Gartnerは2026年7月10日、「Hype Cycle for AI in IT Operations, 2026」を公表した。The Registerが伝えた文書の予測では、エージェント型AIを本番で大規模に使うインフラストラクチャ/オペレーション(I&O)組織の40%が、2028年までに事業上重大なサービス中断を経験する。2026年の1%未満から急増する計算だ。AIが複数の運用ツールを横断してくれるという期待とは逆に、当面は監視、オーケストレーション、権限制御の製品が増え、その複雑さが自動化の速度と結びつく。

この予測を「AIは危険だから人手へ戻せ」という話に縮めると、実務上の意味を失う。従来のAIOpsはアラートの集約や異常検知、原因候補の提示が中心だった。これから広がるagentic I&Oは、AIが計画を立て、ツールを選び、設定変更や復旧操作まで実行する。越えるのは性能の境界ではなく、提案から実行への境界である。

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40%が指すのは、AI運用を本番で大規模利用する組織

40%という数字の分母は、すべての企業でも、すべてのI&O部門でもない。Gartnerの予測が対象にしているのは、agentic I&Oを本番環境で大規模に利用する組織だ。また「事業上重大なサービス中断」は全停止より広く、40%の障害がAIに起因するという意味でも、障害件数が40%増えるという意味でもない。これは実測値ではなく、2028年に向けた戦略的プランニングの仮説である。

それでも警告が重要なのは、採用と自律性が同時に進むと見込まれているためだ。同じ文書は、ITインフラ運用にagentic AIを導入する企業が現在の10%未満から2029年に60%へ増えると予測する。さらに、AIが提案したアクションのうち人の承認を経る割合は、2025年の80%から2029年には20%まで下がる。人が確認する4件の提案が1件へ減る間に、本番で動くエージェントは増えていく。

Gartnerが2025年7月に700人超のCIOへ行った別の調査では、2030年にIT作業の75%をAIで補強された人間が担い、25%をAIが単独で処理すると予想された。今回のHype Cycleは、同年までにI&Oチームの半数が複雑な管理タスクを担うエージェントへの投資を受けて再編されるともみる。運用担当者が消えるという直線的な予測ではない。担当者の仕事が、個別操作から権限設計、例外処理、エージェントの監督へ移るという見通しだ。

コンソールは減る前に増え、文脈が分断される

AI運用ツールが約束するのは、自然言語で複数システムへ問い合わせ、ログやメトリクスを関連づけ、復旧まで進める統合体験である。しかしGartnerは、少なくとも今後2年ほどは逆方向へ進み、「より多くの層、より多くの制御点、専門化した観測・オーケストレーション・管理機能」が必要になるとみる。将来、市場とベンダーの統合が進んでからツール数が減るという順序だ。

ここでいうコンソールの乱立は、ブラウザのタブが増える問題より深い。クラウド、ネットワーク、エンドポイントからITサービス管理やFinOpsまでが別々のエージェントを持てば、IDと権限、ポリシーや監査ログも個別に生まれる。障害対応時には、どのエージェントが何を観測し、どの情報から判断し、どの資格情報で何を変更したかを時系列でつなぎ直さなければならない。

運用面 既存の管理対象 エージェント導入で増える対象 分断したときの症状
観測 ログ、メトリクス、トレース プロンプト、モデル応答、ツール呼び出し、メモリ 判断経路を再現できず、原因候補が競合する
統制 IAM、変更承認、構成ポリシー 非人間ID、エージェント別権限、ガードレール 許可されたツールが意図しない目的に使われる
実行 Runbook、IaC、ジョブ管理 自然言語の計画、複数エージェント間の委任 失敗が別ドメインへ連鎖し、停止点が曖昧になる
費用 クラウド資源、ライセンス トークン、モデル、再試行、外部API 復旧ループが支出と負荷を同時に膨らませる

既存の観測環境も、すでに統合を終えていない。Grafana Labsが76カ国1,363人から回答を得た2026年調査では、38%が複雑性と運用負荷を最大の懸念に挙げた。一方、77%は観測基盤の集中化によって時間または費用を節約したと答えている。同社コミュニティ経由の回答を含むため市場全体の比率とは言えないが、AIが入る前から文脈の集約が効果を持つことは分かる。

エージェントそのものも増える。Gartnerは、Fortune 500企業1社あたり平均で使われるエージェントが2025年の15未満から2028年に15万超へ膨らむと予測するのに対し、適切なガバナンスを持つと考える組織は13%にすぎないとした。管理ツールの統合を待っている間にも、管理すべき主体の数は桁違いに増える。

