Metaが先日発表した個人向けAIエージェント「Muse」は、利用者ごとにクラウド上のコンピューターを割り当てて動作する。

専用の仮想マシン(VM)を用意すること自体は、9月8日の製品公開時に明らかにされていた。今回さらに見えてきたのは、そのVMの中でコードがどのように実行されるのか、そして実際の利用環境から確認されたCPU、メモリー、保存領域などの構成だ。

ただし、「一人一台のコンピューター」といっても、AIの処理すべてを1台のVMで行うわけではない。利用者専用の領域と、Meta側が共通基盤として提供する処理を分けて見ると、「2 vCPU」という数字が何を示しているのかも分かりやすくなる。

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一人一台のVMの中にも、役割の異なる実行環境がある

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Metaの技術説明によると、Museでは利用者ごとにクラウド上のLinux仮想マシンが割り当てられる。

スマートフォンやWebの画面は安全な通信経路を通じてこのVMに接続する。利用者が会話を閉じた後も、エージェントは設定された予定に沿って作業を続けられる。ファイルや接続先の認証情報、作業履歴なども、この利用者別の環境を基準に管理される。

Metaの製品設計に関する解説では、Museが端末上でコマンドを実行し、必要に応じてコードやツールを自ら作成できると説明している。9月23日のMeta Connectでは、手元のMac上のアプリを操作する機能も発表された。ただし、利用者のMacと、クラウド上に割り当てられたVMは別の実行環境だ。

さらに、MuseがVM全体を自由に操作できるわけでもない。

コードの実行や作業ファイルの操作を担う部分は、VM内のsystemd-nspawnコンテナに隔離されている。コンテナ内で管理者権限を取得したとしても、その権限がVM全体やMetaの基盤にまで及ぶわけではない。

Metaは、コードを実行する領域と、認証情報や外部通信を管理する領域を同じVM内でも分離していると説明する。

後者には、外部への通信や連携サービスへの操作をチェックする「Sentinel」、認証情報を管理するサービス、作業履歴を保存するデータベースなどが含まれる。

たとえば、MuseがWebページに埋め込まれた悪意ある指示を誤って実行したとしても、作業用コンテナから安全機構や実際の認証情報を直接書き換えられないようにする設計だ。

ここで重要なのは、「AIが管理者権限を持つ」という表現の範囲である。Museが作業環境の中で強い権限を持っていても、それはMetaの物理サーバーそのものを管理できるという意味ではない。

実際のMuse環境を調べたRohan Adwankar氏は、自身に割り当てられた環境でsystemd-nspawnと仮想化ソフトウェア「Cloud Hypervisor」の存在を確認している。

systemd-nspawnは作業用コンテナ、その外側にはVMが存在するという構造で、Metaが説明する多層的な隔離構成とも一致する。

ただし、これは一つの利用環境で確認された結果だ。すべてのMuse環境で同じ仮想化ソフトウェアが使われているとまでは断定できない。

2 vCPU、約8GB、100GBはMuseの正式仕様なのか

実際に調査された複数のMuse環境では、CPUが「2 vCPU」、メモリーが約7.7GiBと表示されている。

Adwankar氏の環境では、nprocの結果が2、メモリーが7.7GiBで、永続的に利用できる保存領域として約100GBが確認された。別の利用者による検証でも、2 vCPUと7.7GiBという構成が報告されている。

項目 Metaが公表している内容 実際の環境で確認された例 注意点
CPU 利用者ごとにVMを用意 2 vCPU 仮想CPU数であり、物理CPUコアを2個専有するという意味ではない
メモリー 具体的な保証値は未公表 約7.7GiB 観測された環境での値であり、製品仕様として保証された数字ではない
保存領域 利用者のファイルを継続的に保持 約100GBの永続領域 論理的な容量であり、同量の物理ディスクを常時専有するとは限らない
GPU VM内のGPU構成は未公表 調査された環境ではGPUデバイスを確認できず AIモデルの推論にGPUを使っていないという意味ではない

Metaが公式に説明しているのは、利用者ごとにVMを割り当てるという構造だ。

一方、2 vCPU、約7.7GiBのメモリー、100GBの保存領域という数字は、実際の利用環境で観測された値であり、Metaがすべての利用者に保証している正式な仕様ではない。

たとえば、システム上で7.7GiBと表示されたからといって、「Museには8GBのメモリーが保証されている」と言い換えることはできない。

同様に、CPUの型番や仮想CPU数が確認できたとしても、その物理CPUのコアを各利用者が専有しているとは限らない。

Metaは現時点で、利用者ごとの最低保証性能や、負荷が高い時間帯の性能、料金プランによるVM構成の違いなどを公表していない。

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ブラウザーもAIモデルの推論も、利用者VMの外で動く場合がある

