AppleがLGと共同で、玄関のスマートロックやドアベル、温度調節器などのスマートホーム機器を開発していると、Bloombergが米国時間10月6日に報じた。新しいホームハブと組み合わせ、玄関から室内の温度管理まで、Appleの操作環境へ取り込む構想だという。
LG側ではすでに、UWBを搭載したスマートロックや、60GHz帯のレーダーを備えた温度調節器が米国の認証資料に現れている。ただし、無線機器として認証を取得したことと、Appleのホームキーや録画機能に対応することは別の話だ。実際にどのような製品になるのかは、LGが用意するハードウェアと、Apple側の機能がどこまで連携するかを見なければ分からない。
LG名義で認証された3機器
Bloombergの独自報道によると、開発中の機器はLGブランドで販売される。玄関用のスマートロックとビデオドアベルに加え、温度調節器、屋内・屋外用の防犯カメラ、投光器付きカメラも含まれるという。
Appleが自社製のディスプレイやスピーカーを増やすだけでは、実際に操作する住宅設備は別途用意しなければならない。LGと周辺機器まで共同開発するのであれば、新しいホームハブを設置した後に使える機能も同時に増やせる。
公開されている米連邦通信委員会(FCC)の認証記録では、少なくとも次の3機器を確認できる。いずれも申請者はLG Electronicsで、表の日付は報道日や発売日ではなく、FCCの認証記録に基づく。
スマートロックのUWBは、利用者が持つ端末との距離や位置関係を測るために使える。一方、温度調節器の61GHz帯は、大量のデータを高速通信するためのものとは限らない。LGが提出した60GHzレーダーの試験報告には、周波数を連続的に変化させるFMCW方式のレーダーが記載されている。
人がいるかどうかを検知するといった用途は考えられるものの、この製品で具体的に何を検出し、その情報を空調制御へどう利用するのかまでは公開資料から確定できない。
同じ試験報告には、電源として交流24V、50/60Hzとの記載もある。一般的な温度計のように家の好きな場所へ置く機器ではなく、住宅側の空調設備や配線との組み合わせが必要になる可能性が高い。60GHzレーダーを搭載していることが確認できても、日本の一般的な家庭用コンセントへ差し込めばそのまま使える機器とは限らない。
LGがこうした製品を開発していることは認証資料から確認できる。一方、Appleが開発にどこまで関与しているのか、LGブランドでどのように販売するのかについては、現時点ではBloombergの報道に基づく。FCC認証を取得したことだけから、両社の契約内容や最終的な連携機能まで確定したとは言えない。
UWBロックは「認証」と「位置確認」を組み合わせる
LGのUWBロックは、対応端末が近くにあるだけでドアを開ける仕組みではない。FCCが8月27日に公表した特例認可の命令書「DA 26-905」には、鍵を利用する資格がある端末だと確認した後に、位置を測定する設計が記されている。
LGがFCCへ説明した手順では、まずBluetooth Low Energy(BLE)を通じて利用者のアクセス資格情報を受け取る。暗号鍵を使ってその情報を確認した後、UWBによる通信と測距を開始する。
つまり、資格情報の認証によって「この人に解錠する権限があるか」を確認し、UWBによる測距によって「その人が実際にドアを開ける位置にいるか」を確かめる。それぞれ異なる役割を持つ。
UWBによる測距を続ける条件も限定されている。命令書の認可条件では、解錠が完了した場合や、利用者の端末が屋内へ入ったと判断された場合などにUWBセッションを終了する。利用者が対象範囲から離れた場合も同様だ。
これはLGがFCCへ示した設計と認可条件であり、実際の住宅で誤って解錠する確率や、攻撃に対する安全性を測定した結果ではない。それでも、「近づくだけで開く」という使い勝手の裏側で、本人確認と位置確認を組み合わせようとしていることは分かる。
特例認可が必要になったのは、LGが適用を求めたUWBの規則が、使用中に手で持つ機器を想定しており、建物の外側などに固定されたアンテナの設置を認めていなかったためだ。玄関へ固定するスマートロックは、この前提から外れる。FCCはLGが示した送信条件や設置方法を検討し、例外を認めた。
ただし、この認可には条件がある。命令書6ページでは、認証取得後の最初の3年間に販売できる台数を40万台までとしている。同じ期間には、既知の電波干渉に関する苦情と、その対応状況を毎年報告することも求められる。
この40万台という上限は、米国で特例認可の対象となるLGのUWBロックに対する条件だ。世界全体での生産能力やAppleの販売目標を示す数字ではない。製品化を考えるうえでは、どの無線機能を備えているかだけでなく、どのような条件で販売できるのかも重要になる。
Matter、Thread、ホームキーはそれぞれ役割が異なる
Appleのスマートホーム向け開発者資料では、HomeKitやMatterによって機器を操作し、Threadなどを使って家庭内のネットワークを構築する仕組みが説明されている。
ここで注意したいのは、Matter、Thread、UWB、ホームキー、HomeKitセキュアビデオが、同じ種類の技術ではないことだ。
Matterは機器同士を連携させる共通規格、Threadは通信ネットワーク、UWBは位置や距離の測定、ホームキーはAppleウォレットを利用した解錠、HomeKitセキュアビデオはカメラ映像の解析・録画を担う。それぞれ役割が異なる。
| 技術・機能 | 主な役割 | LGの新機器で別途確認が必要な点 |
