MSIは、AMD Ryzen 7 9700XとRyzen 5 9600Xプロセッサ向けに、TDP(熱設計電力)を65Wから105Wに引き上げる新しいBIOS設定を追加した。この更新により、マルチコアパフォーマンスが最大13%向上すると報告されている。
新BIOS更新の詳細とパフォーマンス向上
MSIは、AMD AGESA BIOS PI 1.2.0.1を搭載した最新のBIOS更新を正式にリリースした。この更新により、ユーザーはRyzen 7 9700XとRyzen 5 9600Xプロセッサの電力制限を65Wから105Wに引き上げることが可能になった。
対応マザーボードは、X670EおよびB650シリーズの特定モデルで、MEG X670E GODLIKE、MPG B650 CARBON WIFI、MEG X670E ACEなどが含まれる。一覧は以下の通りだ:
- MEG X670E GODLIKE
- MPG B650 CARBON WIFI
- MEG X670E ACE
- MPG B650 EDGE WIFI
- MPG X670E CARBON WIFI
- MAG B650 TOMAHAWK WIFI
- MAG X670E TOMAHAWK WIFI
- MAG B650M MORTAR WIFI / MAG B650M MORTAR
- X670E GAMING PLUS WIFI
- B650M GAMING PLUS WIFI
- PRO B650-P WIFI
対応マザーボードの所有者は、MSIの公式サイトから新しいBIOSをダウンロードできる。現時点で対応していないMSI 600シリーズマザーボードについても、今後数週間以内に更新が提供される予定だ。
新機能を有効にするには、BIOSの「OC」タブ内にある「CPU Settings」から「TDP to 105W」モードを選択する必要がある。この設定はデフォルトでは無効になっているため、ユーザーが手動で有効化する必要がある。
MSIによると、この設定を有効にすることで、Cinebench R23のマルチコアテストにおいて、Ryzen 7 9700Xの性能が20,409ポイントから23,153ポイントに向上し、約13%のパフォーマンス向上が確認されている。この数値は、以前からリークされていた情報と一致している。
ただし、MSIは現時点でこの更新を「ベータ版」として位置付けており、「TDP to 105W」モードを使用した際の製品故障がAMDやMSIの保証対象となるかは不明確である。また、この機能はBIOS内で「オーバークロック」セクションに配置されているため、ユーザーは使用に際して注意が必要である。
AMD Ryzen 9000シリーズの評価と今後の展望
AMD Ryzen 9000シリーズは、Zen 5マイクロアーキテクチャを採用し、約16%のIPC(命令セットあたりのサイクル数)の向上を謳って発表された。しかし、実際のレビューが解禁されると、特にWindows環境下での性能向上が期待を下回り、技術メディアやファンからの評価は芳しくなかった。これまでのAMD製品の印象的な性能向上とは異なり、Zen 5アーキテクチャの初期評価は「まずまず」というレベルにとどまっていた。
この状況を受け、AMDはWindowsの最適化不足を指摘し、性能向上のためのパッチを約束した。その後の検証で、Windows 11 24H2向けに開発されたパッチが、ゲーミング性能を平均11%向上させることが確認された。さらに、このパッチは23H2のPCにも提供される予定である。これにより、Windows環境下でのRyzen 9000シリーズの性能が大幅に改善されることが期待されている。
Ryzen 7 9700XとRyzen 5 9600Xは、シングルコア性能では優れているものの、マルチコアを活用する生産性タスクでは同クラスの競合製品に劣っていた。今回のTDP引き上げオプションにより、この弱点が大幅に改善されることが期待される。特に、マルチコア性能が重要視される専門的な作業や高負荷のタスクを行うユーザーにとっては、魅力的な選択肢となる可能性が高い。
MSIによる「TDP to 105W」モードの提供は、AMD Ryzen 9000シリーズの性能を引き出すための重要なステップとなる可能性がある。この機能により、Ryzen 7 9700XとRyzen 5 9600Xは、より高い電力消費を許容することで、長時間にわたって高いパフォーマンスを維持できるようになる。ただし、消費電力の増加に伴う発熱の増加も考慮する必要があり、適切な冷却ソリューションの使用が重要となる。
他のマザーボードメーカーも同様の機能を提供するかどうか、今後の動向が注目される。ASUSやGIGABYTEなどの主要メーカーが追随すれば、Ryzen 9000シリーズユーザー全体にとって大きなメリットとなるだろう。
最後に、AMDも独自のTDP引き上げオプションを提供する予定であることが報じられているが、具体的な時期や詳細はまだ明らかになっていない。MSIの取り組みがAMDの公式対応を加速させる可能性もあり、今後のAMDの動きにも注目が集まっている。
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