Metaは2026年10月12日、新たなAIモデル「Muse Wonder」と、その上位版となる「Muse Wonder Full」を発表した。Fullは独立評価機関の総合指数でClaude Sonnet 5.5と同等のスコアを記録し、GPT-6 Astraを上回った。これにより、Metaも最先端AIモデルの競争で有力な存在となった。ただし、開発者がAPI経由で利用できるのは通常版のMuse Wonderであり、Fullはコーディング支援ツール「Muse Code」の有料プランに限定される。両モデルの性能差に加え、他社モデルと比較した際の強みや弱みを詳しく見ると、今回の発表がAIモデルの選択にどのような影響を与えるのかが見えてくる。

AD

Muse Wonder Fullは総合指数56、API版は52を記録

AIモデルの性能を独立して評価するArtificial Analysis(AA)の「Intelligence Index」では、Muse Wonder Fullが56、通常版のMuse Wonderが52を記録した。同じmax設定で評価された従来モデルのMuse Spark 1.3は48であり、Metaは着実に性能を引き上げている。

この指数は、知識や推論、コーディング、専門的な業務など、10種類の評価結果を統合したものだ。2026年10月13日時点でAAのモデル一覧に掲載されていた主要モデルを比較すると、Fullと通常版では競争上の立ち位置が大きく異なることがわかる。

モデル 評価時の推論設定 AA総合指数 AA評価1タスク当たり費用
Claude Opus 5.5 max with fallback 58 5.98ドル
Claude Sonnet 5.5 max with fallback 56 5.46ドル
Muse Wonder Full max 56 未掲載
Claude Fable 5.1 max with fallback 53 7.63ドル
GPT-6 Astra max 53 3.26ドル
Gemini 4 Argon high 53 1.99ドル
Muse Wonder max 52 4.52ドル
GPT-6.1 Sol max 52 0.72ドル
Muse Spark 1.3 max 48 1.60ドル

指数は高いほど性能が優れていることを示す。ただし、Claudeの「with fallback」は代替モデルへの切り替えを含む評価条件であり、すべてのモデルを同じ環境で実行した比較ではない。また、各社の「max」が同じ計算量を意味するわけでもない。費用については、AAが評価タスクごとのコストを加重平均した値であり、実際の業務で成果を1件得るための費用とは異なる。詳しい定義はAAのMuse Wonder Full評価ページで確認できる。

Fullの総合指数56は、Claude Opus 5.5の58には届かないものの、Claude Sonnet 5.5と並んでいる。

一方、通常版のMuse Wonderは52で、GPT-6 Astra、Claude Fable 5.1、Gemini 4 Argonを1ポイント下回り、GPT-6.1 Solと同点となった。

つまり、Fullが最上位モデルに匹敵する性能を示したからといって、その評価をAPIで使える通常版にもそのまま当てはめることはできない。

両モデルは最大100万トークンのコンテキストに対応している。テキストだけでなく、画像、音声、動画も入力できる一方、出力はテキストに限られる。

Metaのモデルカードによると、Museアプリへの導入は今後予定されており、有料会員から順次提供される。モデル自体が持つ能力と、各サービスで実際に利用できる機能は区別して考える必要がある。

長期のソフトウェア開発に強み、ただし苦手な分野も

Muse Wonderシリーズが特に高い性能を示したのは、既存のソフトウェアを調査し、コードの修正とテストを繰り返す長期的な開発作業だ。

Metaが公開した比較結果では、通常版のMuse Wonderでも、DeepSWE 1.1とSWE-Marathonの両方で比較対象のClaudeやGPTを上回っている。

開発系ベンチマーク Wonder Full Wonder Fable 5.1 GPT-6 Astra Opus 5.5
DeepSWE 1.1 79.0 78.8 67.4 74.1 74.2
SWE-Marathon 57.5※ 53.1 45.6 42.5 46.3
Terminal-Bench 4.0-AA 57.1 52.0 52.0 59.1 59.6
ProgramBench 59.0 50.0 55.5 52.5 70.5

