える力を高める「強調タイポグラフィ」

文字情報の伝え方も大きく変わる。ヘッダーと本文テキストのコントラストが強化され、フォントの太さやサイズにもメリハリがつくことで、情報階層がより明確になる。 これにより、ユーザーは重要な情報やアクションを素早く認識できるようになるであろう。Googleは、可変フォントと静的フォントの両方で新しいスタイルを提供し、より表現力豊かで読みやすいタイポグラフィを目指している。

4. UIを彩る「新シェイプライブラリ」と「モーフィングアニメーション」

Material 3 Expressiveでは、新たに35種類のシェイプ(形状)からなるライブラリが提供される。 これらはアバターの形、画像のクロップ、ボタンの形状などに活用され、アプリの個性を際立たせるのに役立つであろう。さらに、ある形状から別の形状へと滑らかに変化する「シェイプモーフィングアニメーション」も導入され、視覚的な楽しさと共に、UIのダイナミックな変化をユーザーに伝える。 アプリのアイコンが星形やダイヤモンド形といった、より特徴的な形になる可能性も示唆されている。

5. 機能美を追求した「新旧コンポーネント群」

UIを構成する基本的な部品であるコンポーネントも大幅に刷新される。「ボタングループ」「FAB(フローティングアクションボタン)メニュー」「ローディングインジケーター」「分割ボタン」「ツールバー」といった新しいコンポーネントが追加されるほか、「アプリバー」「カルーセル」「アイコンボタン」「ナビゲーションバー」など既存の15のコンポーネントも、より設定の自由度が高まり、表現力豊かなデザインに対応できるようアップデートされる。

6. より直感的に進化した「システムUI」

Androidの心臓部とも言えるシステムUIにも、ユーザーフレンドリーな変更が加えられる。

  • クイック設定: ユーザーがタイルをサイズ変更したり、より多くのコントロールを1画面にピン留めしたりできるようになる。 これにより、Wi-FiやBluetoothといった日常的によく使う設定へのアクセスが格段に向上するであろう。
  • Live Updates: iOSの「ライブアクティビティ」に似たこの新機能は、フードデリバリーの到着時間、ナビゲーションの経路案内、配車アプリの車両到着情報などを、ロック画面、ステータスバー、クイック設定にリアルタイムで表示する。 アプリを開かずに重要な情報を確認できるため、利便性が大幅に向上すると期待される。
  • その他: ステータスバーのアイコンデザインも刷新され、ロック画面の要素配置も一部変更されるとのことである。
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Gmail、Fitbit、Googleフォトから順次展開へ

Googleは、自社製アプリにもMaterial 3 Expressiveを順次展開していく計画だ。その初期の例として、Gmail、Fitbit、GoogleフォトのUI変更案が示されている。

  • Gmail: 受信トレイのメッセージリストが角丸のカード型UIに表示され、アーカイブなどのスワイプ操作時にはより顕著なアニメーションが伴う。検索フィールドやアカウント切り替えボタンなどは、より鮮やかな背景レイヤー上に配置され、視認性が向上。「作成」FABも従来より大胆なデザインになる。
  • Fitbit: 個々の統計ページ(歩数など)のデザインが刷新される。日・週・月・年といった期間切り替えタブが、画面下部のフローティングUIに変更され、片手での操作性が向上する。目標達成時のグラフはよりカラフルになり、達成マークも目立つマテリアルシェイプで表示される。
  • Googleフォト: アルバムの全画面表示では、共有、写真の追加、編集といった操作を行うツールバーがフローティング形式で表示されるようになる。これにより、従来画面上部に固定されていたUIよりも、コンテンツに集中しやすくなるであろう。

これらの変更は、Material 3 Expressiveが単なるOSレベルの変更に留まらず、日々のアプリ体験にも深く浸透していくことを示唆している。

いつ、どのデバイスで? – 提供ロードマップとWear OSへの展開

気になるMaterial 3 Expressiveの提供スケジュールだが、Android 16と共に提供されるものの、2025年6月に予定されているAndroid 16の初期安定版リリースには含まれない。

Googleによると、今年後半にまずPixelデバイス(Pixel 9シリーズを含む)向けにアップデートとして提供が開始される予定である。 その後、GmailやGoogleフォトといったGoogle製アプリにも順次展開される。

いち早く新デザインを体験したいユーザーにとっては、今月(2025年5月)後半にリリースが噂されるAndroid 16 QPR1 (Quarterly Platform Release 1) のベータ版に、Material 3 Expressiveの一部機能が先行搭載される可能性があり、注目が集まる。GoogleのDirector of Product Management for Pixel and Android system UIであるAllen Huang氏も、この点について言及している。

この新しいデザイン言語はスマートフォンやタブレットだけでなく、Wear OS 6を搭載したPixel Watchにも導入される。 アニメーションは円形ディスプレイの自然なカーブに沿うようにデザインされ、スマートフォン版と同様の「弾むような」インタラクションが期待できる。さらに、GoogleはWear OS版のMaterial 3 Expressiveによって、バッテリー寿命が最大10%改善する可能性があるとのことだ。

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エコシステムへの影響と今後

Material 3 Expressiveはオープンなデザインフレームワークであるため、理論上はSamsungやXiaomiといった他のAndroidスマートフォンメーカーも自社のカスタムUIに採用することが可能である。 しかし、特に大手メーカーは独自のデザイン言語を優先する傾向があり、Material 3 ExpressiveがAndroidエコシステム全体にどこまで浸透するかは未知数だ。 比較的Googleのデザインに近いMotorolaのようなメーカーが、より積極的に採用するかもしれない。

開発者にとっては、新しいデザインテンプレートやアニメーションAPIが提供されることで、自社アプリをMaterial 3 Expressiveのルック&フィールに近づける機会が生まれる。 一方で、多様なデザインが混在する可能性も考慮する必要があるであろう。

Googleがこの大規模なデザイン刷新に踏み切った背景には、スマートフォンのコモディティ化が進む中で、ソフトウェアによる体験価値の差別化を図りたいという強い意志が感じられる。よりパーソナルで、感情に訴えかけるインターフェースを提供することで、ユーザーエンゲージメントを高め、Androidエコシステムの魅力を再定義しようとしているのかもしれない。

Material 3 ExpressiveはAndroidの「次章」を告げるか

Material 3 Expressiveは、単なる表面的な化粧直しではなく、Androidのユーザー体験を根底から見直し、より人間中心的で、感情豊かなものへと進化させようとするGoogleの野心的な試みと言えるだろう。躍動感あふれるアニメーション、個性を映し出すカラー、情報を的確に伝えるタイポグラフィ、そして直感的なシステムUI。これらが融合することで、私たちのスマートフォンとの向き合い方が変わる可能性を秘めている。

もちろん、その真価は実際に触れてみなければ分からないが、今回発表された内容からは、Googleがユーザー体験の質を新たな高みへと引き上げようとしている様が見て取れる。今年後半のPixelデバイスへの展開、そしてその後のエコシステム全体への波及が楽しみだ。

Introducing Material 3 Expressive

Sources

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