AIクラウドプロバイダーのCoreWeaveは、最大27億ドルを調達するIPOを発表した。1株47〜55ドルで4900万株を販売予定で、最高価格では企業評価額は約265億ドルに達する。この上場はAI市場の未来を占う重要な試金石となる見込みだ。
IPOの詳細と資金調達計画
CoreWeaveは米国証券取引委員会(SEC)に提出した登録届出書で、4900万株のクラスA普通株式を公開すると発表した。この内訳は、同社が約4718万株、既存株主が約182万株を提供する。予想価格帯は1株あたり47〜55ドルで、上限価格での調達額は約27億ドルとなる。
IPOを主導するのはMorgan Stanley、JP Morgan、Goldman Sachsで、Barclays、Citi Groupなども共同幹事として参加する。同社はNasdaqグローバルセレクトマーケットに「CRWV」のティッカーシンボルで上場申請中だ。
Renaissance Capitalによれば、当初CoreWeaveは30億ドル以上、場合によっては40億ドル以上の調達を目指していたとされる。ただし、IPOの価格設定には戦略的側面があり、最終的な価格は発表された範囲よりも高くなる可能性もある。IPO申請後、同社はOpenAIと120億ドルの顧客契約を締結し、元HPのCEOであるMargaret Whitman氏を取締役会に迎えたことも報じられている。
AIハイパースケーラーとしての技術基盤
CoreWeaveは自らを「AIハイパースケーラー」と称し、次世代AIを支える最先端ソフトウェアを備えたクラウドプラットフォームを提供している。2017年に「Atlantic Crypto」としてイーサリアム暗号通貨マイニングのインフラプロバイダーとして創業し、その後AIクラウドプロバイダーに転向して社名を変更した。
同社は世界中の32のデータセンターに25万台以上のNVIDIA製GPU(グラフィックス処理ユニット)を保有しており、そのうち大部分は前世代のHopperアーキテクチャを使用している。NVIDIAの最新かつ最も高性能なAIアクセラレーターである「Blackwell B200」も提供する数少ないクラウドプロバイダーの一つだ。Blackwell GPUは2024年11月から本格生産されている。
同社は自社プラットフォームが主要パブリッククラウドよりもAIワークロードで優れたパフォーマンスを提供すると主張している。IPO申請書類によれば、大規模言語モデルのLlama 3.1を名前は明かしていない競合クラウドよりも310万時間分のGPU計算リソース(GPUアワー)を少なく使って訓練できるとしている。また、NVIDIAチップへのLLM(大規模言語モデル)の読み込みなどの関連タスクも大幅に高速化するとしている。
CoreWeaveはプラットフォーム向けにいくつかのカスタムソフトウェアツールも開発している。そのうちの1つである「SUNK」は、企業がクラウドホスト型AIの効率化を支援するツールだ。企業はAI推論ワークロードにKubernetesを、AI訓練にはSlurm(別のオープンソースツール)を使用することが多いが、通常これらのツールは別々のサーバークラスターにデプロイする必要がある。SUNKはKubernetes上でSlurmを実行可能にし、顧客が2つの別々のサーバークラスターを維持する必要性を排除する。
急成長する財務状況と顧客依存性
CoreWeaveはChatGPTのリリース以降、爆発的な売上成長を遂げている。2024年の売上高は前年比737%増の19.2億ドルに達し、前々年は1,346%増だった。この急成長を支えるための大規模投資により、損失も2023年の5億9400万ドルから2024年も同水準の5億9400万ドルとなっている。
注目すべきは、売上の77%が2社の顧客から得られており、そのうちMicrosoftだけで62%を占めていることだ。Microsoftは2023年にOpenAIへのコンピューティングパワー供給のためにCoreWeaveとの協業を開始した。その他の顧客にはOpenAI、Meta Platforms(旧Facebook)、IBMなどの主要テック企業が含まれる。
最近の動向として、Microsoftが約120億ドル相当のCoreWeaveの追加データセンター容量購入オプションを行使しなかったことが報じられた。しかし、そのコントラクトは直ちにOpenAIに引き継がれた。当初、この動きについてはMicrosoftがCoreWeaveのサービスに不満を持っていたとの報道もあったが、CoreWeaveはこれを否定し、「すべての契約関係は計画通りに継続しており、キャンセルされたものはなく、誰も約束から撤退していない」と述べている。
