半導体分析会社Kurnal Insightsが2026年9月20日に示した試算によると、1b世代のDRAMは、面積当たりの価格がTSMCの2nmプロセス「N2」を約54%上回るという。
これは、DRAMの方が製造コストが高いという意味ではない。DRAM側はメモリを販売した場合の想定価格、N2側は顧客がTSMCへ支払うと推定されるウェハーの製造委託費を基にしている。性質の異なる二つの価格を同じ面積当たりに換算すると、DRAMがN2を上回るという結果になる。
では、その境界はどこにあるのか。そしてなぜ今、DRAMの価格がここまで上昇しているのだろうか。
54%はどこから出たのか
Kurnal Insightsの計算を9月22日に報じたTom’s Hardwareによると、N2については、直径300mmのウェハー1枚を3万ドルと想定している。
3万ドルを、円周率×(300mm÷2)²で求めたウェハーの名目面積で割ると、1mm²当たり約0.424ドルになる。3nmプロセス「N3」については1枚2万ドル、1mm²当たり約0.283ドルとした。いずれもTSMCが公表した顧客向け価格ではない。
DRAM側は別の計算を使う。1bプロセスで1mm²当たり0.436Gbの記憶容量を実現し、1Gbを1.50ドルで販売すると仮定すると、面積当たりの販売価値は0.436×1.50=0.654ドルとなる。
これをN2の0.424ドルで割ると約1.54倍になる。見出しにある「54%高い」という数字は、ここから算出されている。
| 比較対象 | Kurnalが用いた前提 | 名目面積当たりの金額 |
|---|---|---|
| TSMC N3 | 300mmウェハー1枚2万ドル | 約0.283ドル/mm² |
| TSMC N2 | 300mmウェハー1枚3万ドル | 約0.424ドル/mm² |
| 1y DRAM | 0.219Gb/mm² × 1.50ドル/Gb | 約0.329ドル/mm² |
| 1z DRAM | 0.273Gb/mm² × 1.50ドル/Gb | 約0.410ドル/mm² |
| 1b DRAM | 0.436Gb/mm² × 1.50ドル/Gb | 0.654ドル/mm² |
同じメモリ単価を当てはめても、1yと1zではN2の想定額に届かない。世代が進み、同じ面積により多くのビットを詰め込めるという前提が、今回の逆転を生んでいる。
TSMCの2025年年次報告には、N2が同年第4四半期に量産へ移行したと記されているが、ウェハーの販売価格は示されていない。
「54%高い」が成立する条件
N2の想定価格を3万ドルに固定した場合、DRAM価格がどこまで下がると面積当たりの逆転が解消されるのか。
ウェハーの名目面積から算出したN2の0.424ドル/mm²を、1b DRAMの想定密度である0.436Gb/mm²で割ると、境界は約0.973ドル/Gbとなる。Kurnalの前提では、面積当たりでN2と同水準になる1b DRAMの販売価格は、16Gb当たり約15.6ドルだ。
この15.6ドルは、実際に公開された契約価格ではない。16Gbという一般的な容量に換算し、試算結果がDRAM価格によってどの程度変化するかを示した値にすぎない。
TrendForceの現物価格表では、9月24日18時10分(台湾時間)時点で、DDR5 16Gb eTTのセッション平均価格が25.50ドルだった。16Gb当たり25.50ドルは、Kurnalが前提とした1Gb当たり1.50ドルを上回る。
ただし、この価格表には対象となるeTT品の製造プロセスが記載されていない。25.50ドルで取引されているチップが、0.436Gb/mm²の密度を持つ1b世代のダイだと確認されたわけではない。
「1b」はDRAMの製造プロセス世代、「DDR5」はメモリ規格を指す。例えばMicronは1βプロセスを採用した16Gb DDR5を発表しているが、そこからTrendForceが掲載するeTT品の製造プロセスやダイ面積を特定することはできない。
同じ「16Gb DDR5」であっても、メーカーや製品構成が異なればダイ面積も異なる。ビット密度と現物価格を組み合わせて実際の売上を推定するには、同一製品について両方の条件をそろえる必要がある。
二つの価格では、売っているものが異なる
0.654ドル/mm²は、DRAMメーカーがメモリを販売した場合の名目上の売上高に相当する。
一方、0.424ドル/mm²は、顧客が設計した半導体をTSMCがN2プロセスで製造する際の受託料金を、Kurnalの推定ウェハー価格から面積当たりに換算したものだ。
ロジックチップの設計会社が完成したチップを最終的にいくらで販売するかは、N2側の計算には含まれていない。DRAM側についても製造原価は考慮されていない。したがって、これは両者の利益率を比較するものではない。
