NVIDIAが、AI PCの普及を加速するため、新メモリ規格「SOCAMM」の開発を進めていることが明らかになった。Samsung、SK hynix、Micronといった主要メモリメーカーと協業し、小型ながら高性能なメモリソリューションの実現を目指す。この動きは、HBMに続く新たなメモリ市場の創出につながる可能性がある。
NVIDIA、独自メモリ規格「SOCAMM」でAI PC市場に革新をもたらす
NVIDIAが、新たなメモリ規格「SOCAMM(System On Chip Advanced Memory Module)」の開発を、Samsung、SK hynix、Micronと極秘に進めていることが、複数の韓国メディアの報道で明らかになった。
SOCAMMは、従来のDRAMモジュールと比較して高いコストパフォーマンスと電力効率を両立し、NVIDIAがCES 2025で発表した「Project DIGITS」のような個人用AIスーパーコンピュータの性能を向上させるために設計された、次世代のメモリ技術である。
業界関係者は「NVIDIAとメモリメーカーは現在、SOCAMMのプロトタイプを交換し、性能テストを実施している段階」と述べており、早ければ2025年末にも量産開始の可能性があることを示唆している。
SOCAMMの特徴:小型、高性能、低消費電力、そしてアップグレードが可能
SOCAMMは、SOCAMMは、従来のDRAMモジュールであるSODIMM(Small Outline Dual Inline Memory Module)や、次世代ノートPC向け低消費電力モジュールLPCAMM(Low-Power Compression Attached Memory Module)と比較して、以下の点で優位性を持つとされている。
高い電力効率とコスト効率
SOCAMMは、基板上に低消費電力のLPDDR5X(Low Power Double Data Rate 5X)DRAMを実装することで、SODIMMで使用される汎用DDR5 DRAMよりも電力効率を高めている。これにより、バッテリー駆動時間を重視するモバイル機器や、電力消費を抑制したいデータセンターでの利用に有利となる。
優れたデータ転送速度
データ転送の入口となるI/O(Input/Output)ポート数も、SOCAMMは694と、LPCAMMの644、SODIMMの260を大きく上回る。このI/Oポート数の多さにより、AIコンピューティングにおけるボトルネックとなりやすいデータ転送速度を大幅に向上させることが期待される。
アップグレードと拡張性
SOCAMMは、着脱可能なモジュール設計を採用する。これにより、ユーザーは必要に応じてメモリモジュールを交換・増設でき、PCの性能を継続的に向上させることが可能となる。また、モジュール自体も小型であるため、限られたスペースにより多くのDRAMを搭載し、メモリ容量を最大化できる。
NVIDIAの戦略:個人用AIスーパーコンピュータの実現
NVIDIAのCEOであるJensen Huan氏は、CES 2025でAI PC「Digits」を発表するなど、個人がAIをより身近に利用できる環境の実現を提唱している。SOCAMMの開発も、この戦略の一環と見られる。
Huang氏は「将来的には、エンジニア、アーティスト、コンピュータをツールとして使うすべての人が、個人用AIスーパーコンピュータを必要とするようになる」と予測する。NVIDIAは、Digitsの次期モデルにSOCAMMを搭載することで、より強力な個人用AI環境を提供することを目指していると考えられる。
NVIDIA主導の開発、JEDECの枠組み外で進行
SOCAMMに関しては、NVIDIAが独自の標準規格として推進している点も注目に値する。これまで、メモリ規格はJEDEC(Joint Electron Device Engineering Council:電子デバイス技術合同評議会)などの標準化団体が中心となって策定してきた。NVIDIAが独自の規格を推進することは、業界の勢力図を塗り替える可能性を秘めている。これは、NVIDIAが独自の技術革新を迅速に進めるための戦略と考えられる。
業界関係者は「NVIDIAが独自のメモリ標準を推進することは、革新と影響力に対する自信の表れである」と分析する。SOCAMMが普及するか否かは、今後のメモリ市場の動向を左右する重要な要素となるだろう。
また、SOCAMMの登場は、SamsungやSK hynixといったメモリメーカーのみならず、SOCAMM用基板を製造するSimmtechやTLBなどの企業にも影響を及ぼす可能性がある。
NVIDIAとメモリメーカー各社は、現在SOCAMMのプロトタイプを交換し、性能テストを実施している。早ければ2025年末にも量産を開始する可能性があると報じられている。
XenoSpectrum’s Take
NVIDIAのSOCAMM開発は、AI時代のコンピューティングにおいてメモリの重要性が一層高まっていることを示す。HBM(High Bandwidth Memory:広帯域メモリ)がAIサーバー市場を牽引してきたように、SOCAMMはAI PCやエッジAI市場において同様の役割を果たす可能性がある。
特に、SOCAMMが有する高い電力効率、データ転送速度、拡張性は、今後のAI技術の進化と普及を加速させる上で不可欠な要素となろう。NVIDIAがSOCAMMを標準規格として確立できれば、メモリ市場における新たなリーダーシップを確立する可能性も視野に入る。
もっとも、SOCAMMがJEDECのような既存の標準化団体を通さずに普及するかどうかは不透明な部分も残る。NVIDIAがどれほど多くのパートナー企業を巻き込み、エコシステムを構築できるかが、今後の成功の鍵を握ると言えよう。
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