ただし、OpenAIの最大の出資者はMicrosoftであるため、実質的にはMicrosoftの資金がCoreWeaveに流れているという側面もある。OpenAIのSam Altman CEOはCoreWeaveの投資家向けロードショー動画で、「CoreWeaveは私たちの最も初期かつ最大のコンピューティングパートナーの一つであり、そのコンピューティングパワーは私たちが最もよく知られているモデルの一部を生み出すことにつながった」と評価している。また、「CoreWeaveはハードウェアに革新をもたらし、データセンター建設に革新をもたらし、非常に迅速に結果を出している」とも述べている。
市場の試金石となるIPOとリスク要因
CoreWeaveのIPOは、ChatGPTがリリースされた2022年以降、純粋な人工知能企業として初めての大型公開株式発行となる。そのため、このIPOはより広範なAI業界の健全性を測る試金石と見なされている。
しかし、このIPOにはいくつかの重要なリスク要因が存在する:
- 顧客集中リスク: 売上の62%を単一顧客(Microsoft)に依存しており、この関係に変化があれば事業に大きな影響を与える可能性がある。
- AI投資の持続性への疑問: 一部の投資家は、大手テック企業のAI投資ペースに対する懸念を示している。2月には、アナリストのレポートがMicrosoftのデータセンターリースからの撤退を示唆し(これはMicrosoftによって強く否定された)、市場を動揺させた。投資家はAI支出の減少の兆候に対して過敏になっている。
- 収益性への道筋: 急速な売上成長にもかかわらず、同社は依然として大幅な損失を計上しており、収益性達成への明確な道筋が求められている。
- AI経済の循環構造: 現在のAI経済は主にNVIDIAとMicrosoftなど少数の企業から資金が流れる構造になっている。大企業や中堅企業がAIソフトウェアやサービスに本格的に投資を始めるまでは、この限られた循環が続く可能性がある。
アナリストのJeffrey Emanuel氏は、CoreWeaveをWeWorkと比較し、「WeWorkがコロナ禍で長期リースを抱えながら短期リース保有者を失い債務返済問題に直面したように、CoreWeaveのビジネスも収益を急速に成長させ続けることができない可能性がある」と警告している。
成長戦略と経営体制
CoreWeaveは今後の収益成長を維持するため、国際展開を拡大する計画だ。また、AIニーズが高まると予想される銀行セクターなどの産業別ソリューションの提供も視野に入れている。IPO申請書には「まだ初期段階ではあるが、すでにそうした産業から強い関心を見ている」と記載されている。
同社の財務パフォーマンス向上のためには、データセンター建設戦略の変更も検討されている。現在、同社はクラウド施設の大部分をリースしているが、IPO申請書には「データセンターにより多くの所有権を持つための投資を行う可能性がある」と記載されている。これにより「新規建設の納入スケジュールをより管理し、データセンターコストをより制御できるようになる」としており、インフラコストの削減が収益性向上につながる可能性がある。
ガバナンス面では、IPO後も3人の共同創業者が会社の大部分を支配する予定だ。CEOのMichael Intrator氏は議決権の約37%、Chief Data OfficerのBrannin McBee氏は19%、Chief Strategy OfficerのBrian Venturo氏は25%を持つことになる。
CoreWeaveは、テクノロジー企業の新規株式公開としては歴史的に低調な時期に市場参入を試みている。CNBCによれば、オンラインレンダーのKlarnaやデジタルヘルスのスタートアップHinge Healthなど、他にもIPOを申請している企業はあるものの、市場環境は厳しい。投資家がTrump大統領の関税政策や大規模なコスト削減を懸念する中、市場やテクノロジー株は特に不安定な状況にあり、Nasdaqは2022年以来最も急激な四半期下落に向かっているという。
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