AMDはCES 2025において、ノートPC市場における競争力を大幅に強化する2つの革新的なプロセッサファミリーを発表した。統合GPUの性能を極限まで高めた「Ryzen AI Max」(開発コードネーム:Strix Halo)と、デスクトップ級の演算性能を実現する「 Ryzen 9000HX」シリーズ(開発コードネーム:Fire Range)の2つだ。
Ryzen AI Max:革新的メモリアーキテクチャによるブレークスルー
フラッグシップモデルとなるRyzen AI Max+ 395は、AMDの最新アーキテクチャを結集した意欲作だ。16コア32スレッドのZen 5 CPUコアと40基のRDNA 3.5グラフィックスコアを組み合わせ、さらにXDNA 2 NPU AI エンジンを統合することで、従来のモバイルプロセッサの常識を覆す性能を実現している。
この革新的なプロセッサの心臓部となっているのが、新開発のメモリアーキテクチャだ。最大128GBのメモリを搭載可能とし、このメモリ空間をCPU、GPU、NPUの間で柔軟に共有できる。特筆すべきは、Radeon Adrenalineソフトウェアを通じてGPUに専用のメモリ領域を割り当てられる点である。例えば128GBのシステムメモリのうち、最大96GBをGPU専用として確保することが可能だ。この設計により、256GB/sという圧倒的なメモリ帯域幅を実現し、従来の統合GPUの主な性能ボトルネックであったメモリ帯域の制限を解消している。
さらに、このアーキテクチャはメモリコピーのオーバーヘッドを最小限に抑える工夫も施されている。GPUは割り当てられた専用メモリ領域に対して書き込みを行いながら、システム全体の128GB分のメモリ空間から読み取りを行うことができる。この統合コヒーレントメモリアーキテクチャにより、特にAIワークロードにおいて劇的な性能向上を実現している。具体的な例として、Llama 70B Nemotronモデルの処理において、デスクトップ向けNVIDIA GeForce RTX 4090の2.2倍のトークン生成速度を達成。さらに重要なのは、この性能をRTX 4090の450Wに対してわずか55Wという消費電力で実現している点だ。
この高度な設計は、薄型ノートPCやミニワークステーションにおけるゲーミングやクリエイティブワークロード、そしてAI処理能力を新たな次元へと引き上げる可能性を秘めている。AMDは、この新アーキテクチャが従来のIntel Core Ultra 9 288Vと比較して最大1.4倍のゲーミング性能を、Apple MacBook M4 Proと比較して最大84%高速なレンダリング性能を実現すると主張している。ただし、これらのベンチマーク結果は制限のない冷却能力を持つリファレンスマザーボードで測定されたものであり、実際の製品での性能は筐体の熱設計に大きく依存することには注意が必要だ。
Fire Range:デスクトップCPU由来の圧倒的な演算性能
Fire RangeことRyzen 9000HXシリーズは、デスクトップPC向けCPUの設計思想を完全にノートPCへと移植した意欲的なプロセッサだ。その特徴はデスクトップ向けRyzen 9000シリーズと同一のシリコンダイを採用し、これをBGAパッケージに最適化している点にある。この設計方針により、通常のノートPC向けプロセッサでは実現できない圧倒的な演算性能を実現している。
シリーズの頂点に立つRyzen 9 9955HX3Dは、AMDの革新的な3D V-Cache技術を搭載している。この技術は、CPUコアを搭載する2つのチップレットの一方に96MBのL3キャッシュを立体的に積層するもので、特にゲーミング性能において劇的な向上をもたらす。最大5.4GHzのブースト周波数は前世代のRyzen 9 7945HX3Dと同等だが、アーキテクチャの進化により実効性能は大きく向上している。
電力効率の面でも大きな進歩が見られる。従来の9000HXシリーズが75W以上のTDPを必要としていたのに対し、新世代では54Wまで低減することに成功。この進化により、より薄型のノートPCへの搭載が可能となり、モバイルワークステーション市場における可能性を大きく広げている。ただし、統合GPUは基本的なRDNA 2アーキテクチャに基づく2コアユニットに留まっており、本格的なグラフィックス処理には外付けGPUの搭載が前提となっている。
製品ラインナップも整理され、従来は6コア12スレッドから16コア32スレッドまでの6モデル展開だったものが、新世代では12コアと16コアの2モデルに集約された。これは高性能帯に特化したポジショニングを示唆している。また、すべてのモデルがデスクトップCPUと同じI/Oダイを採用しており、プラットフォームとしての一貫性も確保されている。
市場展開については、前世代の3D V-Cache搭載モデルがAsus ROG Strix Scarシリーズのみに限定されていた反省を活かし、より広範なラップトップメーカーへの展開を目指している。ただし具体的な採用モデルについては現時点で明らかにされておらず、実際の市場投入時期や搭載モデルについては2025年前半に向けて順次発表されていく見込みだ。
この新世代のHXシリーズは、デスクトップ置き換え型ノートPCとワークステーション市場において、IntelのCore Ultra 200HXシリーズと直接的な競争を展開することになる。特に3D V-Cache技術による卓越したゲーミング性能は、AMDの強力な差別化要因となることが予想される。
市場投入時期と対応製品
両プロセッサファミリーは2025年上半期中の市場投入が予定されている。Ryzen AI Maxシリーズについては、HPのZBook Ultra G1やZ2 mini G1a、AsusのROG Flow Z13などが発表済み。特にROG Flow Z13は薄型タブレット形状でありながら高い演算性能を実現する意欲作として注目される。
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