人工知能(AI)の急速な普及と大規模言語モデル(LLM)の開発競争により、データセンターの電力消費量は世界規模で爆発的な増加を記録している。特に、高度な演算処理を担うGPUを多数搭載した高密度ラックは膨大な熱エネルギーを継続的に放出するため、その冷却ソリューションがテクノロジー業界全体の深刻なボトルネックとなっている。従来の陸上データセンターは産業用チラーシステムや大規模な空調(HVAC)設備に大きく依存しており、全体の消費電力の約30%から40%を単にサーバーを冷却するためだけに費やしているのが現状である。

加えて、冷却プロセスの大部分において膨大な量の淡水が継続的に消費されており、電力網の容量不足に加え、地域社会の水資源に対する過度な負荷が社会的な懸念事項として浮上している。MicrosoftGoogleをはじめとする巨大テクノロジー企業もAIインフラストラクチャの環境負荷低減を最優先課題として模索しており、計算能力のスケールアップとサステナビリティの両立は、次世代デジタルインフラストラクチャにおける中核的な命題となっている。こうしたエネルギー危機の抜本的な解決策として、冷却インフラの根本的な見直しが業界内で急務とされてきた。

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上海沖合で本格稼働した世界初の大規模商用海中データセンター

こうしたインフラ課題に対するアプローチとして、中国は上海のLingang Special Area沖合約10キロメートルの海域において、世界初となる洋上風力発電駆動の商用海中データセンター(UDC)の本格稼働を開始した。本プロジェクトは2025年6月に立ち上げられ、海洋インフラ構築を専門とするHiCloud TechnologyやChina Communications Constructionの関連会社、およびShanghai Lingang Special Area Investment Holding Groupなどが共同で開発を主導している。

水深約10メートルから35メートルの海底に設置された総重量1,950トン(小型車1,300台分に相当)の耐圧モジュール内には、約2,000台のサーバー群が密閉収容されている。モジュール内部にはChina TelecomやローカルプロバイダーのLinkWiseが所有する最先端のGPUクラスターが展開されており、AIのワークロード処理、ビッグデータの注釈作業、5Gインフラストラクチャの運用、さらには中国国内の大規模言語モデル開発などを支える重要な演算基盤を担っている。当初は2.3MWのデモンストレーション施設として建設されたが、最終的な総想定容量は24MWに達する計画であり、一般家庭約2万世帯分の電力を賄える規模に相当する巨大なインフラ投資である。

パッシブヒートシンクとしての海水の活用と驚異的なPUE指標

本施設の中核的な技術革新は、周辺に広がる広大な海水を巨大なパッシブヒートシンクとして活用する画期的な冷却機構にある。サーバーから発生した大量の廃熱をモジュール内部の背面空調ユニットが強力に吸い込み、施設内に張り巡らされた銅管内の冷媒を液体から気体へと変化させる。気化した冷媒は浮力によってモジュール上部の冷却層へと上昇し、年間平均水温15度の海水と熱交換システムを介して接することで再び液体に戻る。その後、冷却された液体冷媒は重力によってサーバー室へ自動的に帰還する。この一連の循環プロセスにより、外部の電力を追加消費せずに極めて効率的な熱の放散を継続的に実現している。

この結果、データセンターのエネルギー効率を示す主要指標であるPUE(Power Usage Effectiveness)において1.15未満という数値を達成した。一般的なエンタープライズ向けデータセンターのPUEが1.4から1.6程度であることを踏まえると、エネルギー効率の大幅な改善といえる。さらに、陸上に建設される同規模の施設と比較してインフラ全体の電力消費量を22.8%削減し、維持のための淡水使用量を完全にゼロにしたうえ、施設の土地占有面積を90%以上も縮小することに成功している。空間効率とエネルギー効率の双方を極限まで高めた設計アプローチである。

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洋上風力発電網との直接接続によるグリーン電力の最適化

この海中データセンターのもう一つの特筆すべき設計思想は、沖合に建設された洋上風力発電所との直接接続モデルである。データセンターの各モジュールは50基以上の風力タービンの近傍に意図的に配置されており、海底に敷設された光電複合ケーブルを通じて再生可能エネルギーから直接電力が供給される。陸上の送電網を迂回するこの「ダイレクト・オフショア・ウィンド・コネクション」の仕組みにより、長距離送電における電力ロスを最小限に抑えつつ、施設全体で95%を超える高いグリーン電力供給率を確保している。

近接する200MW級の洋上風力発電所は年間5億kWh以上のクリーン電力を生成しており、海中データセンターがフル稼働した場合、年間で約6,100万kWhの電力が直接的に節約される計算となる。Tsinghua UniversityのLi Zhen教授の試算によれば、中国国内のデータセンターにおける環境冷却に消費される約800億kWhの電力をすべてこの海中モデルに置き換えた場合、年間約500億kWhの莫大な節電が見込めるという。これは標準石炭換算で1,500万トンの二酸化炭素排出削減に匹敵し、データインフラの拡張に伴う大規模な炭素排出の抑制に直結する。

規模拡大に向けたエンジニアリング上の障壁と運用インフラの課題

海中データセンターは高いエネルギー効率と環境負荷低減のポテンシャルを示す一方で、深海という過酷な環境での長期運用には海洋エンジニアリング特有の技術的ハードルが多数介在している。塩水による高価なハードウェアコンポーネントの腐食や、長期間にわたる水圧に対するモジュールの完全な密閉性の維持、また深海ケーブルの物理的な信頼性の確保など、過酷な条件下におけるインフラ全体の耐久性が厳しく問われている。継続的な熱の放出が周辺の海洋生態系に与える影響も未知数であり、これらの要因は長期的には施設全体の運用コストおよびライフサイクルに多大な影響を及ぼす。

また、障害発生時の物理的なアクセスとメンテナンスの難度も極めて高い。陸上のデータセンターであれば技術者が数分でサーバーラックにアクセスし、問題のあるハードウェアを迅速に交換することが可能だが、海底数十メートルに沈められた密閉モジュールでは物理的な介入が事実上不可能である。運用事業者はこうしたリスクを低減するため、遠隔からのプロビジョニングや監視システムを活用し、密閉されたモジュール設計への完全な依存を前提とした高度な冗長構成を余儀なくされる。過去にMicrosoftが実施した「Project Natick」の実験において、海中環境の方がハードウェアの故障率が低いことが実証されたものの、同社が最終的に商用展開を見送った経緯を踏まえると、今回の中国の大規模プロジェクトがこれらの複雑な課題を商業ベースでどのように克服していくかが試されている。AI需要の高まりを背景に、海洋とデータインフラの融合に向けた技術革新は新たなステージへと突入している。