Blenderが、次の大きな節目となる6.0でOpenGLのサポートを廃止する案を検討している。2026年10月5日のViewport & EEVEE開発会議で示された内部提案で、会議メモでは6.0のリリース時期を2027年11月と想定している。ただし、廃止はまだ決定しておらず、課題の一つとして仮想テクスチャリングが挙げられた。Vulkanへの機能移行が進み、開発中の5.3では既定の描画バックエンドとする動きも進んでいるが、大量のテクスチャを扱う制作環境まで十分に代替できるかどうかが、OpenGL廃止の判断を左右する。新しい描画APIへ移行することと、OpenGLを完全に手放せることは同じではない。開発会議メモ
Vulkan対応、既定化、OpenGL廃止は三つの段階
Blender 4.5 LTSでのVulkan対応、開発中の5.3での既定化、6.0で検討されているOpenGL廃止は、それぞれ別の段階にある。公式リリースノートのVulkanに関する記述と10月5日の会議メモを、利用可能な機能、初期設定、サポート終了という三つの観点から整理すると、現在の状況が分かりやすい。
| 版・状態 | 公式資料が示す変更 | OpenGLとの関係 |
|---|---|---|
| 4.5 LTS・公開済み | VulkanがOpenGLと同等の機能を備え、OpenXRや細分化処理などに対応 | OpenGLが既定。Vulkanは設定から選択 |
| 5.3・開発中 | Windows ARM版を除くWindowsとLinuxでVulkanを既定化。最低要件をVulkan 1.1へ引き下げ | 既定設定の変更であり、OpenGL削除とは別 |
| 6.0・内部提案 | OpenGLサポートの廃止を検討 | 仮想テクスチャリングが課題として残り、廃止は未決定 |
出典:4.5 LTSのVulkan節、5.3のVulkan節、10月5日のOpenGL廃止に関する会議メモ。2026年10月6日時点の記載を比較したものであり、性能を比較した表ではない。
選択肢としてVulkanを提供する段階であれば、問題が起きても従来のバックエンドへ戻せる。Vulkanを初期設定にすれば、より多くの利用者が通常の操作の中で使うようになる。そしてOpenGLを廃止すれば、その退避先自体がなくなる。機能面でOpenGLと同等になったという評価だけでは、OpenGLを完全に廃止できるとは限らない。
5.3でVulkanの最低要件を引き下げ、一部のGPU・ドライバー機能を任意としたことも、この流れの中で捉えられる。新しいAPIへの移行と、利用できるハードウェアを広げる取り組みが並行して進んでいる。なお、公式リリース一覧では5.3はまだAlpha段階で、2026年11月の公開が予定されている。開発版に記載された変更を、すでにすべての利用者へ提供済みの機能と混同すべきではない。
OpenGLを離れる理由とHDR表示の実益
Blenderの開発チームは、2023年のVulkan移行に関する説明で、OpenGLドライバーの実装差や、それによる不具合を回避するために積み重ねてきた対策を課題として挙げていた。同じAPIを使っていてもGPUメーカーによって挙動が異なり、あるメーカー向けの最適化が、別のメーカーでも同じように性能向上につながるとは限らない。Blender側には、そうした違いを吸収し続ける負担があった。
開発チームはさらに、ハードウェアレイトレーシングをはじめとする新しい描画機能を活用するため、OpenGLから離れる方針を示している。WindowsとLinuxではVulkan、macOSではMetalを使う構成だ。Macについては4.0からMetalのみをサポートする方針がすでに示されており、今回の提案も、OSごとに描画基盤を刷新してきた流れの延長に位置付けられる。
利用者が実際に確認できる利点の一つが、HDRと広色域表示への対応だ。Blender 5.0の色管理機能では、対応ディスプレイ上で、より広い輝度や色域を持つ映像を表示できるようになった。LinuxではWaylandとVulkanの使用が条件となり、WindowsでもOS側でHDRなどの設定を有効にしたうえで、BlenderでVulkanを選択する必要がある。
つまり、描画APIの変更は、単純な操作速度だけで評価するものではない。HDR映像を制作する際、編集画面で確認できる明るさや色の範囲にも影響する。ただし、ディスプレイやOSなどの条件がそろって初めて利用できる機能であり、Vulkanへ切り替えるだけで、すべての環境で同じ表示が得られるわけではない。
大量のテクスチャをどうGPUメモリーに収めるか
4.5 LTSのVulkanの制約には、すべてのテクスチャをGPUメモリーに収める必要があると明記されている。扱える量の上限はOpenGLとは異なり、GPUメーカーやドライバーによっても変わる。これは4.5時点の説明であり、6.0の最終的な仕様を示すものではない。それでも、機能面でOpenGLと同等になったことと、大量の画像を含むシーンを同じ条件で扱えることが別問題であることを示す具体例にはなる。
