Appleは2026年7月17日、時価総額でNVIDIAを上回り、世界で最も価値の高い上場企業の座へ戻った。Reutersによると、その時点の時価総額はAppleが4兆8,800億ドル、NVIDIAが4兆8,600億ドルだった。BRI Wealth ManagementのToni MeadowsはReutersに対し、AppleはAIをサービスや端末更新へ結び付けやすく、巨額の設備投資を続ける企業より負担が軽いとの見方を示している。

時価総額の逆転は一時点の市場評価であり、Appleの低設備投資戦略だけで起きたとは言えない。ただし、直近の決算とSiri AIの構成を見ると、自社設備への支出を抑えながら既存事業へAIを組み込めるという評価には一定の根拠がある。Appleは端末内のAppleƒシリコンと専用クラウドを使い、研究開発費を投じつつ、製造設備の一部をサプライヤーに委ねている。問われるのは、この設計がSiri AIの利用拡大後も維持できるかどうかだ。

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AppleとMicrosoftを隔てる投資負担

Appleの2026年度上期決算では、有形固定資産の取得に使った現金は43億4,400万ドルだった。同期の売上高2,549億4,000万ドルに対して約1.7%である。前年同期の60億1,100万ドルからも減った。

MicrosoftはFY2026第3四半期(2026年3月31日終了)の1四半期で319億ドルを設備投資に充て、現金による有形固定資産支出も309億ドルに達した。同社は2026年暦年の設備投資を約1,900億ドルと見込み、直近四半期では約3分の2がGPUやCPUなど比較的寿命の短い資産だった。Appleの半年分を、Microsoftは1四半期の現金支出で7倍以上上回る。

企業・対象期間 売上高 設備投資関連の開示 売上高に対する単純比率
Apple・2026年度上期 2,549億4,000万ドル 有形固定資産取得43億4,400万ドル 1.7%
Microsoft・2026年度第3四半期 829億ドル 設備投資319億ドル 38.5%

ただし、両社の数字は同じ物差しではない。Microsoftの設備投資にはファイナンスリースが含まれ、期間も事業も違う。MicrosoftはAzureを通じて計算資源そのものを顧客へ販売するため、需要を満たすにはデータセンターを先に建てる必要がある。Appleの主力は消費者向け端末とサービスであり、この比率からAIの性能や投資効率の優劣は決められない。

それでも、固定資産を抱える速度の差は大きい。Microsoftは設備を稼働させてクラウド売上へ変えるまでの時間と、GPUやCPUの世代交代を自ら引き受ける。Appleはその負担を小さく保ったまま、すでに販売している端末とOSをAIの配布先にできる。

端末がAIインフラの一部になる

Siri AIは、次世代Apple Foundation Modelsを端末とPrivate Cloud Compute(PCC)のサーバーで動かす。端末で処理できる依頼はiPhoneやMac側で完結し、より複雑な処理を専用クラウドへ送る。すべての推論をデータセンターへ集めるサービスと比べ、利用者が持つAppleシリコンにも計算を分担させる構成だ。

この分担は、Appleの端末販売とAI基盤を結び付ける。対応機器にはiPhone 16以降とiPhone 15 Proなどが含まれ、すべての既存端末で使えるわけではない。AI機能を使いたい利用者が古い端末から買い替えれば、Appleは新しい推論能力を利用者側へ配備しながらハードウェア売上も得る。もっとも、AppleはSiri AIが端末更新をどれだけ増やしたかをまだ開示していない。

サーバー側にも既存サービスを使った課金導線がある。Apple Intelligenceのうち画像生成など強力なサーバーモデルを使う機能には日次上限があり、多くのiCloud+プランでは利用枠が増える。Siri AI全体が有料になるという発表ではないが、推論需要が増えたときに無料枠と有料枠を分ける仕組みはすでに用意された。

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設備投資の外側へ回ったAIコスト

有形固定資産の取得が43億4,400万ドルでも、Appleの技術投資が縮んだわけではない。2026年度上期の研究開発費は223億600万ドルで、前年同期から33%増えた。Appleは増加要因として、インフラ関連費用と人員関連費用を挙げている。研究開発費だけで、有形固定資産取得の5倍を超える。

決算上、研究開発費は営業費用として利益を押し下げる一方、有形固定資産の取得に使った現金には入らない。AIモデルの開発、OSへの統合、計算基盤の運用で支出が増えても、固定資産を買わなければCapExには表れない。Appleの軽さは投資総額よりも、設備を自社資産として抱える比重の低さを指している。

Appleは自前のサーバーも増やしている。2025年にHoustonで高度なAIサーバーの生産を始め、2026年2月には生産が計画を上回っていると発表した。そこで組み立てたAppleシリコン搭載サーバーは、米国内のデータセンターでPCCを支える。低設備投資は、クラウド設備が不要という意味ではない。

サプライチェーン側に現れる投資もある。Appleは7月8日、Broadcomと300億ドル超の複数年契約を結び、米国で150億個超のチップを生産すると発表した。これを受けてBroadcomはColorado州Fort Collinsの設備へ15億ドルを投じる。契約はAI専用ではないが、Appleが長期購入を約束し、製造設備は取引先が保有するという資本配分をよく表している。

この場合、工場設備はBroadcomの資産であり、15億ドルはAppleの設備投資にはならない。Apple側に現れるのは、300億ドル超の複数年購入コミットメントである。自社のCapExを軽く保ちながら、長期契約で供給能力を確保する方法だ。

3月28日時点で、Appleには1年を超える無条件購入義務が276億9,100万ドルあった。内訳はサプライヤー契約、配信権、知的財産やコンテンツのライセンスであり、AI分は公表されていない。少なくとも、Appleの設備投資額だけを見て、将来支出まで軽いと結論づけることはできない。

76.6%の粗利率にAIをつなげられるか

Appleの2026年度上期のServices売上は609億8,900万ドルで、前年同期比15%増えた。粗利率は76.6%に達し、Productsの39.9%を大きく上回る。iCloud+の利用枠拡大は、追加のAI計算をこの高収益な事業へ載せる具体的な経路になる。

ただし、現時点のServices成長は主に広告、App Store、クラウドサービスによるもので、AppleはAI由来の売上を分けていない。Siri AIも6月8日に開発者テストが始まった段階で、一般利用者向けの英語ベータは2026年後半を予定する。中国では提供されず、EUでもiPhone、iPad、Apple Watchへの導入は当初見送られる。

つまり、Toni Meadowsの評価が前提にするのは、実証済みのAI収益ではなく、設備投資を抑えながら収益化できる設計である。端末内処理がクラウド負荷をどこまで吸収するのか。PCCの利用増が研究開発費や設備投資をどれほど押し上げるのか。Siri AIのベータ開始後、Services売上とインフラ関連費用が同時にどう動くかで、低設備投資という仮説を検証できる。