数値はMetaの発表時の比較表とモデルカードの第3節に基づく。各ベンチマークで定められた合格率や正答率を百分率で示しており、高いほど優れている。原則としてmax設定で評価されているが、※を付けたFullのSWE-Marathonのみxhigh設定だ。また、第三者による測定値、各社の公表値、Meta自身の測定値が混在しており、実行環境も試験ごとに異なる。

DeepSWE 1.1は、91のリポジトリにまたがる113の課題を対象に、機能テストと回帰テストによって開発結果を評価するベンチマークだ。

ここではFullが79.0、通常版が78.8を記録し、両者の差はわずか0.2ポイントだった。Metaのモデルカードによると、Muse Wonderの両モデルとClaude Opus 5.5についてはDatacurveによる第三者測定を使用している。一方、GPT-6 AstraとClaude Fable 5.1については、それぞれの開発元が公表した数値を採用している。

より長期間にわたる開発プロジェクトを対象とするSWE-Marathonでは、Fullが57.5、通常版が53.1を記録した。

ただし、これらはAbundant AIによる評価結果であり、GPT-6 AstraはCodex、Claude Fable 5.1はClaude Codeを使用している。また、Fullのみ推論設定がxhighとなっている。

そのため、この結果はMuse Wonderシリーズが長期的な開発作業に強いことを示しているものの、純粋なモデル単体の性能を同一条件で比較したものとはいえない。

一方、ターミナル環境で複雑な作業を実行するTerminal-Bench 4.0-AAでは、Claude Opus 5.5が59.6、GPT-6 Astraが59.1を記録し、Fullの57.1を上回った。

さらに、プログラムをクリーンルーム環境で再現するProgramBenchでは、Opus 5.5が70.5と大きくリードしている。Fullは59.0、通常版は50.0にとどまった。

ProgramBenchでは、すべてのモデルが同じmini-swe-agentを使用し、テストの95%以上に合格した試行の割合を測定している。

こうした結果を見ると、Muse Wonder Fullを使えばあらゆる開発作業が改善するわけではないことがわかる。

通常版との性能差も、DeepSWEでは0.2ポイントしかない一方、ProgramBenchでは9.0ポイントに広がる。

APIで利用できる通常版にも長期的な開発作業における強みはあるが、単に「コーディング性能が高い」という評価だけでモデルを選ぶべきではない。

既存のコードを修正するのか、複雑な開発環境を操作するのか、それともプログラム全体を再現するのか。具体的な作業内容によって、最適なモデルは変わってくる。

AD

法務で13.1%、記憶テストで85.5を記録した意味

Muse Wonder Fullは、法務や業務自動化の分野でも高い性能を示している。ただし、健康関連の専門的な質問やコンピューターの画面操作では、他社モデルが上回る結果となった。

Metaが公開した比較表から、専門業務と個人向けAIエージェントに関係する評価を抜き出すと、次のようになる。

評価項目 Wonder Full Wonder Fable 5.1 GPT-6 Astra Opus 5.5
Harvey LAB-AA v1.1(法務) 13.1 10.0 6.4 8.6 4.2
Vals Finance Agent V2(金融調査) 59.1 56.6 58.9 53.5 58.6
HealthBench Pro(健康分野の専門的な質問) 62.3 60.5 62.1 65.3 65.6
AutomationBench-AA(業務自動化) 45.4 39.1 32.1 41.6 41.2
OSWorld V2.1(画面操作、部分点) 78.4 72.6 80.7 75.8 81.8
MemoryBench(会話内容の想起) 85.5 85.6 79.0 81.4 81.5

すべてmax設定での評価となる。数値は各ベンチマークの公表スコアで、高いほど優れている。ただし、完全な合格率と部分点の平均など、評価方法が異なるため、項目間で数値を直接比較することはできない。評価主体や採点方法の詳細はMetaのモデルカードに記載されている。

