Appleが初めて自社開発したC1モデムを搭載するiPhone 16eが、Qualcommモデム搭載のiPhone 16と比較して、多くの実世界シナリオで優れたパフォーマンスを発揮していることが、通信速度測定サービスを提供するOoklaの調査によって明らかになった。特に接続環境が悪い状況での優位性と、アップロード速度での大幅な性能向上が注目される。
調査概要とパフォーマンス比較
Ooklaは2月下旬に発売されたC1モデム搭載の初のデバイスであるiPhone 16eについて、3月1日から12日にかけての性能データを分析した。比較対象はQualcommモデムを搭載したiPhone 16で、両デバイスは同じApple設計のA18 SoCを搭載し、同様のデザインと6.1インチのスクリーンを持つが、iPhone 16eは5Gミリ波をサポートしていないという違いがある。
調査では、パフォーマンスを3つの層で分析している:
- 10パーセンタイル(最も低いパフォーマンス体験をする層)
- 中央値パフォーマンス(平均的な利用者層)
- 90パーセンタイル(最も高いパフォーマンス体験をする層)
分析の結果、予想に反する興味深い傾向が明らかになった。
10パーセンタイルでのC1モデムの優位性

接続状態が最も悪い状況(10パーセンタイル)では、C1モデムを搭載したiPhone 16eが、すべての主要キャリア(AT&T、T-Mobile、Verizon)においてiPhone 16を上回るダウンロード速度を記録した。
特にT-Mobileネットワークでは、iPhone 16eユーザーは57.34Mbpsの速度を体験している一方、iPhone 16ユーザーはわずか27.27Mbpsという結果であった。この差は、接続状態が悪い環境でのユーザー体験において、C1モデムが大きなアドバンテージを持つことを示している。
中央値パフォーマンスの比較

中央値のパフォーマンスでは、AT&TとVerizonにおいてiPhone 16eがiPhone 16を上回るダウンロード速度を記録した。具体的には:
- AT&T: iPhone 16eの中央値ダウンロード速度は226.90Mbps
- Verizon: iPhone 16eの中央値ダウンロード速度は140.77Mbps
一方、T-MobileネットワークではiPhone 16の方が優位であった:
- T-Mobile iPhone 16e: 264.71Mbps
- T-Mobile iPhone 16: 357.47Mbps(24%以上高速)
この差は、T-Mobileが唯一全国的な5Gスタンドアロンネットワーク(SA)を持ち、キャリアアグリゲーション(CA)などの高度な機能を新しい5Gアーキテクチャに展開しているためと考えられる。Ooklaによれば、初期テストで観測されたiPhone 16eとiPhone 16のパフォーマンス差に貢献している主な要因は、C1モデムの5G SAネットワークでの能力がQualcommモデムより限定的であることだ。
90パーセンタイルでのQualcommモデムの優位性

最も接続状態が良い環境(90パーセンタイル)では、すべての主要キャリアにおいてiPhone 16がiPhone 16eを上回るダウンロード速度を記録した。例えば:
- T-Mobile 90パーセンタイル: iPhone 16 889.83Mbps、iPhone 16e 627.01Mbps
しかしOoklaは「10パーセンタイルのパフォーマンスは、90パーセンタイルよりも全体的な体験の質(QoE)をより正確に反映する」と指摘している。90パーセンタイルはミリ波カバレッジのある場所による偏りがあり、限界収益逓減の影響を受けるためだ。
アップロード速度ではC1モデムが一貫して優位

アップロード速度では、iPhone 16eがVerizonとAT&Tの両ネットワークでiPhone 16を大幅に上回るパフォーマンスを示した。AT&Tでのアップロード速度差が最も顕著で、iPhone 16eユーザーは14.63Mbpsの中央値アップロード速度を体験しているのに対し、iPhone 16ユーザーは8.60Mbpsであった。これは約38%の性能向上を意味する。
一方、T-Mobileユーザーでは、iPhone 16eとiPhone 16のアップロード速度差はわずかであった。
C1モデムの技術的特徴と今後の展望
C1モデムの技術的制限
Qualcommによる比較情報によると、C1モデムにはいくつかの技術的制限が存在する:
- ダウンリンクキャリアアグリゲーション: C1は3xをサポート(Qualcommのミッドティアモデムは4CA、ハイエンドモデルのx80およびx85は6CA)
- アップリンクキャリアアグリゲーション: C1はサポートせず(Qualcommはサポート)
- アップリンクMIMO: C1はサポートせず(Qualcommはサポート)
- ミリ波スペクトラム: C1はサポートせず(将来のバージョンではサポート予定)
C1モデムの利点
一方でAppleは、C1モデムについて以下の利点を主張している:
- これまでiPhoneに使用されたどのモデムよりも電力効率が高い
- 新しい内部設計によりより大きなバッテリーを搭載可能
- バッテリー寿命: iPhone 16e 最大26時間(ビデオ再生)/21時間(ストリーミング)、iPhone 16 最大22時間/18時間
ミリ波サポート欠如の実際の影響
Ooklaの調査結果は、iPhone 16eがミリ波をサポートしていないにもかかわらず、多くの実世界シナリオでiPhone 16の性能を上回っていることを示している。これは、ミリ波普及が米国でも限定的で、多くの国では全く展開されていないという現状を反映している。
Ooklaの研究者らは「使用するネットワーク、いつどこで使用するかが、iPhone機種よりも最高速度に影響する可能性が高い」と指摘している。例えば、どのiPhoneモデルを使用していても、T-Mobileのネットワークでは最高パフォーマンスも最悪ケースのシナリオも含め、全体的に高速であった。一方、Verizonユーザーは通常、他の2つのネットワークよりも低速な傾向があった。
Appleのモデム開発の経緯と将来展望
Appleは歴史的にQualcommからiPhoneモデムを調達していたが、2019年にIntelのモデム事業を購入し、自社モデムの設計を目指した。iPhone 16eはその成果として初めてC1モデムを搭載した製品となる。
この予想外の調査結果は、Appleの初の自社製モデムが想定を上回る性能を発揮していることを示しており、将来のモデム開発に対して楽観的な見通しを与えている。Ooklaは、iPhone 16eの採用が世界中で増加するにつれて、引き続きパフォーマンスを監視し、iPhone 16ポートフォリオ全体との包括的な比較を公開する計画だとしている。
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