MiniMaxは2026年10月19日、AIモデル「MiniMax M3.1 Flash」の正式提供を開始した。匿名で稼働し、200兆トークン超を処理した「Space Bunny」は、その初期版だったという。同社は、プログラム開発や複数のアプリをまたぐ業務の実行能力を強調し、前世代と比べてエージェント作業の総使用費用を70%削減、オンライン推論も約3倍高速化したと説明している。ただし、トークン単価の安さ、出力速度、業務を完了するまでにかかる費用と時間は、それぞれ区別して評価する必要がある。同社の公表単価を使って試算すると、その違いが明確になる。

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キャッシュ入力は10分の1の料金でも、API費用全体は同じ割合で下がらない

MiniMaxが10月19日の公式発表で示したM3.1 FlashのAPI料金は、100万トークン当たり通常入力が0.15米ドル、出力が0.60米ドル、キャッシュ済み入力が0.015米ドルとなっている。トークンはAIが文章などの情報を処理する際の単位で、文字数とは必ずしも一致しない。キャッシュ済み入力とは、過去に読み込んだ内容を再利用する部分を指し、通常の入力よりも安い料金が適用される。

課金対象 100万トークン当たりの料金
通常の入力 0.15米ドル
出力 0.60米ドル
キャッシュ済み入力 0.015米ドル

キャッシュ済み入力の単価は通常入力の10分の1だが、API費用全体が同じ割合で下がるわけではない。例えば、入力と出力がそれぞれ100万トークンの場合、キャッシュを使わなければ合計費用は0.15+0.60=0.75米ドルとなる。一方、入力の全量がキャッシュ済みなら0.015+0.60=0.615米ドルで済む。差額の0.135米ドルは元の費用の18%に相当する。つまり、入力単価が90%安くなっても、この条件では元の費用の80%を出力が占めるため、合計費用の削減率は18%にとどまる。

この18%という数字は、同じモデルで入出力量を固定し、入力の課金区分だけを変えた試算であり、実際の利用状況を測定した結果ではない。すべての入力にキャッシュが適用されるとは限らず、税金や外部ツールの利用料、人件費も含まれていない。一方、MiniMaxがうたう「70%減」は、前世代と比較したエージェント作業の総使用費用を指しており、18%の試算とは比較対象も基準も異なる。公式発表では、比較対象となった前世代の具体的なモデルの版や入出力比率、再試行を含む詳しい測定条件が明示されていないため、自社の業務でも同水準の削減が得られるとは限らない。

出力速度の向上が、そのまま業務時間の短縮につながるとは限らない

MiniMaxはM3.1 Flashの出力速度について、日常的な利用では毎秒200トークンを超え、中央値(P50)でも毎秒170トークンを超えるとしている。高速化の要因として、計算を必要な部分に絞るスパース性をさらに高めたことを挙げた。ただし、P50は測定値の中央値を表すため、すべてのリクエストで毎秒170トークン以上の速度が保証されるわけではない。

出力速度の向上が直接効果を発揮するのは、モデルが文章やコードを生成する工程だ。例えば、ソフトウェア開発エージェントがコードを修正する場合、生成したコードをテストし、その結果に応じて再び修正することもある。外部ツールの応答待ちや修正のやり直しに時間がかかる以上、推論が約3倍速くなったとしても、業務全体の完了時間が3分の1になるとは限らない。また、最初の出力が返るまでの待ち時間も、毎秒の出力トークン数とは別に測定する必要がある。

さらに、MiniMaxの公式モデル一覧によると、M3.1 Flashはマルチモーダルに対応し、100万トークンのコンテキストウィンドウを備えている。推論時の思考の深さも調整できるという。コンテキストウィンドウはモデルが一度に参照できる情報量を表すため、大量の資料を読み込めることと、その内容を短時間で処理して結果を返せることは分けて考える必要がある。

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複数アプリの操作からソフトウェア開発、セキュリティまで性能を訴求