特に注意したいのが、法務分野におけるFullの13.1という数字だ。

Harvey LAB-AA v1.1では、案件資料をもとに作成した成果物が、すべての採点基準を満たし、事実に基づかない内容が含まれていないかを確認するチェックにも合格した割合を測定している。

Fullは比較対象のモデルを上回ったものの、すべての条件を満たしたタスクは13.1%にすぎない。

専門的な文書作成を支援する能力が向上したことと、人間による確認なしで業務を任せられることは、まったく別の話だ。

業務自動化を評価するAutomationBench-AAの45.4も、模擬アプリケーションで作業を実行した結果、すべての条件を満たした割合を示している。

これに対し、OSWorld V2.1の78.4は部分点の平均だ。作業が完全に成功したかどうかだけで判定すると、Fullのスコアは39.4となる。

同じAIエージェントの性能評価であっても、作業を途中まで進めたことを評価するのか、最後まで完了したことを評価するのかによって、数値の意味は大きく変わる。ここで示した結果は、Metaの発表時点の採点基準に基づいている。

Metaが個人向けAIエージェントの特徴として強調する機能の一つが「Active Memory」だ。

これは、長い会話の中から重要な情報を保持し、必要になったときに正確に取り出す能力を指している。

Metaが実施したMemoryBenchでは、通常版のMuse Wonderが85.6、Fullが85.5を記録し、比較対象のClaudeやGPTを上回った。

ただし、MemoryBenchはMetaの社内評価だ。6万4,000〜10万トークンの長い会話に、無関係な話題や途中で更新された情報を挿入し、必要な事実を正しく思い出せるかを別のAIが所定の基準に従って採点している。

この結果は、長い会話から必要な情報を取り出す能力の高さを示すものだ。しかし、利用者の情報を数か月にわたって正確に記憶できることや、保存・削除機能の信頼性まで証明したわけではない。

100万トークンというコンテキスト長と、サービスを継続利用する際の記憶機能も、区別して考える必要がある。

もう一つの特徴である「Active Focus」は、作業中に行き詰まっても別の方法を試し、必要な確認を行いながら作業を続ける能力を指す。

Metaは、長期的な課題を使った訓練に加え、Muse Sparkより高性能な基盤モデルを採用することで、追加学習で重点的に扱っていない課題にも能力の向上が広がったと説明している。

Metaの研究ブログによると、事前学習と強化学習には、ギガワット級の電力規模を持つ「Prometheus」データセンターが活用された。

ただし、モデルのパラメーター数は公表されていないため、他社モデルと比較して規模が大きいのか小さいのかは判断できない。

API単価はGPT-6 Astraの4割、しかし実際の処理費用は別

Muse WonderのAPI料金は、100万トークン当たり入力4ドル、出力20ドルに設定されている。

通常の入力・出力単価はClaude Opus 5.5と同額で、GPT-6 Astraの40%に相当する。一方、低価格を特徴としていたMuse Spark 1.3からは大幅な値上げとなった。

2026年10月13日時点のMeta公式料金表と、AAが掲載する競合モデルのAPI料金を比較すると、次のようになる。

モデル 入力100万トークン 出力100万トークン キャッシュ入力100万トークン
Muse Spark 1.3 1.25ドル 4.25ドル 0.15ドル
Muse Wonder 4ドル 20ドル 0.20ドル
Claude Opus 5.5 4ドル 20ドル 0.20ドル
GPT-6 Astra 10ドル 50ドル 1ドル

Metaの料金はStandardモードのものだ。キャッシュ入力料金は再利用した入力に適用される単価であり、キャッシュへの書き込みなどにかかる費用をすべて含んだものではない。また、Fullの従量課金API料金は公表されていないため、表には含めていない。

