テクノロジーと科学の最新の話題を毎日配信中!!

OpenAI、ChatGPT企業版を大刷新:Google Drive/Dropbox連携から会議録音など多くの新機能を追加

Y Kobayashi

2025年6月5日5:26AM

OpenAIは、同社の主力AIチャットボット「ChatGPT」の企業ユーザーに向けた大規模な機能アップデートを発表した。ビジネスユーザー数は300万人を突破し、Google DriveやDropboxといった主要クラウドストレージとの連携機能や、会議の自動記録・要約機能などを新たに搭載。エンタープライズAI市場におけるMicrosoftやGoogleといった巨大IT企業との競争を一層激化させる構えだ。

スポンサーリンク

加速するOpenAIのエンタープライズ戦略:ビジネスユーザー300万人突破の背景

OpenAIの発表によれば、ChatGPTの有料ビジネスユーザー数は300万人に達したという。これは、2025年2月時点での200万人からわずか4ヶ月で50%増という驚異的な伸びであり、企業におけるAI活用への関心と投資が急速に進んでいることを如実に示している。2023年に「ChatGPT Enterprise」を、2024年1月には中小企業やチーム向けの「ChatGPT Team」を相次いで投入し、エンタープライズ市場への攻勢を強めてきたOpenAIの戦略が、着実に実を結びつつあると言えるだろう。

この急成長の背景には、OpenAIが提供する最先端のAIモデル(SOTA: State-of-the-Art models、特定のタスクにおいて最高水準の性能を持つモデルのこと)への直接アクセスや、企業データを学習に利用しないというセキュリティへのコミットメントが、多くの企業に評価されている点があると見られる。OpenAIの広報担当者はVentureBeatに対し、「顧客は、エンタープライズグレードのセキュリティとビジネスデータでトレーニングしないというコミットメントと組み合わせた、最先端のモデルとツールへの直接アクセスのためにChatGPTを選ぶことが多い」と語っている。既存のレガシーシステムにAIを統合するのではなく、AIネイティブな企業としてAI技術の進展に特化している点が、OpenAIの競争優位性となっているようだ。

業務効率を劇的に変えるか?ChatGPT新機能群を徹底解説

今回のアップデートでは、企業の生産性向上に直結する複数の新機能が発表された。その中でも特に注目されるのは以下の機能だ。

データサイロを打ち破る「コネクタ」:Google Drive、Dropbox等とのシームレス連携

これまで多くの企業で課題となっていた、AIと社内データの連携。その壁を取り払う可能性を秘めているのが、新たにベータ版として提供される「コネクタ」機能だ。これにより、ユーザーはChatGPTから直接、Google Drive、Dropbox、Box、SharePoint、OneDriveといった主要なクラウドストレージサービスに保管されている自社のドキュメントやスプレッドシートにアクセスし、情報を検索・分析させることが可能になる。

例えば、「昨年度第1四半期の我が社の売上高は?」といった質問に対し、ChatGPTは関連する社内データを横断的に参照し、必要な情報を抽出・提示する。あるいは、「A製品とB製品に関する過去の企画書を比較し、それぞれの強みと弱みをまとめてほしい」といった、より複雑な指示にも応えられるようになる。OpenAIによれば、この連携機能は各組織が設定している既存のアクセス権限を尊重する形で動作するため、セキュリティ面にも配慮されているという。このコネクタ機能は、ChatGPT Team、Enterprise、そして教育機関向けのEduプランのユーザーが利用可能となる。

この動きは、自社のオフィススイートやクラウドサービスにAI機能を深く統合しようとしているMicrosoftやGoogleにとって、直接的な挑戦状とも受け取れるだろう。

会議の常識が変わる?「Record Mode」による議事録作成とタスク管理の自動化

会議の議事録作成や内容の整理といった煩雑な作業から解放されるかもしれない。ChatGPT Teamユーザー向けに提供される新機能「Record Mode」は、会議やブレインストーミングセッション、あるいは個人的な思考の壁打ちなどを録音し、自動で文字起こしを行う。さらに、タイムスタンプ付きの引用を含む構造化されたメモを生成し、AIが提案するアクションアイテムまで抽出してくれるという。

ユーザーは録音内容や生成されたメモについてChatGPTに質問したり、抽出されたアクションアイテムをOpenAIの作図・コーディング支援ツール「Canvas」ドキュメントに変換したりすることも可能だ。これにより、会議後のフォローアップ作業の大幅な効率化が期待される。この機能は、Otter.aiやZoom、Notionなどが提供する既存の会議支援ツール市場に、OpenAIが本格的に参入することを示唆している。

より深い洞察を導く「Deep Research」:社内外データ連携とMCP採用の意義

OpenAIが提供する、複数ステップの調査タスクを自律的に実行するAIエージェント「Deep Research」も強化された。新たにHubSpot、Linear、そしてMicrosoftやGoogleの各種ツールとの連携コネクタ(ベータ版)が追加され、これらのサービスに蓄積された社内データとウェブ上の情報を組み合わせた、より包括的で深い調査レポートの作成が可能になる。

さらに特筆すべきは、ChatGPT Team、Enterprise、Plus、Proユーザー向けに、Model Context Protocol (MCP) のサポートが追加された点だ。MCPは、AIモデルが多様なデータソースに接続するためのオープンなプロトコルであり、もともとは競合であるAnthropic社によって提唱されたもの。OpenAIがこのプロトコルを採用するという事実は、業界標準化に向けた動きとして非常に興味深い。これにより、企業は自社独自のシステムやツールをDeep Researchに接続し、さらにカスタマイズされた高度な調査分析を行う道が開かれる。

