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中国、オンラインプライバシー保護へ「サイバースペースID」本格導入:600万件発行、新規則で利用環境整備

Y Kobayashi

2025年5月26日

中国で、インターネット利用者のプライバシー保護を強化する新たな仕組み「サイバースペースID」の導入が本格化している。すでに600万人の市民がこのIDを申請・有効化しており、関連するアプリのダウンロード数は1600万回を超えるなど、関心の高さがうかがえる。2025年7月15日からは新たな規則も施行され、オンラインサービス利用時の個人情報提供のあり方が大きく変わる可能性が出てきた。この動きは、中国におけるデジタル社会の新たな段階を示すものと言えるだろう。

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「サイバースペースID」とは何か?匿名性と利便性の両立を目指す

サイバースペースIDは、中国公安部(MPS)などが推進するデジタル上の身分証明システムである。 その主な目的は、インターネットサービスプロバイダーへの露骨な個人情報の提供を避けることで、オンライン上のプライバシーを保護することにある。

このIDには2つの形式が存在する。一つは文字列と数字の羅列からなるもので、もう一つはオンラインクレデンシャル(資格情報)である。 これらは個人の現実世界の身分証明書(住民IDカードなど)と対応しているものの、氏名やID番号といった「平文」の情報は含まないのが大きな特徴だ。 これにより、利用者はサービス登録や本人確認の際に、自身の詳細な個人情報を直接事業者に渡す必要がなくなる。いわば、匿名性を保ちながらオンラインサービスを利用するための鍵となるわけだ。

中国当局は2023年6月に、このデジタルIDを発行するための国家サービスプラットフォームを設立。 このプラットフォームは、法的な実在の身分証明書を検証し、国の人口データを活用してデジタルIDを発行する仕組みだ。 導入から約1年で、IDの発行数は600万件に達し、公式アプリは1600万回以上ダウンロードされ、1250万回以上の認証プロセスに利用されているという。

特筆すべきは、このシステムが「フェデレーテッドIDスキーム」としての側面を持つことである。 これは、一つのIDで複数のオンラインサービスにログインできる仕組みを指し、利用者の利便性向上にもつながる。北京政府が発行するこのIDによって、各サービスごとにアカウントを作成する手間が省けるだけでなく、オンラインで共有される個人情報の総量を減らすことが期待されている。

新規則でプライバシー保護を強化:7月15日施行

オンラインプライバシー保護の動きをさらに加速させるのが、2025年7月15日から施行される新規則である。 この規則は、公安部や国家サイバースペース管理局(Cyberspace Administration of China)など6つの政府部門によって発行された。

新規則の柱の一つは、利用者がサイバースペースIDによる登録・本人確認を選択した場合、インターネットサービスプロバイダーは、法律や行政規則で別途定められている場合や、利用者本人の同意がある場合を除き、追加の平文情報(具体的な氏名やID番号など)の提供を要求してはならない、という点だ。 これにより、不必要な個人情報の収集に歯止めがかかることが期待される。

また、国家サイバースペースID認証サービスプラットフォーム自体の情報収集についても、「最小限かつ必要」の原則が強調されている。 プラットフォームは、認証目的に厳密に必要な個人情報のみを収集し、サービスプロバイダーには基本的に認証結果のみを提供する。利用者の実在の身元情報を保持する必要性が法的に生じた場合でも、それは利用者の明確な同意がある場合に限られるという。

公安部の担当者は、サイバースペースIDの取得はあくまで任意であることを強調し、「このサービスは、市民にとって安全で便利な本人確認を保証するだけでなく、中国のデジタル経済の成長も支援するものだ」と述べている。

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普及の現状と今後:巨大市場での挑戦

すでにサイバースペースIDの試験運用は、公共サービス、教育、観光、医療、郵便、交通など、多岐にわたる分野の主要なインターネットプラットフォームで開始されている。

600万件という発行数は、14億人を超える中国の人口から見ればまだ一部に過ぎないかもしれない。 しかし、アプリのダウンロード数が1600万回を超えている点や、中国政府が国家レベルでこのイニシアチブを推進していることを考慮すると、今後の普及ペースは加速する可能性があると筆者は考える。 特に、政府が一度方針を打ち出すと、国民がそれに対応していく傾向は中国ではよく見られる光景だ。

このサイバースペースID制度は、個人のプライバシー意識の高まりと、デジタル社会におけるデータ保護の重要性が世界的に認識される中で登場した。利便性を損なわずにいかにして個人情報を守るか、という現代的な課題に対する中国の一つの回答と言えるだろう。

一方で、このような中央集権的なIDシステムに対しては、特に中国共産党による統治という現状を鑑みるに、常に監視社会化への懸念がつきまとう。今後の運用実態や、データの取り扱いに関する透明性の確保が、国民からの信頼を得て制度を普及させる上で極めて重要になることは間違いない。

中国が目指す「安全で便利な」デジタル社会の実現と、個人のプライバシー保護の両立は達成できるのか。このサイバースペースIDの動向は、世界のテクノロジーと社会の関係性を占う上でも、引き続き注目していく必要がありそうだ。


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「中国、オンラインプライバシー保護へ「サイバースペースID」本格導入:600万件発行、新規則で利用環境整備」への1件のフィードバック

  1. 話しが入って来ないけれど、中国でもフィッシング詐欺で被害を受けている人が相当いるんだろうなという気がしてきた。

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