また、ウェハー全面を販売可能な良品ダイとして利用できるわけでもない。ウェハーの外周部には完全な形のチップを配置できない領域があり、切断や試験に必要な領域もある。さらに、欠陥のあるダイを除外すれば販売可能な個数は減り、選別やパッケージングにも費用がかかる。
今回の単純計算では、こうした要素は考慮されていない。実際の収益性を算出するには、製品ごとのダイ面積、歩留まり、パッケージング費用、販売価格などが必要になる。
現物価格を量産品全体の代表値として扱うことにも限界がある。TrendForceは9月9日の市況報告で、DDR5の現物市場での調達量は依然として限られ、注文も特定品目に散発的に入る状況だとしている。
大手メモリメーカーがサーバーやPCメーカーへ販売する際の契約価格が、現物市場の価格と一致するとは限らない。
元記事にある「DRAMの方が製造しやすい」という説明も、この価格差だけから導き出すことはできない。
Samsungは12nm級DDR5の発表で、複数層へのEUV露光や材料の改良について説明している。一方、TSMCのN2も、新しいナノシート型トランジスタを採用する先端プロセスだ。
両者の製造コストを同じ条件で比較できる公開データがない以上、「54%」という数字をそのまま製造難度やコストの高低に置き換えることはできない。
HBM優先が通常DRAMの供給を圧迫する
それでも、この試算が今注目を集める理由はある。
TrendForceの9月23日の市況要約によると、メーカーはHBMとサーバー向けDRAMの生産を優先する一方、クラウド事業者によるAI向け需要も続いている。
消費者向け機器の需要は弱いものの、長期供給契約によって新たに取引できる数量が限られ、新工場による供給増もまだ本格化していないという。つまり、現物価格の高騰がDRAM市場全体の旺盛な需要をそのまま示しているわけではない。
HBMは、通常のDRAMと生産設備やウェハー投入枠を共有する。
TrendForceの6月2日の分析では、大手3社のDRAM用ウェハー投入量に占めるHBM向けの比率が、2026年末には約22%、2027年末には約30%に達すると予測している。
これに対し、2026年のDRAM全体の供給ビット数に占めるHBMの割合は約9%と見込まれている。
ただし、この二つの比率は対象となるメーカーの範囲が異なるため、単純に割り算して「HBMは通常DRAMの何倍の面積を使う」と結論付けることはできない。それでも、HBM向けに生産能力を振り向けるほど、通常DRAMに割ける生産枠が縮小するというTrendForceの見方は明確だ。
また、メーカーにとってHBMが常に最も収益性の高い製品になるわけでもない。
同じTrendForceの分析によると、2026年1〜3月期には、HBMのウェハー当たり売上高と採算性がDDR5の64GB RDIMMを下回った。HBMは年単位の契約で価格を決めるため、通常DRAMの価格が四半期ごとに上昇しても、その変化をすぐ販売価格に反映できなかったという。
限られたウェハーをどの製品へ振り向けるかは、技術の新しさだけでなく、契約時期や販売価格にも左右される。
TrendForceの9月7日の業界集計によると、2026年4〜6月期のDRAM売上高は前期比59.5%増えた一方、出荷ビット数の伸びは小幅にとどまった。
同社は当面の供給増について、新工場の本格稼働よりも、製造プロセスの移行や既存生産設備の最適化による効果を見込んでいる。
価格が大きく上昇しても、供給できるビット数が同じペースで増えるわけではない。この価格と供給量のずれが、DRAMの面積当たり販売価値を押し上げている背景にある。
実際の契約価格が分かれば、比較結果は変わり得る
今回の比較から確実に言えるのは、Kurnalが設定した価格とビット密度を前提とすれば、1b DRAMの面積当たりの名目販売価値が、N2の推定製造受託料金を上回るということだ。
約15.6ドルという境界値を使えば、DRAMの販売価格を変えた場合に、この比較結果がどのように変化するかも確認できる。
ただし、DRAMメーカーのウェハー当たり実収入や粗利益がTSMCを上回ったかどうかは、この計算だけでは判断できない。
より正確に比較するには、同じ時期の大口契約価格に加え、製品ごとの実際のダイ面積や歩留まりが必要になる。TSMC側についても、顧客がN2ウェハーに実際に支払った価格が分からなければ、条件をそろえた比較にはならない。
今後の市況を見るうえでは、特定製品の現物価格だけでなく、HBMやサーバー向けDRAMへの生産配分が、契約価格改定後の通常DRAM価格や出荷量にどう反映されるかが重要になる。
そこまでデータがそろって初めて、「DRAMの方が高価なシリコンになった」という主張を、実際の事業収益に即して評価できる。



