米ベンチャーキャピタルのAndreessen Horowitz(a16z)が9月30日に公開した市場レポート『State of Markets II』で、AIのトークン単価が下落する一方、NVIDIA H100のレンタル価格は底堅く推移していることが明らかになった。2026年8月までのデータを見ると、初夏にはともに下落していた2つの価格が、7月以降は異なる動きを見せている。AIの利用料金が下がり、新たな用途が広がることで計算需要が増えるなら、GPUを販売するNVIDIAには追い風となる。ただし、同じレポートでは新世代GPUのレンタル価格が下落していることも示されている。こうした価格動向から需要の拡大を読み解くには、それぞれの指標が何を表し、実際の利用量とどう関係しているのかを見極める必要がある。

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下がり続けるトークン単価、持ち直すH100のレンタル価格

a16zのレポート34ページには、Ornnが集計したH100のレンタル価格と、Silicon Dataのトークン価格指数を重ねたグラフが掲載されている。Ornn、Silicon Data、BloombergのデータをCitadel Securitiesがまとめたもので、2026年8月までの価格動向を示している。H100のレンタル価格は左軸にドル/時間で、トークン価格指数は右軸に表示されている。

5月から6月にかけては、どちらの価格も下落していた。しかし、7月から8月にかけて、トークン価格がさらに低下する一方、H100のレンタル価格は持ち直した。

a16zはこの動きを、AIの利用料金が下がることで、かえって計算需要が増える「ジェボンズのパラドックス」と結び付けている。レポートの紹介記事でも、AIが安価になるほど需要が増え、旧世代のGPUも価値を維持するという見方を示している。

AIの利用コストが下がれば、それまで費用に見合わなかった業務にもAIを導入しやすくなる。例えば、従来は回答を1回生成するだけだった処理でも、検索や検証、再試行を追加できるようになる。

その結果、効率化によって削減された計算量を上回る新たな利用が生まれれば、全体の計算需要はむしろ増加する。GPUの性能が向上しても、必ずしもGPU需要が減るわけではないという考え方だ。

ただし、今回のグラフが直接示しているのは、あくまで2種類の価格の推移である。

料金の引き下げによってAIの利用量がどれだけ増えたかを検証した実験ではなく、GPUの総稼働時間を集計した統計でもない。

a16zの解釈には一定の合理性があるものの、2つの価格が異なる動きを見せたという事実だけで、その原因まで証明されたわけではない。

「支出指数」はAI市場全体の支出額を示すものではない

Silicon Dataの指標は「LLM Token Expenditure Index」という名前だが、AI市場全体の支出総額を表しているわけではない。

Silicon Dataの公式な定義によると、この指数は利用量で重み付けした100万トークン当たりの実効価格を示す。トークンとは、AIモデルが文章などを処理する際に使用する基本的な単位だ。

指標 測定しているもの 指標だけでは分からないこと
H100のレンタル価格 GPUを1時間借りるための料金 総レンタル時間、稼働率、供給量
トークン価格指数 利用されるモデルなどの構成を反映した100万トークン当たりの実効価格 総トークン数、市場全体の支出額、個別企業の請求額

平均単価が下がる理由は、AIモデルの提供企業による値下げだけではない。

個々のモデルの料金が変わらなくても、利用者がより安価なモデルを選ぶようになれば、指数は低下する。

Silicon Dataも、利用されるモデルの構成や、入力トークンと出力トークンの割合の変化が指数に影響すると説明している。

つまり、グラフに見られる価格の下落には、「同じAIモデルの料金が安くなった」という要因と、「より安価なAIモデルが多く使われるようになった」という要因の両方が含まれている可能性がある。

GPUのレンタル価格についても、集計方法に注意が必要だ。

例えば、Silicon DataのGPU価格指数では、各種データをGPU 1基・1時間当たりの価格に換算し、契約形態や地域、ハードウェア構成などの違いを補正したうえで集計している。

一方、今回のH100の価格推移にはOrnnのデータが使われている。そのため、Silicon Dataが公表する別の日のH100価格を、そのまま同じグラフに追加して比較することは適切ではない。

2つの価格の動きは、AI市場の変化を探る重要な手掛かりになる。

しかし、トークン価格指数が半分になったからといって、AI企業の売上も半分になったとは限らない。同様に、H100のレンタル価格が上昇したからといって、利用量も同じ割合で増えたとは判断できない。

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H100は14.7%上昇、B200は5.3%下落――GPUの世代で異なる価格動向

a16zは別のグラフで、GPUの種類ごとのレンタル価格の推移も示している。

レポート37ページ下段のグラフは、8月1日の価格を100として指数化したもので、Ornn Exchangeが集計した8月末時点のデータを使用している。

このグラフを見ると、同じ8月でもGPUの種類によって価格が異なる方向へ動いていることが分かる。

H100の価格指数は14.7%上昇した一方、B200は5.3%、H200は9.1%下落した。

GPU 8月1日を100とした最終指数 8月1日からの変化率
H100 SXM 114.7 +14.7%
A100 SXM4 96.4 −3.6%
B200 94.7 −5.3%
H200 90.9 −9.1%

変化率は、グラフに示された最終指数から基準値の100を引いて算出した。例えば、H100は114.7−100=14.7%、B200は94.7−100=−5.3%となる。

いずれも8月1日を基準とした同じ期間の比較であり、GPUの性能や実際の時間当たりの料金を比較したものではない。

H100の14.7%という上昇率は確かに目立つ。

しかし、同じ期間にすべてのGPUが値上がりしたわけではない。新世代のB200やH200だけでなく、H100より古いA100の価格も下落している。

新しいGPUが登場すれば旧世代の製品はすぐに使われなくなる、という単純な見方ではH100の底堅さを説明しにくい。一方、AI需要の拡大によってすべてのGPUが値上がりするという見方も、このデータとは一致しない。

