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Qualcommが依頼した調査によるとApple C1モデムはまだQualcomm製に劣るとの結果

Y Kobayashi

2025年5月29日6:01PM

Qualcomm Technologiesの依頼により実施された最新の5G通信性能比較調査が公開されたが、以前に報告された内容とは異なる結果となり、議論を呼びそうだ。調査機関Cellular Insightsが2025年5月27日に発表したレポートによると、Apple初の自社開発5Gモデム「C1」を搭載したiPhone 16eは、QualcommのSnapdragonモデムを搭載したAndroidスマートフォンに対し、特にアップロード速度において大幅に劣る性能を示したという。

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Qualcomm製モデム搭載AndroidがiPhone 16eを圧倒

Cellular Insightsが公開した「Comparative 5G Performance Report: Android Smartphones vs. iPhone 16e」と題されたレポートの結論は明確だ。ニューヨーク市のT-MobileのSub-6GHz帯5Gスタンドアロン(SA)ネットワーク環境下で行われた実地テストにおいて、Qualcomm製モデムを搭載したAndroidデバイスは、Apple C1モデム搭載のiPhone 16eを一貫して上回る性能を示した。

特に注目すべきは、平均スループットにおける差である。3つの異なるロケーションで測定された結果、AndroidデバイスはiPhone 16eと比較して、ダウンロード速度で34.3%から35.2%高速、そしてアップロード速度に至っては81.4%から91.0%も高速であったと報告されている。この数値は、特にアップロード性能において、両者の間に歴然とした差が存在することを示唆している。

比較対象となったデバイスは以下の通りだ。

  • iPhone 16e: Appleの第1世代C1モデム搭載。価格599ドル。2025年2月リリース。
  • Android A: Snapdragon X80 5G Modem-RF System搭載の2025年フラッグシップ機。価格799ドル。2025年1月リリース。
  • Android B: Snapdragon X75 5G Modem-RF System搭載の2024年フラッグシップ機。価格619ドル。2024年1月リリース。

レポートは、「QualcommベースのAndroidデバイスは、全てのRFシナリオにおいてiPhone 16eを一貫して凌駕し、いくつかの重要な利点を明らかにした」と述べている。

テストの背景:ニューヨーク市T-Mobile網での実環境比較

今回のテストは、単なる実験室レベルの比較ではなく、現実の都市環境におけるユーザー体験を反映することを目指して設計された。テストは2025年4月下旬から5月上旬にかけて、ニューヨーク市アストリア地区のT-Mobile商用5G SAネットワーク上で実施された。このネットワークは、低周波数帯(ローバンド)と中周波数帯(ミッドバンド)のFDD(周波数分割複信)およびTDD(時分割複信)スペクトラムを組み合わせている。

Cellular Insightsは、近距離セル(Near-Cell、基地局に近い)、中距離セル(Mid-Cell)、遠距離セル(Far-Cell、基地局から遠い、または電波が届きにくい)という、多様な無線周波数(RF)環境を再現。これにより、様々な信号条件下でのパフォーマンスを評価した。レポートによれば、全デバイスはテスト中、一貫して5G SAネットワークに接続されていたという。

興味深いのは、T-Mobileのネットワークが下り最大4波、上り最大2波のキャリアアグリゲーション(CA)をサポートしている点だ。キャリアアグリゲーションとは、複数の周波数帯を束ねて同時に使用することで通信速度を向上させる技術である。この機能の活用度合いが、今回の性能差の一因となった可能性が指摘されている。

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なぜ差がついたのか? 技術的な要因を探る

では、なぜこれほど大きな性能差、特にアップロード速度での差が生じたのだろうか?Cellular Insightsのレポートは、いくつかの技術的要因を指摘している。

  1. キャリアアグリゲーション(CA)能力の優位性:
    Androidデバイスは、下り4CC(4つのコンポーネントキャリア)および上り2CCのULCA(アップリンクキャリアアグリゲーション)を活用していたのに対し、iPhone 16eは下り3CCが疑われ、ULCAは観測されなかったという。ULCAは複数の周波数帯を上り通信に利用することで速度を大幅に向上させる技術であり、これが非対応、あるいは非活用であったとすれば、iPhone 16eのアップロード性能が劣る大きな理由となり得る。
  2. スペクトル効率と帯域幅利用の安定性:
    Qualcommモデム搭載機は、より高いスペクトル効率(周波数帯域あたりのデータ伝送効率)を示し、利用可能な帯域幅をより安定して活用していた。
  3. 悪条件下での性能差拡大:
    電波状況が悪い(Sub-optimal RF conditions)、例えば屋内深くのような環境では、性能差がより顕著になった。これは、実際のユーザー体験に直接影響する重要なポイントだ。レポートは、「特にネットワークがTDDからFDDをPCC(Primary Component Carrier:主要搬送波)として用いる劣悪なRF環境に移行した際、iPhone 16eは下り・上りともにAndroidの性能に追いつくのに苦労した」と記述している。
  4. プラットフォームの成熟度と将来機能への対応:
    Qualcommプラットフォームは、FDD+FDD ULCAのような将来のネットワーク機能に対する前方互換性も含め、より高い成熟度を持つと評価されている。