ここで重要なのは、トークン単価が安いモデルほど、実際の業務を安く処理できるとは限らないことだ。

AAが2026年10月13日時点で掲載していた評価では、Muse Wonderの1タスク当たり費用は4.52ドルだった。これはGPT-6 Astraの3.26ドルに対して約1.39倍、Muse Spark 1.3の1.60ドルに対して約2.83倍となる。

これらの倍率は、AAの評価一覧に掲載された費用をもとに、4.52ドルをそれぞれの比較対象の費用で割り、小数第2位まで求めたものだ。推論設定はいずれもmaxとなっている。

AAは、実際に使用した入力・出力トークンやキャッシュなどの費用を評価タスク数で割り、総合指数を構成する各評価の比重に応じて加重平均している。詳しい算出方法はAAのモデル評価ページで説明されている。

この指標は、成功した業務1件当たりの費用を表すものではない。それでも、APIのトークン単価だけでは、実際の利用コストを判断できないことは明らかだ。

同じ総合指数52を記録したGPT-6.1 Solの評価タスク当たり費用が0.72ドルであることも、APIを選ぶ開発者にとっては見逃せない。

ただし、総合指数が同じでも、個別の業務で同じ品質が得られるとは限らない。応答速度や消費トークン数にも違いがある。

Muse Wonderを長期的なソフトウェア開発に利用するなら、作業の成功率や修正の手間をどれだけ減らせるかに加え、最終的な成果を得るまでの総費用を測定する必要がある。

一方、Muse Wonder Fullの利用料金は、APIとは異なる仕組みになっている。

Fullに対応するMuse Codeには、月額50ドルの「Power Usage」と、月額200ドルの「Maximum Usage」が用意されている。いずれも利用上限のあるサブスクリプション方式であり、APIのトークン単価と直接比較することはできない。Muse Wonderの公式ページで提供条件が案内されている。

さらに、利用するサービスや契約方式によって、入力データの扱いにも違いがある。

Metaの料金・利用モードに関する説明によると、APIのStandardモードでは送信したデータがモデルの学習に使用されない。また、Wonder APIには、学習への協力と引き換えに料金が安くなるContributorモードが用意されていない。

一方、Muse CodeのサブスクリプションではContributorモードが初期設定で有効となっており、設定から切り替えられる。

企業のソースコードや機密文書を扱う場合には、Fullを利用できるかどうかだけでなく、こうしたデータの取り扱いに関する設定も重要な判断材料となる。

AD

Metaは最先端AI競争に復帰、モデル選びで重要になるのは実務性能

今回のMuse Wonderシリーズは、Metaが最先端AIモデルの競争で存在感を強めたことを示している。

特に、長期的なソフトウェア開発ではAPIで使える通常版でも高いスコアを記録した。一方、プログラムの再現を評価するProgramBenchではFullとの差が広がり、用途によって上位版を選ぶ意味も変わってくる。

法務分野では競合モデルを上回る完全合格率を記録したものの、その値は13.1%にとどまる。また、健康分野の専門的な質問や画面操作では、依然として他社モデルが優位に立つ評価もある。

つまり、Metaは専門業務や長期的な開発作業を任せられる有力な選択肢を増やしたものの、あらゆる用途で他社を上回るモデルを実現したわけではない。

Metaのモデルカードでも、性能は実行環境や使用するツール、指示の与え方によって変化すると説明されている。また、学習に使用したすべての言語について、同じ水準の評価を実施したわけではないことも明記されている。

日本語の社内文書や実際の開発プロジェクトで利用する場合には、生成された文章やコードの見た目だけでなく、途中で条件が変わっても適切に対応できるか、最終的な成果物が要求を満たしているかまで確認したい。

APIで通常版のMuse Wonderを組み込む場合も、Muse CodeでFullを利用する場合も、重要なのは公表されたベンチマークの順位ではなく、実際の業務で性能と費用のバランスをどこまで改善できるかという点だ。

今回示された強みが実務でも再現されれば、Muse Wonderシリーズは、日常的なソフトウェア開発や複雑な業務を任せるAIとして、有力な選択肢になるだろう。