GPUごとに適した用途や供給量が異なれば、レンタル価格も別々に動く可能性がある。

ただし、今回のグラフだけでは、それぞれの価格変動にどの要因がどれほど影響したかは分からない。

また、8月の1か月間における価格指数の動きから、世界全体のGPU契約価格や将来の需要動向まで推定することもできない。

AIが安くなると増えるのは、支出なのか、それともGPUの稼働時間なのか

同じ種類のトークンを同じ料金条件で使用する場合、総支出は「単価×利用量」で決まる。

例えば、トークン単価が半分になったと仮定する。このとき利用量が2倍になれば総支出は変わらず、3倍になれば総支出は1.5倍になる。

1回当たりの処理が安くなっても、それを上回るペースで利用量が増えれば、支出総額は拡大する。

AIエージェントは、こうした利用量の増加を促しやすい。

人間が一つの仕事を指示すると、AIエージェントは必要な情報を検索し、結果を読み取り、出力を検証して次の処理を判断する。

こうした一連の作業では、人間が何度も指示を出さなくても、AIモデルが繰り返し呼び出される。

推論コストが下がれば、このような反復処理をより低い費用で実行できるようになる。ただし、トークンの使用量が増えたからといって、それに比例して仕事の成果が増えるとは限らない。

さらに、GPUの需要を考える際には、処理効率の改善も考慮しなければならない。

同じモデルを使用し、入力と出力の構成、品質、応答時間などの条件が変わらないと仮定すると、必要なGPU時間はおおむね次の関係で表せる。

必要なGPU時間 = 処理するトークン数 ÷ GPU 1基が1時間に処理できるトークン数

仮にトークンの利用量が3倍になっても、GPU 1基当たりの処理能力が4倍になれば、必要なGPU時間は3÷4=0.75倍になる。

これは仕組みを説明するための仮定であり、実際のAI市場の動きを示した数字ではない。

重要なのは、AIへの総支出が増える条件と、GPUの稼働時間が増える条件は必ずしも同じではないという点だ。

処理効率を左右するのも、GPUの世代や半導体の性能だけではない。

NVIDIAの推論最適化に関する解説によると、入力をまとめて処理する段階と、出力を順番に生成する段階では、GPUの使われ方が異なる。

複数のリクエストをまとめて処理するバッチ処理によってGPUの利用率を高めたり、過去の計算結果をキャッシュして再計算を減らしたりすることでも、処理能力は向上する。

そのため、異なるモデルやキャッシュの利用条件が混在したトークン総量を、そのままGPUの稼働時間や消費電力に換算することはできない。

AIの利用量が増えることでNVIDIAのGPU需要も拡大するという見方が成立するには、利用量の伸びが処理効率の改善を上回る必要がある。

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NVIDIAにとって重要なのは、効率化が新たなGPU需要を生むかどうか

NVIDIA自身も、AIをより低コストで実行できることを新製品の大きな特徴として打ち出している。

1月5日のRubinプラットフォームに関する公式発表では、Blackwellと比較して推論トークンのコストを最大10分の1に削減できると説明した。

これは高度な推論や大規模なMoEモデルなどを想定したNVIDIAの公称値であり、利用者が支払うAPI料金が一律に10分の1になるという意味ではない。

GPUを販売するNVIDIAが、GPUを使った処理の低コスト化を積極的に進めている点は興味深い。

その狙いは、単に既存の仕事を少ない設備で処理できるようにすることだけではない。これまで費用が見合わなかった用途にもAIを広げ、市場全体の計算需要を増やすことにあると考えられる。

1回の処理に必要なコストが下がり、新しい用途が次々と生まれれば、効率化がかえって設備投資を促す可能性がある。

ただし、AI市場に関わる企業が、すべて同じ形で恩恵を受けるわけではない。

AIモデルを提供する企業の利益は、トークンの販売単価と実際の処理コストの差や、利用者への課金方法によって変わる。

トークンの利用量が増えても、それ以上のペースで料金が下がれば、売上や利益が同じように伸びるとは限らない。

また、H100のレンタル料金を受け取るのは、GPUを保有して貸し出す事業者だ。その収入がそのままNVIDIAの売上になるわけでもない。

NVIDIAにとって継続的な追い風となるのは、既存のGPUだけでは増加した需要に対応できず、追加の設備投資が必要になる場合だ。

逆に、処理効率の向上によって増加分の需要を吸収できるなら、AIの利用量が伸びてもGPUの追加購入は必ずしも増えない。

また、利用者が得られる成果に対してAIの利用コストが高すぎれば、需要の拡大そのものが鈍化する可能性もある。

今回のa16zのレポートは、AIの低価格化とGPU需要の関係を考えるうえで興味深い材料を示している。しかし、価格の動きだけでジェボンズのパラドックスが実際に起きていると断定することはできない。

今後確認すべきなのは、トークン単価の下落に伴ってAIの利用量がどれだけ増え、その増加がGPUの処理効率の改善を上回るかという点だ。用途別の処理効率やGPUの稼働率に加え、AIによって生まれる成果が追加の支出に見合うものかも重要になる。

安価になったAIが新たな業務やサービスを生み、その需要の伸びが効率化によって生まれた余力を上回れば、NVIDIAはAIの低価格化を次のGPU販売拡大につなげられる。

AIが安くなるほど、GPUがさらに必要になるのか。 その答えは、AIの利用量がどこまで増え、実際の設備投資に結び付くかによって決まる。