MiniMaxがM3.1 Flashで強調するのは、単に質問へ回答する能力ではなく、複数の手順を組み合わせて業務を完了するエージェントとしての能力だ。企業業務の自動化を評価するAutomationBench-AAでは上位の成績を収めたと説明しており、複数のSaaSをまたぐ営業、マーケティング、顧客対応、財務、人事などの業務を例に挙げている。また、金融業務に関連するBankerToolBenchでは76.2点を記録したと公表した。このベンチマークでは、複数段階にわたる計画の立案、文書やファイル間の整合性維持、金融規制への対応、連続したツール操作などが評価対象となる。

ソフトウェア開発では、DeepSWE v1.1で73.7%という結果を報告している。MiniMaxによると、このベンチマークは既存コードの理解から新機能の開発、不具合の修正、テストによる検証まで、モデルが自律的に進める複雑な課題を対象としている。コードを一度生成して終わるのではなく、作業結果を確認しながら長い工程を進められるかを評価するものだ。

このほか、MiniMaxはコンピューター操作や専門業務、サイバーセキュリティに関するベンチマーク結果も公表している。主な数値は以下のとおりだ。

評価対象 ベンチマーク MiniMaxの公表値
コンピューター操作とアプリをまたぐ作業 OSWorld V2 61.7点
実際の専門業務や複雑な作業 Agents’ Last Exam(ALE) 29.6点
脆弱性の発見と検証 CyberGym 82%

OSWorld V2はコンピューターの操作やアプリをまたぐ作業を評価し、ALEは実際の専門業務に近い複雑な課題を扱う。両者は評価対象も採点方法も異なるため、61.7点と29.6点を単純に比較して、モデルの得意・不得意を判断することはできない。重要なのは、自社の業務に近い課題を扱う試験を選び、その中でどの程度の成果を上げているかを確認することだ。CyberGymについても、82%という結果は脆弱性の発見・検証能力を評価したものであり、個別システムの安全性を保証するものではない。

MiniMaxはさらに、社内のセキュリティ専門家による評価で、コード監査や脆弱性修正、侵入テスト、マルウェア解析、リバースエンジニアリングでも高い性能を示したと説明している。ただし、これらは提供元による測定や自己評価であり、第三者が同じ条件で再現した結果とは区別する必要がある。導入を検討する企業にとっては、こうしたベンチマークを参考にしながら、自社の業務に近い課題で成功率を測定することが重要になる。

API提供を開始、モデルの重みは後日公開へ

M3.1 FlashはすでにMiniMax APIのほか、M PlanとMiniMax Codeを通じて利用できる。一方、モデルの重みについては後日公開するとしており、さらなる高性能化を目指すPro版も今後登場する予定だ。APIを通じてモデルを利用できることと、自社の設備にモデルを導入して運用できることは異なる。現時点の公式発表では、重みの公開日やライセンス条件が具体的に示されていないため、自社運用を検討する場合は、今後公開される重みの内容と利用条件を確認する必要がある。

当面のAPI利用を比較する際には、トークン単価だけでなく、実際の業務を完了するまでにかかった費用を測ることが有効だ。例えば、同じ業務に使ったAPI料金の総額を成功件数で割れば、「成功1件当たりのAPI費用」を求められる。この計算では、失敗した処理や再試行に使った料金も総額に含める必要があり、成功件数がゼロの場合は算出できない。なお、これは実運用における費用対効果を比較するための評価方法の提案であり、MiniMaxが主張する70%の費用削減を再現する指標ではない。

M3.1 Flashの競争力を判断するうえで重要なのは、低いトークン単価や高い出力速度が、実際の業務でどれほどの効果をもたらすかだ。同じ業務の成功率を維持しながら、成功1件当たりのAPI費用と完了時間を削減できれば、より多くの業務をAIエージェントに任せられる可能性がある。今後は、実環境での費用対効果に加え、モデルの重みの公開条件も注目される。