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スマホカメラが突然故障? 自動運転車の「目」LiDAR、その知られざるリスクと対策

Y Kobayashi

2025年5月25日

近年、急速に進化を遂げる自動運転技術。その核心を担うセンサーの一つが「LiDAR(Light Detection and Ranging: ライダー)」システムだ。しかし、この最先端の技術が、私たちの身近なスマートフォンやカメラのセンサーを予期せず損傷させてしまう可能性が指摘され、波紋を広げている。

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リード文:あなたのスマートフォンは大丈夫か?忍び寄るLiDARの脅威

街中で見かける最新EV、あるいはエンターテイメント施設の華やかなレーザーショー。これらに搭載されたLiDARや高出力レーザーが、知らぬ間にあなたのスマートフォンのカメラを「破壊」するかもしれないとしたら…?実際に、スウェーデンの自動車メーカーVolvoの最新EV「EX90」に搭載されたLiDARセンサーが、iPhoneのカメラセンサーを損傷させたとする動画がSNSで拡散され、大きな注目を集めた。だがこれは決して他人事ではない。

LiDARとは何か? なぜカメラセンサーに危険なのか?

まず、LiDAR(Light Detection and Ranging)について簡単に触れておこう。LiDARは、レーザー光を対象物に照射し、その反射光をセンサーで捉えることで、対象物までの距離や形状を精密に測定する技術である。いわば、自動運転車にとっての「目」のような役割を果たし、周囲の3Dマップを作成して安全な走行を支援する。

このレーザー光は、多くの場合、人間の目には見えない近赤外線などが用いられ、通常の使用環境では人体への安全性は考慮されている。国際電気標準会議(IEC)の安全基準「IEC 60825」や米国国家規格協会(ANSI)の「Z136」などでは、レーザー光に対する「最大許容露光量(MPE: Maximum Permissible Exposure)」が定められており、これ以下の出力であれば人の目に問題は起きないとされる。

しかし、問題はカメラのイメージセンサー(CCDやCMOS)である。国際レーザーディスプレイ協会(ILDA)の警告によれば、カメラセンサーは一般的に人間の網膜よりもレーザー光による損傷を受けやすいとされる。その主な理由は以下の2点である。

  1. レンズによる集光効果: カメラのレンズは、光を集めてセンサー上に像を結ぶ役割を持つ。この集光効果により、微弱なレーザー光であってもセンサーの特定箇所にエネルギーが集中し、過熱を引き起こしてピクセルを焼損・破壊してしまう可能性がある。特に、望遠レンズを使用すると、この集光効果はさらに高まり、危険性が増す。
  2. センサー自体の脆弱性: イメージセンサーは非常にデリケートな電子部品であり、人間の目のように自己修復機能はない。一度損傷を受けると、それは恒久的なダメージとなることが多い。そして重要なのは、カメラセンサーに対するMPEのような明確な安全基準は存在しないという点である。つまり、人間の目には安全なレベルのレーザー光でも、カメラセンサーにとっては致命的となるケースがあり得るのだ。
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現実の脅威:Volvo EX90とiPhoneの衝撃的な事例

このリスクを具体的に示したのが、前述のVolvo EX90の事例である。2025年5月頃、ソーシャルニュースサイトRedditに投稿された動画には、ユーザーがiPhone 16 Pro Max(当時未発表の機種名を動画投稿者が推測したものと思われるが、高性能スマートフォンの代名詞として使われている)でVolvo EX90のルーフに搭載されたLiDARユニットを撮影した際、画面に紫やピンクの斑点状のノイズ(ピクセル欠損)が次々と現れる様子が収められていた。

Never film the new Ex90 because you will break your cell camera.Lidar lasers burn your camera.
byu/Jeguetelli inVolvo

この現象は特にスマートフォンカメラの望遠(ズーム)機能を使用した際に顕著に発生したとのことである。ズームアウトして広角カメラに切り替えると、この損傷は見られなくなったと報告されているが、これは広角レンズの方が集光の度合いが低く、また別のセンサーを使用しているためと考えられる。

Volvo自身もこの問題を認識しており、同社のサポートページでは「LiDARに直接カメラを向けないでください」「クローズアップ撮影は避けてください」といった注意喚起を行っている。さらに、The Driveの取材に対しVolvoの担当者は、「LiDARから放出されるレーザー光は、カメラセンサーを損傷させたり、性能に影響を与えたりする可能性があります」とコメントし、やむを得ず近距離で撮影する場合はカメラレンズにフィルターや保護カバーを使用することを推奨している。

カメラセンサー損傷のメカニズムと影響の深刻度

LiDARやレーザー光によるカメラセンサーの損傷は、その強さや露光時間、レンズの焦点距離など様々な要因によって深刻度が変わる。ILDAによれば、被害の例として以下のようなものが挙げられる。

  • 軽微な損傷: 数ピクセルのドット抜け。普段は気づかないが、空のような均一な色の部分を撮影すると目立つ。
  • 深刻な損傷: より広範囲のピクセル不良、またはレーザー光のパターンがセンサーに「焼き付いた」状態。ほとんどの写真や動画で損傷が明らかになり、カメラは実質的に使用不能となる。
  • 線状の欠陥: 特定の箇所への損傷が、センサーのデータ読み出しラインに影響を与え、水平または垂直方向の線状のノイズとして現れる。