開発効率を加速する「Codex」の進化:o3推論システム搭載の新モデル

ソフトウェア開発の現場でもChatGPTの活用が進むかもしれない。OpenAIはプログラミング支援AI「Codex」を拡張し、同社の次期推論システム「o3」(詳細な技術情報は未公開だが、より高度な論理的思考や問題解決能力を持つとされる)をベースとした新しい「codex-1」モデルを導入しており、この強化されたCodexは、コードの記述、バグの修正、プルリクエストの提案などを、分離されたクラウド環境で実行できる。内部評価では、数時間に及ぶ手作業によるプログラミング作業を自動化できる可能性が示唆されており、ソフトウェア開発チームの生産性向上に大きく貢献することが期待される。

スポンサーリンク

エンタープライズAI市場の覇権争い:OpenAIの戦略と課題

今回の大型アップデートは、OpenAIがエンタープライズAI市場でのリーダーシップを確固たるものにしようとする強い意志の表れだ。しかし、その道のりは平坦ではない。

Microsoft、Googleら巨人との熾烈な競争

最大の競争相手は、言うまでもなくMicrosoftとGoogleだ。両社は既存の広範なエンタープライズ顧客基盤と、自社のオフィススイートやクラウドプラットフォームへのAI機能の深い統合を武器に、OpenAIを追撃している。特にMicrosoftはOpenAIの主要な投資家でありパートナーでもあるが、自社製品(Microsoft 365 Copilotなど)との競合も辞さない構えを見せている。例えば、MicrosoftはBingユーザーに対し、OpenAIの動画生成AI「Sora」を無料で提供開始すると発表しており、月額20ドルのChatGPT Plusサブスクリプションを迂回する形となっている。この複雑な関係性は、今後の市場動向を占う上で重要な要素となるだろう。

Amazonや、AIの安全性に焦点を当てるスタートアップAnthropicなども、高性能なAIモデルとエンタープライズ向けソリューションで急速に存在感を高めている。

拭えぬ懸念:データセキュリティとプライバシー保護への取り組み

企業がAIを導入する上で最も重視する点の一つが、データセキュリティとプライバシー保護だ。機密情報や顧客データを扱う企業にとって、AIサービスにこれらの情報を入力することへの懸念は根強い。VentureBeatがOpenAIの広報担当者にこの点について質問した際、具体的な対策の詳細には踏み込まず、同社のセキュリティポリシーに関する公開ドキュメントを参照するよう促したと報じている。

OpenAIはエンタープライズグレードのセキュリティ対策を講じ、ビジネス顧客のデータをモデルの学習には使用しないと明言しているが、クラウドベースのAIサービスに対する一般的な不信感や、過去のAI関連のセキュリティインシデントは、依然として導入のハードルとなっている。企業が安心して機密情報を扱える環境を提供し続けられるかが、今後の成長の鍵を握るだろう。

Sam Altman CEOの変心?「AIはエンタープライズ導入の段階へ」

OpenAIのSam Altman CEOは、最近の業界イベント(Snowflake Summit)で、「企業におけるAI活用について、初期に賭けをして迅速に学習している人々は、全てがどうなるか様子見している人々よりもはるかに上手くやっている」と述べ、「とにかくやってみることだ(just do it)」と企業リーダーにアドバイスした。これは、約1年前にはAIの本格導入よりも慎重な実験を推奨していた同氏の姿勢からの顕著な変化であり、AI技術がエンタープライズレベルでの実用に足る成熟度に達したという自信の表れと解釈できる。

タレント獲得競争とガバナンス

OpenAIの快進撃は目覚ましいが、課題も存在する。

加速する人材獲得競争:Anthropicの影

AI分野におけるトップタレントの獲得競争は激化の一途をたどっている。特に、元OpenAIの研究者らが設立したAnthropicは、AIの安全性を重視する姿勢と研究者へのより大きな自律性を武器に、OpenAIやGoogle DeepMindから優秀なエンジニアを引き抜いていると報じられている。ある分析によれば、OpenAIのエンジニアがAnthropicに移籍する可能性は、その逆の場合の8倍にも上るという。最先端技術を維持・発展させるためには、優秀な人材の確保と定着が不可欠であり、これはOpenAIにとって継続的な課題となるだろう。

PwCとの提携:エンタープライズ展開の試金石

一方で、エンタープライズ市場への浸透を加速させる動きも見られる。大手コンサルティングファームのPwCは、OpenAIと提携し、ChatGPT Enterpriseの最初のリセラーとなることを発表した。これは、OpenAIの技術とPwCの広範な顧客ネットワークおよびコンサルティング能力を組み合わせることで、大企業へのAI導入を促進する戦略的な一手と言える。この提携の成果は、OpenAIのエンタープライズ戦略の今後を占う上で注目される。

AIの企業導入本格化へ:OpenAIが切り拓く未来

今回のChatGPTのビジネス向け機能の大幅アップデートと300万ユーザー達成というマイルストーンは、単なる成長指標以上の意味を持つ。それは、AIが実験段階を終え、本格的に企業の業務プロセスに組み込まれ、ビジネス価値を生み出す時代が到来しつつあることを示している。OpenAIは、この変革の先頭を走るプレイヤーとして、その地位をさらに固めようとしている。

しかし、激化する競争、データセキュリティへの懸念、人材獲得、そして複雑なガバナンス構造といった課題を乗り越え、持続的な成長を遂げられるかが今後の焦点となってきそうだ。


Sources

Follow Me !

\ この記事が気に入ったら是非フォローを! /

フォローする
スポンサーリンク

コメントする