中国の半導体スタートアップ、砺算科技(Lisuan Tech)が、初のコンシューマー向けGPU「7G106」と「7G105」を発表した。驚くべきはその性能だ。一部ベンチマークでNVIDIAのGeForce RTX 4060を凌駕し、人気ゲーム『黒神話:悟空』を4K高画質で快適に動作させる実力を見せつけている。
静寂を破る龍、Lisuan Techが放つ6nm GPU
2025年7月26日、上海で開催された発表会は、世界のテクノロジー業界にとって無視できない出来事となった。設立からわずか3年余りのスタートアップ、Lisuan Techが、TSMCの6nmプロセスを採用した自社開発GPU「G100」チップを搭載する2つのグラフィックボードを発表したのだ。
- 7G106: ゲーマーをターゲットとしたコンシューマー向けモデル
- 7G105: AIやプロフェッショナル用途を想定した上位モデル
同社によれば、製品名の「7G」は、中国語の「奇跡(qíjì)」の発音に由来するという。これは、GPU開発という困難な道のりを乗り越えたチームの自負の表れだろう。過去、中国からはいくつかのGPUが登場したが、性能やAPI対応の面で既存メーカーに大きく水をあけられていた。しかし、今回のLisuan Techの発表は、その様相が明らかに異なる。
RTX 4060を凌駕する性能、その実力と限界
今回の発表で最も注目すべきは、そのパフォーマンスだ。公表されたデータは、メインストリーム市場における既存の秩序に揺さぶりをかけるのに十分なインパクトを持っている。
ベンチマークが示す確かな実力
まず、演算性能を示すGeekbench 6のOpenCLスコアでは、「7G106」は111,290点を記録。これは、NVIDIAのGeForce RTX 4060を約10%上回る数値であり、確かなポテンシャルを示すものだ。
一方で、よりゲーム性能に近い3DMark Fire Strikeのスコアは26,800点。これはRTX 4060とほぼ同等のレベルであり、現時点での性能は一長一短があるとも見て取れる。この差がドライバの成熟度によるものなのか、アーキテクチャの特性なのかは、今後の詳細なレビューを待つ必要があるだろう。
ゲームデモで示された「4Kゲーミング」への挑戦
ベンチマークスコア以上に市場に衝撃を与えたのは、実際のゲームデモだ。発表会では、世界的な注目作『黒神話:悟空』を4K解像度・高画質設定で動作させ、平均70FPSを超える安定したフレームレートを維持する様子が公開された。これは、単なる「動く」レベルではなく、「快適にプレイできる」実用性を証明したに等しい。
「Lisuan Techのデモは、中国製GPUが単なる廉価な代替品ではなく、最新AAAタイトルを高品質で楽しむための選択肢となり得ることを、雄弁に物語っている。」
見逃せない「光と影」:レイトレーシング非対応
ただし、手放しで賞賛するにはまだ早い。Lisuan Techの「TrueGPU」アーキテクチャは、DirectX 12やVulkan 1.3といった最新APIをサポートする一方で、現代のグラフィックスにおける重要技術であるレイトレーシングには対応していない。
これは、NVIDIAのRTXシリーズやAMDのRadeon RXシリーズが標準搭載する機能であり、この欠如は最新のビジュアル表現を重視するユーザー層にとっては大きなマイナスポイントとなる。コストと開発期間を優先し、まずはラスタライゼーション性能に特化したという戦略的な判断があったと推察される。
TrueGPUアーキテクチャの全貌:技術仕様を徹底解剖
公表されたスペックから、Lisuan Techの設計思想を読み解いていこう。
Lisuan 7G106(ゲーミングモデル)
- メモリ: 12GB GDDR6
- メモリバス幅: 192-bit
- ROP数: 96基 (Raster Operations Pipeline: 描画の最終段階を担う)
- TMU数: 192基 (Texture Mapping Unit: 3Dモデルに質感を貼り付ける)
- ビデオエンジン: 8K/60fpsのAV1/HEVCデコード、8K/30fpsのHEVCエンコードに対応
- 電源: シングル8-pinコネクタ(最大TDP 225Wと推定)
- インターフェース: DisplayPort 1.4a x4(HDMIは非搭載)
12GBというVRAM容量と192-bitのバス幅は、RTX 4060の8GB/128-bitを上回っており、高解像度テクスチャを多用するゲームにおいて有利に働く可能性がある。HDMIポートを搭載しないのは、ライセンス料を回避するためのコスト意識の表れとも考えられる。
Lisuan 7G105(プロフェッショナルモデル)
こちらは、24GBのECC対応GDDR6メモリを搭載し、FP32演算性能は最大24 TFLOPSに達する。さらに、GPUを仮想的に分割して複数のVMで利用するSR-IOV(Single-Root I/O Virtualization)にも対応しており、明らかにデータセンターやAIワークステーション市場を視野に入れている。
市場へのインパクトと今後の展望:中国GPUは黒船となるか?
Lisuan Techの挑戦は、まだ始まったばかりだ。同社によると、最初のエンジニアリングサンプル(A0シリコン)が完成したのは2025年5月末。8月にサンプル出荷を開始し、9月には量産に入るという極めて速いスケジュールを描いている。
しかし、GPUの真価はハードウェアだけで決まるものではない。安定性と性能を両立させるドライバの成熟度が、最終的なユーザー体験を左右する最大の鍵となる。過去の新規参入者が苦しんだこの壁を、Lisuan Techがどう乗り越えるかが注目したいところだ。
そして、もう一つの大きな変数が価格だ。もし「7G106」がRTX 4060と同等かそれ以下の価格で市場に投入されれば、特にコストを重視するゲーマーにとって非常に魅力的な選択肢となるだろう。米国の輸出規制強化を背景に、半導体の国内開発を国策として進める中国。その巨大な国内市場を足掛かりに、Lisuan Techが世界市場へと打って出る日はそう遠くないのかもしれない。
NVIDIAとAMDが築き上げてきた牙城に、中国から放たれた新たなる刺客。この一石が、停滞気味だったグラフィックスカード市場にどのような波紋を広げるのか。その動向から、しばらく目が離せそうにない。
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