Museが使う「ブラウザー」も、利用者専用VMの中でChromiumが常時動いているという単純な構造ではない。

Metaは安全設計の説明で、実際のChromium系ブラウザーを別の仮想化された環境に配置し、仲介サービスを通じて接続すると説明している。

Web操作を担当するエージェントも、ページの操作に必要な情報を受け取る仕組みになっており、任意のJavaScriptをWebページ上で自由に実行できるわけではない。

Adwankar氏も、自身の環境を調査した際、ブラウザーを使うために別の仮想マシンへ接続する仕組みを確認している。

つまり、「利用者専用のクラウドコンピューター」が用意されているからといって、ブラウザーを含むすべてのプロセスがそのVM内で動いているわけではない。

AIモデルそのものの推論についても同じだ。

Metaは、推論に必要なデータをVMの外へ送り、専用の経路を通じて処理すると説明している。調査された作業環境ではGPUデバイスも確認されていない。

このことから、観測された2 vCPUは主に、Museがファイルを操作したり、コードを実行したり、各種作業を制御したりするための計算資源と考えるのが妥当だ。

一方、MuseのAIモデルを動かすGPUが何台使われているのか、どこに配置されているのか、1回の依頼にどの程度の計算資源を消費するのかは、2 vCPUという数字から判断することはできない。

ファイルは残るが、同じVMがずっと動き続けるわけではない

Adwankar氏は、自身の環境で約100GBの永続ボリュームと、システム用の一時的な領域が分かれていることも確認している。

さらに、システムの更新時にはVMそのものが入れ替わり、利用者の永続ボリュームが新しいVMへ再接続される動作も観測した。

この構造を見ると、Museの「一人一台」は、まったく同じVMが永久に動き続けるという意味ではない。

より正確には、利用者ごとに作業環境とデータを継続して利用できる仕組みが用意されており、その背後にあるVM自体は必要に応じて交換できる構成と考えた方がよい。

Metaも、利用者がVM内のファイルや記憶を確認、編集、ダウンロードできることや、データを継続的にバックアップすることを説明している。

このようにシステム領域と利用者のデータを分けておけば、基盤となるソフトウェアを更新しながら、利用者のファイルや作業状態を維持しやすい。

ただし、Adwankar氏が観測した更新方法が、すべての利用者やすべての時点で同じように使われると保証されているわけではない。

100GBという容量についても、すべての利用者に100GB分の物理ディスクを最初から確保しているという意味ではない。

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「2 vCPU × 利用者数」だけでは必要なサーバー数は分からない

Museの利用者1人に2 vCPUと約8GBのメモリーが割り当てられていると仮定すれば、サーバー1台に何人の利用者を収容できるのかを単純計算したくなる。

しかし、実際のインフラ規模をそこから推定するのは難しい。

すべての利用者が同時にVMを動かすとは限らず、仮想CPUが物理側の論理CPUに固定されているとも限らない。メモリーについても、利用者ごとに割り当てられた上限と、実際に物理メモリー上で消費している容量は同じとは限らない。

Adwankar氏が調査した環境では、使われていないメモリーページをホスト側へ返す仕組みも確認されている。

そのため、「1ユーザー8GB」と表示されているからといって、すべての利用者について常に8GBの物理メモリーを占有していると考えるのは適切ではない。

一方で、利用者のファイルや作業履歴を保存する領域は、VMが動いていない間も必要になる。

さらに、AIモデルを動かす推論用GPUや、ブラウザーを実行する別の環境も必要だ。これらは利用者VMに表示される2 vCPUとは別の計算資源として考えなければならない。

そのため、利用者VMのCPUとメモリーだけを単純に人数分掛けても、MetaがMuseのために必要としているサーバー台数や設備費、消費電力を推定することはできない。

Metaがこの仕組みをどこまで大規模に展開できるのかを考えるには、利用者1人あたりの保証資源だけでなく、同時に稼働するVMの割合、保存領域の実使用量、ブラウザー環境の利用率、そしてAI推論側の計算量や利用制限を見る必要がある。

現時点で分かっているのは、確認された複数のMuse環境では比較的小さな仮想CPU・メモリー構成と永続保存領域が組み合わされ、ブラウザーやAIモデルの推論は別の基盤へ切り分けられているということだ。

今後Metaが、料金プランごとの計算資源や性能保証、混雑時の制限などを明らかにすれば、「利用者一人ひとりにクラウドコンピューターを用意する」という仕組みをどこまで大規模に提供できるのかも、より具体的に見えてくる。