Googleの最新フラッグシップスマートフォン Pixel 9 Pro XL に搭載された新型プロセッサ「Tensor G4」が、予想外の深刻な性能低下を示す結果が明らかになった。ストレステストにおいて、Tensor G4 は最大性能の約50%まで性能が低下する熱問題に直面している可能性が浮上し、Googleの技術力と製品価値に改めて疑問が投げかけられている。
サーマルスロットリングによる急激なTensor G4の性能低下
Pixel 9 Pro XLに搭載されたTensor G4プロセッサが、持続的な負荷がかかる状況下で著しい性能低下を示すことが明らかになった。X上で@callmeshazzamによって公開されたCPU Throttling Testアプリの結果は、事前の期待を裏切る物だった。このテストでは、Tensor G4は約3分間の100%負荷後に“サーマルスロットリング”が発生し、性能の抑制が開始され、わずか4分経過時点で最大60%近くもの性能低下を記録している。
具体的な数値を詳しく見ていくと、Tensor G4の性能低下の深刻さがより鮮明になる。プロセッサの最大性能は341GIPS(1秒あたり10億命令)を記録したのに対し、最も性能低下が激しい時点では145.5GIPSまで低下した。これは最大性能のわずか42.6%に相当し、半分以下まで性能が落ち込んだことを意味する。その後、性能は若干回復し、最大性能の約65%で安定したとされているが、これでも本来の性能からは大きく乖離している。
周波数の観点からも、Tensor G4の性能低下は顕著だった。パフォーマンスコアの周波数は最低1.32 GHzまで低下し、高効率コアに至っては570 MHzという極めて低い周波数まで落ち込んだ。これは、Geekbench 5の結果から推測されるTensor G4の通常動作周波数(1コアが最大3.1 GHz、3コアが3.6 GHz、4つの効率コアが1.95 GHz)と比較すると、大きなパフォーマンスの低下と言わざるを得ない。
この結果は、Google が Pixel 9 Pro XL に採用したとするベイパーチャンバー冷却ソリューションの効果に大きな疑問を投げかけるものとなった。Google は Pixel 9 シリーズの発表時に、ベースモデルを除く Pixel 9 Pro、Pixel 9 Pro XL、Pixel 9 Pro Fold の全モデルにベイパーチャンバー冷却システムを採用し、Tensor G4 の熱制御を改善したと主張していた。この改善は、前年の Pixel 8 と Pixel 8 Pro がストレステスト時に深刻な過熱問題を抱えていたことへの対応策として期待されていた。しかし、今回のストレステストの結果は、少なくとも極端な負荷がかかる状況下では、その効果が十分でない可能性を強く示唆している。
ただし、この結果を解釈する際には慎重さも必要だ。ストレステストは最悪のシナリオを想定したものであり、日常的な使用では必ずしもこのような極端な性能低下は起こらない可能性がある。実際、昨年の Pixel 8 Pro に搭載された Google Tensor G3 の 3DMark テストでは、熱によるパフォーマンス低下は12〜14%程度にとどまっていた。また、テスト環境の周囲温度など、結果に影響を与える可能性のある要因についても情報が不足している点は考慮に入れるべきだろう。
さらに、他の高性能プロセッサでも同様のストレステストで大幅な性能低下が報告されていることから、この種のテストが一般的にスマートフォン用SoCに厳しい負荷をかけることも念頭に置く必要がある。例えば、TSMCの最新の4nm「N4P」プロセスで製造されたMediaTek Dimensity 9300を搭載したVivo X100でも、同様のストレステストで最大46%の性能低下を示したという報告がある。このことは、最新の製造プロセスを採用したプロセッサでさえ、極端な負荷下では大幅な性能低下を避けられない可能性を示唆している。
GoogleのTensorシリーズは、これまでも性能や発熱の問題で批判を受けてきた経緯がある。Google は Tensor G4 について、優れた生の処理能力とAI性能、そして驚異的な電力効率を謳っておりが、Pixel 9シリーズについてはベースモデルと上位モデルで冷却ソリューションで差別化を図っているが、少なくとも持続的な高負荷時の性能維持という観点では、その主張に疑問符が付くことになった。
しかし、実際の使用シーンでの性能や、AI処理能力など、他の側面での評価も待たれるところだ。スマートフォンの価値は単純な処理性能だけでなく、カメラ性能やソフトウェア機能、バッテリー寿命など、多岐にわたる要素で決まる。Tensor G4 が他の領域で優れた性能を発揮する可能性も十分にあり、総合的な評価はこれからの詳細なレビューを待つ必要がある。
今後、より多くのテストや実使用レビューが行われることで、Tensor G4の真の性能とPixel 9 Pro XLの価値が明らかになっていくだろう。Google にとっては、次世代のTensorプロセッサでこれらの課題を克服し、競合他社に劣らない性能と効率性を実現することが急務となる。特に、熱制御技術の更なる改善や、極端な負荷時でも安定した性能を維持できるアーキテクチャの開発が求められるだろう。同時に、AI処理や画像処理など、Tensorシリーズの強みとされる領域での優位性をさらに高めることで、総合的な製品価値を向上させる必要があるだろう。
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