YouTubeなどの動画サイトで「laser damage camera sensor」といったキーワードで検索すると、レーザー光によってカメラが損傷したとされる多くの事例動画が見つかる。中には、コンサート会場のレーザー演出や、カメラのフラッシュ(ストロボ)によってセンサーが損傷したとする報告もあり、高集束された強力な光がカメラセンサーにとって脅威となり得ることを示唆している。

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LiDARだけではない! 日常生活に潜むレーザー光のリスク

自動車のLiDARだけでなく、私たちの身の回りにはカメラセンサーを損傷させる可能性のあるレーザー光源が存在する。代表的なものが、コンサートやイベントで使用される演出用のレーザーである。ILDAは、レーザーショーの制作者は観客のカメラやビデオカメラの損傷に対して責任を負うことはできないとしており、観客自身が注意を払う必要があると強調している。

具体的には、以下の点に注意するよう呼びかけている。

  • レーザー光線を直接カメラレンズに向けないこと。
  • レーザー光が空中を走る様子や、スクリーンに投影されたグラフィックスを撮影する際は、ファインダーや画面内にレーザーの光源(プロジェクターの射出口や反射ミラー)が見えないようにする。これにより、ビーム全体のパワーがレンズに直接入ることを避けられる。

また、一眼レフカメラの光学ファインダーや、双眼鏡、望遠鏡など、光を集める光学機器を通してレーザー光源を直接覗き込む行為は、目にとってもカメラにとっても非常に危険である。

あなたのスマホカメラを守るために:今日からできる具体的な対策

では、LiDARやレーザー光から私たちの貴重なカメラを守るために、具体的にどのような対策を講じればよいのだろうか。これまでの情報をまとめると、以下の点が重要となる。

  1. LiDAR搭載車両やレーザー光源にカメラを「直接」向けない: これが最も基本的な対策である。特に、LiDARユニットが動作していることが明らかな場合は注意が必要である。
  2. 「ズーム(望遠)」しての撮影は極力避ける: 望遠レンズは光を強く集光するため、リスクが格段に高まる。遠くのものを撮影したい気持ちは理解できるが、カメラセンサーの安全を優先すべきである。
  3. 「近距離」での撮影には細心の注意を: 対象との距離が近いほど、レーザー光のエネルギー密度は高くなる。Volvoも「クローズアップ」を避けるよう警告している。
  4. 不審な光にはレンズを向けない: LiDAR以外でも、強力なレーザーポインターや一部の産業用レーザーなどもカメラセンサーにダメージを与える可能性がある。
  5. やむを得ず撮影する場合は「フィルター」等を検討: Volvoが推奨するように、NDフィルター(減光フィルター)やレーザー保護フィルターなどが有効な場合があるが、フィルターの種類や性能によっては効果が限定的である可能性も理解しておく必要がある。
  6. 広角レンズでの撮影を心がける:広角カメラであれば1メートル程度離れていれば目立った損傷は起きにくいだろうが、これも絶対安全というわけではない。
  7. イベント会場では特に注意: コンサートやクラブなど、レーザー演出が多用される場所では、常にカメラのレンズがレーザー光源に向かないよう意識する必要がある。

自動車メーカーと専門家の見解、そして今後の課題

Volvoが公式に注意喚起を行ったことは評価できるが、LiDAR技術の普及はまだ始まったばかりである。自動運転車の開発・普及が進むにつれ、今後ますます多くの自動車にLiDARが搭載されることが予想される。

それに伴い、一般ユーザーが意図せずLiDAR光にカメラを曝してしまう機会も増えるだろう。自動車メーカーには、LiDARの安全性に関する情報提供をより積極的に行うこと、そして可能であれば、カメラセンサーへの影響を低減する技術的対策(例えば、レーザーの出力を状況に応じて最適化する、特定の波長をカットするフィルターをLiDARユニット自体に組み込むなど)を検討することが求められる。

また、私たちユーザー自身も、新しいテクノロジーが持つ利便性の裏側にある潜在的なリスクについて理解を深め、賢く付き合っていくリテラシーを身につける必要がある。

まとめ:テクノロジーとの共存、賢明なユーザーであるために

自動運転技術の「目」であるLiDARは、私たちの移動をより安全で快適なものに変える可能性を秘めている。しかし、その光が私たちのスマートフォンの「目」であるカメラセンサーを脅かすという事実は、テクノロジーとの共存の難しさを示唆しているのかもしれない。

本記事で解説した知識と対策を心に留めておくことで、予期せぬトラブルからあなたの愛用するカメラを守ることができるはずだ。新しい技術の恩恵を享受しつつ、そのリスクも正しく理解し、賢明なユーザーであり続けること。それが、これからのデジタル社会を生きる私たちに求められる姿勢と言える。


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「スマホカメラが突然故障? 自動運転車の「目」LiDAR、その知られざるリスクと対策」への1件のフィードバック

  1. 昔はFCケーブルがちゃんとつながっているか端子の赤い光を目視したものだが、あれで自分も網膜をかなり焼いてしまているんだろうなぁ。
    (本当に危ないのは目に見えない高出力赤外線レーザー光線で、機械をメンテナンスする時はゴーグルを着用するがそれでも危険)

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