|---|---|---|
| Matter | メーカーや操作環境をまたいで機器を制御する共通規格 | Matter認証、対応する機器種別、Apple側の実装 |
| Thread | 低消費電力のIPメッシュネットワーク | どの機器に搭載されるか、家庭内ネットワークとの接続方法 |
| UWB | LGのロックでは、認証済み端末との距離や位置関係を測定 | 対応端末、測距を利用した解錠の条件 |
| ホームキー | Appleウォレットに保存した鍵で対応ロックを解錠 | ロック側がホームキーに対応するか |
| HomeKitセキュアビデオ | ホームハブで映像を解析し、暗号化した録画をiCloudへ保存 | カメラ側の対応、ホームハブ、録画に必要な契約 |
表は2026年10月7日時点のApple、Connectivity Standards Alliance(CSA)、FCCの公開資料をもとに、それぞれの役割を整理したものだ。LGの新製品がすべての機能に対応すると示した表ではない。
例えばMatterは、Wi-FiやThreadなどのネットワーク上で、異なるメーカーのスマートホーム機器を共通の仕組みで制御できるようにする規格だ。Thread用の無線機能を搭載することと、Matter製品として認証されることは別の工程になる。
Appleも、HomeKitアクセサリを販売する場合にはMFi Programへの登録、MatterアクセサリについてはCSAによる認証という、それぞれ異なる手続きを案内している。
ホームキーにも独自の対応条件がある。Appleは、ホームアプリで利用できるスマートロックであっても、すべてがホームキーに対応するわけではないと説明している。
したがって、LGのスマートロックにUWBや13.56MHz帯の無線機能が搭載されているだけでは、iPhoneのウォレットへ鍵を登録できるとは言えない。Appleとの協業によって、最終製品がどこまでApple独自の機能へ対応するのかが、正式発表で確認すべきポイントになる。
カメラでは、接続方式より録画とデータの保存先が重要になる
CSAは2025年11月20日に公開したMatter 1.5で、カメラを新たにサポートした。さらに2026年3月31日のMatter 1.5.1では、カメラやドアベルの実装を改善している。
標準規格の側では、カメラやドアベルをメーカー独自の仕組みだけに依存せず、複数のスマートホーム環境で扱うための基盤が整いつつある。
Matter 1.5のカメラ機能はWebRTCを利用した映像・音声ストリーミングに対応し、双方向通信や、ローカル・クラウドの両方への録画を想定している。
ただし、Matter規格がカメラに対応したことと、Apple Homeなどの各スマートホーム環境が、その機能をすべて利用できるようになることは同じではない。LGの新しいカメラがどのMatterバージョンへ対応し、Apple側からどこまで操作できるのかは、今回の報道だけでは分からない。
映像をどのように保存・保護するかは、さらに別の問題だ。Appleのカメラ設定資料によると、HomeKitセキュアビデオではApple TV 4KやHomePodなどのホームハブで映像を非公開に解析し、暗号化した録画をiCloudへ保存する。
録画を利用するにはiCloud+のサブスクリプションが必要で、過去10日間の活動を確認できる。つまり、カメラをAppleのホームアプリへ追加できることと、HomeKitセキュアビデオによる暗号化録画を利用できることは別だ。
また、CSAのFAQでは、Matterによるローカル接続と、メーカー独自のクラウドサービスを併用できるとしている。
そのため、「Matter対応」と書かれているだけでは、映像や利用データがどこへ送られるのかまでは分からない。LGのカメラを評価する際には、Apple側の録画機能へ対応するかだけでなく、どの機能でLGのアカウントやクラウドサービスが必要になるのかも確認したい。
Appleの操作環境とLGの住宅設備をどうつなぐか
Bloombergの報道どおり共同開発が進んでいるなら、Appleはホームハブや音声操作の使い勝手を整えながら、LG製機器によって玄関や室内で操作できる設備を増やせる。
スマートロック、ドアベル、カメラ、空調を一つの操作環境へ集約するには、操作用の画面やスピーカーを用意するだけでは足りない。住宅へ実際に取り付けられる機器と、家族が迷わず利用できる連携機能がそろって初めて、専用のホームハブを設置する意味が大きくなる。
Bloombergは、Appleが新しいホームハブに加え、更新されたHomePod miniとApple TVを10月13日に発表する見通しとも報じている。ただし、これは未発表製品の計画に関する報道であり、LGの周辺機器が同じ日に発表・発売されることを意味しない。価格、日本での発売予定、最終的な対応機能も現時点では確認できていない。
日本の利用者にとっては、ソフトウェア機能だけでなく、住宅への設置条件も重要になる。スマートロックなら日本の玄関ドアへ取り付けられるか、温度調節器なら国内の空調設備や配線方式へ対応するかを確認する必要がある。
そのうえで、使っているiPhoneやApple Watchからどの方法で解錠できるのか、カメラ映像をどこへ保存するのか、録画にどの契約が必要なのかも判断材料になる。
こうした設置条件と、鍵・カメラ・空調の連携機能がそろえば、AppleとLGの協業は、玄関への接近から解錠、来客確認、室内の温度管理まで、家庭内の一連の操作をAppleの環境へまとめる足掛かりになり得る。