テクスチャは、モデルの表面に色や細部を与える画像データだ。仮想テクスチャリングでは、大きな画像を小さな領域に分割し、必要な部分だけをメモリーへ読み込む。画像全体を一度に保持する代わりに、実際に使う領域と必要な解像度を管理する仕組みである。ただし、10月5日の会議メモでは、具体的にどの実装やGPU機能が不足しているのかまでは説明されていない。特定のドライバーやVulkanの特定機能がOpenGL廃止の障害だと断定することはできない。
Blenderには、この問題の難しさを示す別の実装例もある。5.2 LTS向けに開発されたCyclesのテクスチャキャッシュは、必要な画像タイルと解像度だけを読み込む仕組みだ。開発者による設計説明では、CPUで一般的な「必要なタイルが読み込まれるまで処理を待たせる」方法を、そのままGPUに持ち込むことは難しいとされている。GPUでは非常に多くの処理が同時並行で動き、計算中にディスクへ直接アクセスすることも通常はできないためだ。
そこでCyclesでは、各処理が要求した未読み込みのタイルを集め、まとめてロードしたうえでGPUの計算処理を再実行する設計を採用した。必要な画像が届くまで低解像度の代替画像を使う方法も、正確なレンダリング結果が求められるため採用されなかった。メモリー使用量を抑えるには、画像をどこに置くかだけでなく、計算を中断し、必要なデータを読み込んでから再開する仕組みまで設計し直す必要があった。
ただし、このキャッシュはCycles向けの実装であり、ViewportやEEVEEで会議メモに挙げられた課題が解決したことを意味しない。同じBlenderの中でも、画面をリアルタイムに描画する処理と、正確な画像を計算するレンダリング処理とでは、テクスチャ管理の仕組みをそれぞれに合わせて設計する必要がある。
Cyclesの計算APIと表示バックエンドの役割
CyclesのGPUレンダリングは、5.2 LTSのマニュアルによると、NVIDIA向けにはCUDAやOptiX、AMD向けにはHIPを利用する。Intel向けにはoneAPI、Apple向けにはMetalが用意されている。VulkanやOpenGLを選択する表示用バックエンドとは、設定も役割も異なる。
表示バックエンドは、Blenderのユーザーインターフェースや3DビューをGPUで描画するための基盤だ。一方、Cyclesの計算APIは、レンダリング処理をGPU上で実行するために使われる。OpenGL廃止案が実現したとしても、それによってCyclesのCUDAやOptiXがVulkanに置き換わるわけではない。Vulkanの表示性能を見て、Cyclesのレンダリング速度を推測することもできない。
レイトレーシングについても、どの描画処理に使われるのかを区別する必要がある。5.3の開発版リリースノートに記載されているのは、Workbenchの影にハードウェアレイトレーシングを利用する機能だ。MetalとVulkanが対象で、レイ問い合わせに対応するGPUとバックエンドが必要になる。これを、EEVEE全体がハードウェアレイトレーシングへ移行するという発表と解釈することはできない。
古いGPUの線引きから制作環境の検証へ
4.5 LTSのVulkan対応表を見ると、単にGPUの世代だけで移行できるかどうかを判断するのが難しいことが分かる。例えばIntel第6〜10世代の内蔵GPUは、Windowsでは非対応だが、LinuxではMesaを利用する構成が対応経路として示されている。AMDのHD 7000〜8000シリーズについても、Windowsでは非対応、LinuxではMesaを利用するという違いがある。同じ世代のGPUでも、OSとドライバーの組み合わせによって対応状況が変わる。
この対応表を、そのまま将来の6.0の対応表として使うことはできない。5.3ではVulkanの最低要件を緩和する変更も加えられている。利用者にとって重要なのは、「GPUがVulkanに対応しているか」だけで判断するのではなく、自分が使っているOSとドライバーの組み合わせで実際の制作ファイルを開き、普段利用する表示モードや、大量のテクスチャを含むシーンで問題がないか確認することだ。
OpenGLを利用する既存バージョンが、今回の廃止案によって直ちに使えなくなるわけでもない。Blenderは旧バージョンのダウンロードを継続しており、対応するハードウェアとOSがあれば使い続けられるとしている。ただし、LTS版へのバグ修正提供は2年間であり、旧版をダウンロードできることと、継続的に修正が提供されることは別の話だ。
6.0でOpenGLを廃止できるかどうかは、仮想テクスチャリングをめぐる課題をどのように解消し、実際の制作環境で十分な動作を確認できるかにかかっている。大量の画像を使うシーンでもメモリーを適切に管理でき、OSごとの表示条件も整えば、利用者はHDRなどの新しい機能を活用しながら制作環境を移行できるようになる。



