Appleは3月8日、昨年のWWDCで発表したApple Intelligenceの目玉機能だったAIによって賢くなった「パーソナライズされたSiri」の実装を当初予定していた今春から次期OS世代に延期すると発表した。ユーザーの個人情報を理解し、複数のアプリにまたがるタスクを自動実行するはずだった次世代Siriの登場が大幅に遅れることになる。
AI Siriの延期発表とその詳細
Appleのスポークスパーソン、Jacqueline Roy氏は声明で次のように述べている。「Siriはユーザーが必要なものを素早く見つけ、タスクを完了するのを手助けしています。この6か月間だけでも、私たちはSiriをより会話的にし、タイプ入力やプロダクト知識などの新機能を導入し、ChatGPTとの統合を追加しました。また、よりパーソナライズされたSiriの開発も進めており、ユーザーの個人的コンテキストへの認識を高め、アプリ内および複数のアプリにわたってユーザーに代わってアクションを実行する能力を付与しています。しかし、これらの機能の提供には当初の想定よりも時間がかかることがわかりました。今後1年間でこれらの機能を順次提供する予定です」
この「今後1年間」という表現について、業界メディアDaring Fireballは、次期OSリリースサイクル(iOS 19およびmacOS 16)を指すと分析している。つまり、本来2025年春に提供される予定だった機能が、早くても2025年6月のWWDC以降、実際のリリースは2026年初頭になる可能性が高い。
すでに現行のiOS 18.4/macOS 15.4のベータ版にはこれらの機能は含まれておらず、Appleが今日このような声明を出したことから、18.5や18.6でもリリースされない可能性が高いと見られている。
延期された「パーソナライズされたSiri」の機能
延期されたのは主に2つの機能セットである。1つ目は「パーソナルコンテキスト」を理解する能力だ。例えば、ユーザーが「ママのフライトはいつ到着する?」と尋ねると、Siriはメールやメッセージからその情報を見つけ出し、リアルタイムのフライト追跡情報と照合して到着時刻を教えてくれるはずだった。
2つ目は、複数のアプリにまたがるアクションを自動的に実行する能力である。昨年のWWDCでは、フライト到着後のランチ予定を立てるために複数のアプリを操作するデモが披露された。また、写真から読み取った運転免許証番号などの個人情報を使ってフォームに自動入力するような機能も予定されていた。
延期された機能ではこれらがさらに拡張され、将来的にはSiriがメール、メッセージ、ファイル、写真をスキャンして特定のタスクを完了する能力や、デバイス画面上で何が起きているかを理解し、複数のアプリにまたがるアクションを実行する能力も含まれる。
これらの機能はAppleが「アプリインテント」と呼ぶコード体系に依存している。開発者はすでにこのコードを構築してテストできるが、強化されたSiriのベータ版がリリースされるまで、それがSiriでどのように機能するかを確認することはできない。Appleは通常、6月のWWDCで主要な新ソフトウェア機能を発表する。
Apple Intelligenceの現状と競合環境
Apple Intelligenceの一部機能はすでに対応デバイスで利用可能になっている。より会話的な能力、画面全体が光る新しい見た目、ChatGPTとの統合、テキストや画像の生成、写真編集、通知の要約などがそれだ。しかし、最も期待されていた「パーソナライズされたSiri」の遅延は、AIレースでAppleが後れを取っているという批判を強めるかもしれない。
競合他社の動きも活発だ。Amazonは先月、アップグレードされたAlexaアシスタントを発表した(ただし未リリース)。GoogleもGeminiアシスタントで同様の機能を開発中である。2022年末に登場したOpenAIのChatGPTは生成AIの時代を切り開き、従来の音声アシスタントの能力不足を浮き彫りにした。
最近ではSiriが基本的な事実を誤って報告する事例も報告されており、テクノロジー投資家のM.G. Sieglerは、Siriを完全にオフにするか、ChatGPTに置き換える時期が来たのではないかと疑問を呈している。また、Apple Intelligenceには以前にも問題があり、ニュースアプリの要約機能が見出しを歪曲して不正確な事実を表示したことから、The New York TimesやBBCなどのニュースアプリでは機能が無効化された。
次世代Siriの延期が与える影響
Appleが製品の延期を公式に発表することは極めて珍しい。過去にはiPhone 4の白モデルが10か月遅れでリリースされ、初代AirPodsも2か月遅延した経験がある。Appleは通常、製品が完全に準備できるまで発表しない方針を持っているため、今回の発表は例外的と言える。
Daring Fireballの分析によれば、Apple Intelligenceの多くの機能は、Appleの通常の「完成度」の基準からすると1年早くリリースされた感があるという。「業界全体と共にウォール街も生成AI/LLMマニアの真っ只中にいなければ、『Apple Intelligence』は昨年ではなく今年のWWDCで発表されていたのではないか」と同メディアは指摘している。
しかし、特に個人データへのアクセスを伴う機能は、未完成で信頼性の低い状態でリリースするよりも、遅れても完成度を優先することが重要だ。例えば「ママのフライトはいつ到着する?」という質問に不正確な回答をすれば、空港での出迎えに大きな問題が生じる可能性もある。「約束した期限に間に合わせるために未完成や信頼性の低いものを出荷するよりも、遅れてでも準備ができた状態で出荷する方が良い」とDaring Fireballは評価している。
Bloombergの記者Mark Gurmanによれば、「本当に近代化された会話型Siri」はiOS 20(早くても)までは登場しない可能性があるという。Appleは信頼を失うリスクよりも、今日の発表による悪い宣伝を受け入れる方を選んだと言えるだろう。
この延期はAppleの株価や市場シェアにも影響を与える可能性がある。AIはテクノロジー業界の最前線であり、AppleがGoogle、Amazon、OpenAIに対して遅れを取れば、特に技術に敏感なユーザー層の離反を招くリスクもある。しかし長期的には、信頼性の高い製品を提供することで、Appleの「プライバシー重視」というブランドイメージを強化することにもつながるだろう。
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