Metaが開発中の次世代スマートグラス「Hypernova」に関する新たな詳細が明らかになった。約1,000ドル(約15万円)の価格で単眼ディスプレイを搭載し、通知表示やアプリ実行機能を備えるこの製品は、今年秋にも発売される見込みだ。これは、現在のRay-Ban Metaスマートグラスの上位モデルとして位置づけられ、同社が目指す完全なAR(拡張現実)グラスへの重要な布石となりそうだ。
進化したディスプレイとカメラを搭載
BloombergのMark Gurman氏による報道(複数の情報源に基づく)によると、「Hypernova」のコードネームで呼称されるこのデバイスの価格は、1,000ドルから1,400ドル程度になると予測されている。これは、現在300ドル前後から販売されているRay-Ban Metaスマートグラスと比較して、約4倍近い価格設定だ。
この価格上昇の主な要因は、新たに搭載されるディスプレイにあると見られる。Hypernovaは右側のレンズの右下部分に「単眼パネル(monocular panel)」、つまり片目用の小さな表示領域を備える。ユーザーはこの領域に通知や写真、地図などのデジタル情報を表示できるが、既存のいくつかのARグラスとは異なり、情報を視認するためには視線を下に向ける必要があるという。これは、初期バージョンの特徴であり、すでに後継機として両眼にディスプレイを備える「Hypernova 2」(コードネーム)の開発も進められており、2027年の発売を目指しているとのことだ。
価格は高額ながら、MetaはHypernovaを、CESなどで多数展示されたRokidグラスのような「中間クラス」のスマートグラス市場をターゲットにした製品と位置づけているようだ。
通知、アプリ、AI – 機能面の進化
Hypernovaは、単に情報を表示するだけでなく、より多機能なデバイスを目指しているようだ。起動時にはMeta、Google/Android、そしてチップメーカーであるQualcommといったパートナー企業のロゴが表示されるブートスクリーンが現れるという。これは、近年のQuestヘッドセットやウェアラブルデバイスと同様の協力関係を示唆している。
起動後のホーム画面には、iPhoneやMacBookのアプリドックのように、アイコンが水平に並んで表示される。プリインストールされるアプリにはカメラ、ギャラリー、マップなどが含まれる見込みで、スマートフォンと同期して各種メッセージングサービスの通知を投影する機能も持つと考えられる。
さらに、Hypernovaが現行モデルで導入された「顔に装着するAIチャットボット」というコンセプトを引き続き発展させる可能性も指摘されている。
iPhone 13級? カメラ性能向上への期待
現行のRay-Ban Metaスマートグラスのカメラ品質について、Meta社内では「iPhone 11相当」と比較されているとされるが、Hypernovaではこれが大幅にアップグレードされる可能性がある。
具体的にどのような改善が施されるかはまだ不明だが、手ブレ補正の強化や低照度環境での撮影性能向上、現行の12メガピクセルセンサーよりも高性能なセンサーの搭載が期待される。写真や動画の撮影機能は、スマートグラスの主要な用途の一つであり、この進化はユーザーにとって大きな魅力となる可能性がある。
タッチとジェスチャー、新たな操作体系
ユーザーインターフェースも進化するようだ。現行モデルと同様に、フレーム側面での静電容量タッチ(指で触れて操作する方式)によるコントロールに加え、Hypernovaでは新たな操作方法が導入される可能性が高い。
Bloombergによれば、指のジェスチャーと、「Ceres」というコードネームで呼ばれるMetaの「ニューラルリストバンド」を組み合わせて操作できるようになるという。このニューラルリストバンドは、手首の神経信号を読み取ることで、より直感的で精密な操作を可能にするデバイスと考えられ、Hypernovaの価格上昇の一因となっている可能性もありそうだ。
ソフトウェアとエコシステム – 残る課題
一方で、ソフトウェア面には懸念も指摘されている。Hypernovaが、スマートフォンからの通知を表示する機能については、特にAppleのiOSとの連携において、ソフトウェアが制限を受ける可能性もありそうだ。他社製デバイスとのエコシステム連携がうまくいかなければ、過去の多くのスマートグラスのように、ユーザーにフラストレーションを与える結果になりかねない。
発売時期と将来展望 – ARへの布石か
Hypernovaの登場時期については、今年後半から年末が予想されている。発表は、Metaが例年秋に開催する「Connect」イベントがが濃厚だ。
このHypernovaは、Metaが最終的に目指しているとされる完全なARグラス「Orion」(開発中)への「中間ステップ」と位置づけられている。Orionはより高度なAR技術を搭載するとされるが、Hypernovaはディスプレイ付きスマートグラスとして、市場の反応を見つつ、来るべきAR時代への移行を促す役割を担うのかもしれない。
しかし、Hypernovaの1,000ドル超という価格には疑問も残る。現在のRay-Ban Metaでも音声通知などの機能は利用可能であり、完全なAR機能を持たないデバイスに高額を支払うより、2027年発売予定とされるOrionを待つ方が賢明と考えられなくもない。
とはいえ、Ray-Ban Metaの人気は高く、Metaがその勢いに乗じて、より高機能なモデルを投入するのはマーケティング戦略として理にかなっているとも言える。Hypernovaが、単なる通知表示デバイスを超えた、どのような独自の価値を提供できるのか、今後の正式発表が待たれる。
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