さらに、レポートはネットワーク側の要因として、テストされたT-MobileのgNodeB(5G基地局)において、約2.5GbpsのPHY層(物理層)スループット上限が一貫して観測されたことを指摘している。これはライセンス制限やバックホール(基地局とコアネットワークを繋ぐ回線)の制約によるものかもしれないとしつつ、「このネットワーク側のキャップがなければ、Androidデバイスはさらに高いピークダウンリンク性能を示したであろうと推測するのが妥当」と述べている。つまり、Android機のポテンシャルはさらに高かった可能性があるということだ。

iPhone 16e特有の課題:熱問題と診断情報の制約

レポートは、テスト中のiPhone 16eの挙動についても触れている。特にテストロケーション1での屋外テストにおいて、iPhone 16eは顕著な熱を持ち、2分間のテストインターバル中に画面の輝度が積極的に低下する「サーマルミティゲーション(熱抑制)行動」が明確に観察されたという。熱によるスロットリング(性能抑制)が強く疑われるものの、iOSのチップセットレベルでの診断アクセスが制限されているため、性能指標への直接的な影響は確認できなかったとしている。

この診断情報の制約は、比較の公平性にも影響を与えかねない。Androidデバイスではチップセットレベルでの完全なアクセスが可能だったのに対し、iPhoneではアプリケーションレイヤーのスループット分析に限定された。この制限があってもなお、性能差は「明白かつ観測可能」だったとレポートは結論付けている。

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調査結果への多角的な視点:鵜呑みにできない「Qualcomm依頼」の影

この調査結果を評価する上で、いくつかの重要な留意点がある。

まず、この調査はQualcomm Technologiesによって依頼されたものであるという点だ。自社製品の優位性を示すための調査である可能性は否定できず、結果の解釈には慎重さが求められる。

次に、調査機関Cellular Insightsの活動実績だ。同社のWebサイトによると、今回のレポート以前に公開された最後の記事が2017年3月であり、約8年間の活動休止期間があったことが9to5Macによって指摘されている。

さらに、比較対象デバイスの選定についても議論の余地がある。iPhone 16e(599ドル)がAppleのミッドレンジモデルであり、搭載されているC1モデムもエントリーレベルと位置づけられるのに対し、比較対象のAndroid A(799ドル)はSnapdragon X80という最新フラッグシップモデムを搭載しており、AppleのエントリーレベルモデムをQualcommのフラッグシップデザインと比較している点は公平性を欠くかもしれない。また、Qualcomm製モデムを搭載するiPhone 16 Proモデルが比較対象から外されている点も、注意が必要だ。

一方で、Cellular Insightsはレポートの冒頭で「本性能レポートの唯一の著者として、Cellular Insightsは本稿で提供する手法、結果、分析を全面的に支持します」と明記しており、独立性を主張している。

また、過去にはOokla(Speedtest.net運営)が実施した調査で、iPhone 16eのC1モデムが特定の条件下ではiPhone 16(Qualcomm製X72モデム搭載と見られる)よりも良好な「ワーストケーススピード」を示したという報告もあった。ただし、Ooklaの調査でもピーク速度ではQualcommモデムに軍配が上がっており、テストの焦点や方法論によって結果が変動する可能性は常にある。

Appleの初代モデムの壁と進化への期待

Apple C1モデムは、長年Qualcommに依存してきたAppleにとって、モデム内製化に向けた記念すべき第一歩である。iPhone 16eはその最初の搭載機種であり、主に電力効率の改善が期待されていた。今回の調査結果は、特に通信パフォーマンスという点では、初代モデムが成熟した競合製品に対してまだ課題を抱えていることを示唆しているのかもしれない。

しかし、Appleが過去にAシリーズプロセッサやMシリーズチップで成し遂げてきた進化を鑑みれば、モデム開発も同様の軌跡を辿る可能性は十分にある。初代の製品には常に改善の余地があり、Appleがこの結果を糧に、次世代以降のモデムで飛躍的な性能向上を実現することは想像に難くない。実際、2026年リリースのApple製モデムではミリ波対応やキャリアアグリゲーション技術の向上が噂されており、2027年にはQualcommに匹敵するモデムが登場するとの予測もある。

ユーザーは何を基準に選ぶべきか?

今回の調査結果は、特に電波状況が不安定な場所や、大容量データのアップロードを頻繁に行うユーザーにとっては、デバイス選択の一つの判断材料になるかもしれない。しかし、多くのユーザーにとって、スマートフォンの魅力はモデム性能だけで決まるものではない。OSの使い勝手、エコシステム、カメラ性能、デザイン、そしてブランドへの信頼など、多岐にわたる要素が絡み合って総合的な満足度が形成される。

重要なのは、こうした調査結果を一つの情報として捉えつつ、自身の利用シーンや優先順位と照らし合わせて総合的に判断することだろう。

Qualcommの優位性とAppleの挑戦は続く

Cellular Insightsによる今回の調査は、現時点における5Gモデム技術において、Qualcommが依然として強力なリーダーシップを保持していることを示すものと言える。特にキャリアアグリゲーションや悪条件下での安定性といった点で、その経験と技術力の高さが際立った。

一方で、AppleのC1モデムはまだその旅路の始まりに過ぎない。iPhone 16eというエントリーモデルでの採用は、広範な実環境でのデータ収集とフィードバックを得るための戦略的な一手とも考えられる。モデムの内製化はAppleにとって長期的な戦略であり、今回の結果がその歩みを止めることはないだろう。むしろ、明確になった課題を克服し、将来的に市場を驚かせるような製品を生み出すための原動力となるかも知れない。


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