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Intuitive Machinesの月着陸機Athena、着陸成功も高度計問題で再び横倒しに

Y Kobayashi

2025年3月7日

米国の宇宙企業Intuitive Machinesの月着陸機「Athena(アテナ)」が2024年3月6日、月の南極付近のMons Mouton地域に着陸したが、着陸後の姿勢に問題が生じ横倒しになった可能性が高いことが分かった。これは、同社が昨年2月に行った初号機「Odysseus(オデッセウス)」の着陸でも発生した高度計の問題の再発となる。

2度目の「横向き」着陸

Athenaは米東部時間3月6日12時31分(GMT 17時31分)、予定通り月面に着陸した。ミッションコントロールでは着陸予定時刻から20分ほど経過した後、「Athenaは月面にいます」と発表された。しかし、着陸機の状態の分析とデータ収集が続けられた。

Intuitive MachinesのCEO、Steve Altemus氏は着陸後の記者会見で「まだすべてのデータを持っているわけではありませんが、私たちは再び月面で正しい姿勢にないと考えています」と述べた。「再び」という言葉は、昨年2月に同社の初号機Odysseusが月面に着陸した際、滑走してレグ(着陸脚)を破損し横倒しになった事態を指している。

着陸機の慣性測定ユニットからの読み取り値に基づくと、Athenaも側面を下にして横たわっている可能性が高い。着陸機は通信能力を保持しており、太陽電池パネルからも一定の電力を生成しているが、正しい姿勢ではないため、十分な電力を得られず、活動が制限される見込みだ。

高さ4.8mの不安定な設計

Athenaの着陸地点はMons Mouton地域で、これは月の南極からわずか約160kmに位置する。これまでのどの着陸機よりも月の南極に近い着陸となり、この地域は将来の宇宙飛行士の着陸地点として有力視されている。

一部では、Intuitive Machinesの着陸機の設計選択に批判が向けられている。多くの月着陸機が安定性を確保するために低く幅広の設計を採用しているのに対し、Athenaは高さ4.8メートル、幅わずか1.57メートルの細長い形状をしている。

記者会見でAltemus氏はこの設計を擁護し、貨物のほとんどが車両の底部に取り付けられているため、着陸機の重心は高くないと述べた。設計の抜本的な見直しの予定はないという。

同じ測器で同じ問題

Intuitive Machinesの最高技術責任者Tim Crain氏によると、問題の原因はレーザー測距計(高度計)にあったという。着陸機が月面から約30kmの高度に達した時点で、レーザー測距計のテストを行ったところ、レーザーが月面から跳ね返ってくる際にノイズが混入していた。

「月面に近づくにつれて信号対ノイズ比が改善することを期待していました」とCrain氏は記者団に語った。しかし、ノイズは継続した。結果として、Athenaは「目が見えない」状態で月面に降下した形になる。

着陸機の推進システム(液体酸素とメタンを使用し、社内で設計された)は完璧に機能したが、最終段階で着陸機は月面に対する相対位置を正確に把握できなかった。

NASAの科学部門責任者Nicola Fox氏は、Intuitive Machinesの着陸機の横倒し着陸について前向きに解釈しようとした。「これはコミュニティです。私たちは互いの成功を共有し、互いの課題に共感します」と彼女は述べた。

しかし、同じ機器の問題で2回目の着陸機も同様の運命をたどったことに対し、NASAにとっても受け入れ難いものだろう。Intuitive MachinesやFireflyのような冒険的なミッションに資金を提供している点では、NASAに称賛が送られるべきだが、同じ高度計の問題で2回目のIntuitive Machines着陸機が倒れたことは難しい状況だ。

重要な科学実験への影響

Athenaは多数の科学機器を搭載しており、その中核となるのがNASAのPolar Resources Ice Mining Experiment(PRIME-1)である。これは月面下約0.9メートルの土壌を掘削し、質量分析器で水氷や他の興味深い化合物の痕跡を探すものだ。

「この実験は重要なマイルストーンです。月の南極地域で行われる初めてのロボットによる掘削活動となるからです」とNASAケネディ宇宙センターのPRIME-1プロジェクトマネージャーJackie Quinn氏は述べている。

この地域は水氷を含むと考えられており、特に永久影のあるクレーターの底には氷が存在する可能性が高い。科学者たちは、この氷が数十億年にわたって蓄積されてきたと考えている。将来の月面基地では、この氷を飲料水や、水素と酸素に分解してロケット燃料として使用できる可能性がある。

記者会見でNASA関係者は、PRIME-1の掘削実験がまだ実行可能かどうかについて明言を避けた。

他にも、Athenaには以下の実験装置が搭載されていた:

  • Grace:Intuitive Machines製の「ホッパー」で、スラスター(推進機)を使用して場所から場所へと飛び移る設計。永久影のクレーターも探査予定だった
  • MAPP:Colorado社Lunar Outpost製のローバー。高解像度の光学・熱カメラを搭載
  • AstroAnt:MITが開発した超小型スウォームロボット
  • Yaoki:日本のDymon社製の超小型ローバー(重さわずか498グラム)
  • Nokia:月初の4G/LTEネットワーク構築実験

ミッションチームは、着陸機の姿勢が完全に理解された後、どのペイロードが展開可能かを判断する予定だという。すべての貨物は起動して通信していることが良いニュースだとしている。

民間月面探査の新時代と市場の反応

Athenaの着陸は、急速に発展する民間月面探査の一部だ。テキサス州の競合企業Firefly Aerospaceは、わずか4日前の3月2日にBlue Ghostランダーを月の北半球のMare Crisium(「危機の海」)地域に着陸させることに初挑戦で成功した

Blue GhostもAthenaやOdysseusと同様に、NASAの商業月面ペイロードサービス(CLPS)プログラムの一環として飛行している。CLPSプログラムは26億ドルの予算で、民間企業を活用してコストを削減し、アルテミス計画を支援することを目指している。アルテミス計画は、2027年頃に宇宙飛行士を月の南極付近に着陸させ、後に1つ以上の基地を設立することを目標としている。

歴史的に、月面着陸は米国、ソ連、中国、インドの政府機関のみが成功していた。NASAの最後の月面着陸は1972年のアポロ17まで遡る。Intuitive Machinesは2024年2月、民間企業として初めて月面に宇宙船を設置した記録を作ったが、その瞬間は着陸機が横向きになった事実によって部分的に損なわれた。

市場はこの2回連続の「横倒し」着陸に厳しい反応を示した。公開企業であるIntuitive Machinesの株価は、木曜日の取引開始時には$13.65だったが、終値は$11.26となり、時間外取引ではさらに$8程度まで下落した。午後の取引では株価は20%下落したと報じられている。

Intuitive Machinesの最高技術責任者Tim Crain氏は「人類が月に着陸機を置く時はいつでも、それは良い日です」と述べた。しかし、完全に運用可能な状態で着陸する方がさらに良い日になることは間違いないだろう。


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