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障害を増幅するのは、誤り率と権限と速度の掛け算

AIが運用を不安定にする仕組みを考える際、モデルの正答率だけを見ても足りない。実際の被害は、誤ったアクションの発生率と実行回数で決まり、資格情報が届く範囲と検知・復旧時間がそれを増幅する。人の承認が減れば実行は速くなる。広い権限を持つエージェントが複数ドメインを横断すれば、1回の誤りが触れられる範囲も広がる。

DORAの2025年調査はI&Oエージェントを直接測った研究ではないが、約5,000人の技術専門職を調べ、AI利用がソフトウェアのスループットと製品成果に正の関係を持つ一方、デリバリーの安定性とは負の関係を保っていると報告した。2024年調査では、AI利用が25%増えるごとに文書品質は7.5%、コード品質は3.4%、レビュー速度は3.1%改善したが、安定性は7.2%低下する関連が出ていた。2025年にはスループットが改善へ転じても、安定性の弱さは残った。DORAは、AIが変更量を増やしたとき、自動テスト、成熟した版管理、速いフィードバックが弱い下流工程ほど不安定になると説明する。

この機構はAI以前の自動化でも確認されている。GoogleのSREチームは、退役させるサーバーの集合が空だった際、処理系が空集合を「全対象」と解釈し、世界各地のコロケーション設備にあるディスク消去を開始した事例を公開している。バグは小さくても、正規の自動化が広い権限と機械速度を持っていたため、被害範囲が一気に拡大した。Googleは自動化を「力の増幅器」と呼び、適用範囲を明確に定めなければ害にもなると記している。

agentic I&Oでは、この古い問題に確率的な計画と動的なツール選択が加わる。OWASPの「Top 10 for Agentic Applications 2026」は、正規ツールの誤用とID・権限の悪用を主要リスクに数えた。エージェント供給網の侵害や、予期しないコード実行も対象である。決定論的ガードレールは、許可された操作を一定の規則で絞るには有効だ。しかしポリシー自体が誤り、権限が広すぎ、停止条件が欠けていれば、誤った操作を一貫して繰り返す装置にもなる。

統合を待たず、観測と実行の境界を固定する

管理ツールを一社へ集約すれば解決するとは限らない。統合製品が観測、判断、実行を同じ障害ドメインに収めると、その制御面が止まった際に代替経路まで失うからだ。先に必要なのは、エージェントが入れ替わっても変わらない境界である。構成の正本はGitやCMDB、IDの正本はIAM、変更履歴はITSMに残し、AIの会話履歴を新しい正本にしない設計が要る。

実行権限は、操作の可逆性と影響範囲で分けると判断しやすい。読み取りと診断は自律実行を許し、元へ戻せる低リスク変更はカナリアと自動ロールバックを条件にする。本番全体へ及ぶ設定変更、データ削除、資格情報の更新は人の承認を残す。復元不能な操作はエージェントの資格情報から外す。Google SREが勧めるように変更を小さく部分展開し、SLOで評価して即座に戻せるようにする。この原則はAI運用でも安全装置になる。

観測データの共通化は、コンソール統合より先に着手できる。OpenTelemetryは、モデル名とトークン消費、呼び出しのレイテンシを共通形式で記録するGenAI向けsemantic conventionsを開発している。各ツールの呼び出しと結果も追跡対象だ。ただし、エージェント・フレームワーク間の共通仕様はなお発展途上である。プロンプトやツール引数には機密情報が入るため、収集範囲と保持期間、マスキング方法と閲覧権限を同時に決めなければ、観測基盤が新しい情報漏洩経路になる。

Gartner自身も2026年6月のAgentic AI IntentOps Frameworkで、機械可読な運用意図がなければAIエージェントは業務成果を確実に守れないとし、明示的な仕様を定めてからトラブルシューティング以外へ広げるよう求めた。製品選定では、資格情報を操作単位で絞れるか、ドライランがあるかを確認する。同じ操作を繰り返しても状態を壊さないか、監査ログを外部へ出せるかも欠かせない。停止と復旧は、製品本体が止まっても使える別経路から実行できる必要がある。

2028年の40%予測を外すには、AIによる自動化率を成功指標に置かないことだ。AIアクションの取り消し率とSLO違反を測り、権限逸脱も記録する。インシデント時に判断経路を再構成するまでの時間は、導入前から基準値を取る必要がある。エージェントが増えても、1回の誤りが届く範囲を小さく保ち、人が制御を取り戻せる。その条件を満たした組織で初めて、管理ツールの増加は将来の統合へ向かう過渡期になる。