Samsung System LSI が発表した新しい電力管理IC(PMIC)「S2MIW06」は、ワイヤレス充電の能力を従来から大きく進化させる可能性を秘めた物だ。最大50Wの高速ワイヤレス充電に対応する同チップは、業界標準のQi 2.2規格の開発にも深く関与しており、ワイヤレス充電の今後に大きな影響を与えることが期待される。
革新的なPMICが実現する高速ワイヤレス充電
Samsung System LSIが開発した新世代のパワーマネジメントIC「S2MIW06」は、ワイヤレス充電における電力伝送効率と制御性能を大幅に向上させた画期的な製品だ。最大の特徴は、受信モードにおいて最大50Wという業界最高水準の充電能力を実現した点にある。これは現行の一般的なワイヤレス充電規格の3倍以上の電力供給能力を意味するものだ。
同チップの革新性は、その電力伝送システムの設計にも表れている。まず直流電力を交流に変換するTxインバーターを経て、Tx LCタンクで電力を増幅する。この過程で、誘導式ワイヤレス充電の周波数特性に最適化された電力波形を生成する。その後、受信側のLCタンクに伝送された交流電力は、PMICの整流器によって直流電圧(VRECT)に変換される。最終的に、低ドロップアウト(LDO)レギュレーターを通じてより安定した直流出力電圧(Vout)へと変換され、受信デバイスのバッテリー充電に使用される。この一連のプロセスにおいて、S2MIW06は最大98%という極めて高い電力伝送効率を実現している。
通信システムにおいても、S2MIW06は重要な進化を遂げている。送受信機間の通信には、電力伝送と同じACパワーバンドを利用するインバンド通信方式を採用。これにより、追加の通信チップを必要とせず、商用ワイヤレス充電の全電力範囲において信頼性の高い通信を実現している。さらに、送受信機間の認証プロセスを通じて、高速充電の安全性も確保している。
ハードウェア設計面での革新も特筆に値する。ASK復調用の外部フィルターをチップ内に統合することで、プリント基板(PCB)の使用面積を従来比約15%削減することに成功。これにより、デバイスの小型化と設計の自由度向上に貢献している。また、大容量の内蔵メモリを搭載することで、市場をリードする柔軟なMCU操作を可能にしている。
互換性の面では、基本的な5W充電を行うBaseline Power Profile(BPP)から、15W充電に対応するExtended Power Profile(EPP)、さらには磁気アライメントによる25W充電を実現するMagnetic Power Profile(MPP)まで、すべての主要なQi規格プロファイルをサポートしている。これにより、既存の充電パッドとの幅広い互換性を確保しながら、将来の高速充電規格にも対応可能な拡張性を実現している。
また、送信モードへの対応により、スマートウォッチやワイヤレスイヤホン、他のスマートフォンへの給電機能(ワイヤレスバッテリー共有)も実装。これにより、単なる受信デバイスを超えた、柔軟な電力管理システムとしての機能も備えている。
Qi 2.2規格開発への積極的な関与
Samsungは300社以上が加盟するWireless Power Consortium(WPC)において、次世代規格となるQi 2.2の開発で中心的な役割を担っている。同社のSystem LSI部門は、特に規格の実装面での技術開発を積極的に推進しており、その成果の一つが今回発表されたS2MIW06だ。
現行のQi2規格において重要な要素となっているMagnetic Power Profile(MPP)は、Appleが開発した磁気アライメント技術を基盤としている。このMPPによって、充電デバイスと充電パッドの位置ずれによる充電効率の低下や充電不良といった従来の課題が解決されつつある。現状のMPPは25Wまでの充電をサポートしているが、S2MIW06は将来の高速充電ニーズを見据えて、50Wまでの対応を実現した。この先を見据えた設計は、次世代規格の開発において重要な技術的基盤となることが期待される。
互換性の確保も、規格開発における重要な取り組みの一つだ。Samsungは数百種類のQi認証済み充電パッドに加えて、未認証の充電パッドとの互換性テストも徹底的に実施している。この広範なテストにより、様々な充電環境での安定した動作を確保するとともに、規格開発に向けた実践的な知見を蓄積している。S2MIW06に実装された大容量の内蔵メモリーは、このような多様な充電環境に対応するための柔軟なファームウェア制御を可能にしている。
また、注目すべき点として、Galaxy S25シリーズでの実装計画も明らかにされている。同シリーズではケースを介してQi2 Readyの機能を提供する方針が示されており、これは新規格の段階的な導入を図る戦略的なアプローチといえる。この実装方法により、デバイス本体の設計変更を最小限に抑えながら、新規格がもたらす利点を確実に提供することが可能となる。
このように、SamsungはQi 2.2規格の開発において、単なる規格策定への参加を超えて、実装技術の開発から市場展開まで、包括的なアプローチを取っている。これは、ワイヤレス充電技術の標準化と普及に向けた同社の本格的な取り組みを示すものといえるだろう。
Xenospectrum’s Take
Samsungの新しいPMIC「S2MIW06」は、充電速度について有線とワイヤレス充電に存在するギャップを埋める重要な一歩となるだろう。
しかし、50Wという仕様が示す潜在能力を十分に活用するには、まだいくつかの課題が残されている。発熱管理や充電効率の最適化、さらには規格の標準化など、解決すべき技術的・制度的な問題は少なくない。
また、興味深いのはSamsungがQi 2.2の開発に積極的に関与している点だ。Appleが開発した磁気アライメント技術をWPCに提供したように、業界全体での協力関係の構築が進んでいる。かつての競合関係が、より良いユーザー体験の実現に向けた協調へと変化しているのだ。
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