Mozillaが人気「あとで読む」サービスPocketの終了を発表した翌日、ソーシャルニュースサイトDiggの共同創設者であり、現在その復活を主導するKevin Rose氏が、Pocketの事業引き継ぎに名乗りを上げたのだ。この動きは、単に一つのサービスの存続問題に留まらず、Webサービスの栄枯盛衰、そしてDigg復活の行方をも占うものとして、大きな注目を集めている。
突如浮上した「救済案」:Kevin Rose氏がXでMozillaに呼びかけ
事の発端は、2025年5月23日、Kevin Rose氏が自身のX(旧Twitter)アカウントに投稿したメッセージだった。Rose氏はMozillaとPocketの公式アカウントを名指しし、「我々@diggはPocketを愛しており、喜んで引き継ぎ、今後何年にもわたってあなた方のユーザーをサポートする!」と発信したのである。
この投稿には、GizmodoやEngadgetの共同創設者であり、現在MozillaでSVP New Productsを務めるPeter Rojas氏もメンションされており、Mozilla内部のキーパーソンへの直接的な働きかけであることは明らかだ。
Mozillaは、Pocketを2025年7月8日に正式にサービス終了し、APIおよびユーザーデータは同年10月8日までに完全にアクセス不能になると発表していた。その理由として、同社は「Web上で人々がコンテンツを保存・消費する方法が進化しており、我々はリソースを今日のブラウジング習慣により合致するプロジェクトに振り向ける」と説明。今後はFirefoxブラウザ本体の機能強化(タブグループや強化されたブックマーク機能など)に注力する方針を示していた。
長年Pocketを愛用してきたユーザーにとっては、まさに青天の霹靂とも言える発表だっただけに、Rose氏の提案は一縷の望みとして受け止められている。
なぜDiggがPocketに?復活にかける古豪の野心と戦略
ここで疑問が浮かぶ。「なぜ、今DiggがPocketなのか?」である。
Diggは、かつてWeb 2.0時代を象徴するソーシャルニュースサイトとして一世を風靡した。しかし、2010年の大幅なサイトリニューアルがユーザーの反発を招き、急速に勢いを失った過去がある。そのDiggが、創設者であるローズ氏と、かつてのライバルRedditの共同創設者Alexis Ohanian氏という強力なタッグによって、復活に向けて動き出しているのだ。
新生Diggは、かつての栄光を取り戻すべく、積極的な動きを見せている。最近では、人気Redditサードパーティアプリ「Apollo」の開発者として知られるChristian Selig氏をアドバイザーとして迎え入れたことも話題となった。Selig氏は「新しくてエキサイティングなものを構築する」手助けをすると述べており、新生Diggへの期待感を高めている。
このような状況下でPocketの買収提案がなされた背景には、明確な戦略的意図が見え隠れする。TechCrunchが指摘するように、Pocketが抱える既存のユーザーベースは、再起を目指すDiggにとって非常に魅力的だ。買収が実現すれば、Diggはサービス開始初期から一定数のアクティブユーザーを獲得できる可能性があり、これは大きなアドバンテージとなる。
さらに、Pocketの「あとで読む」機能と、Diggの「コンテンツ発見・共有」機能は非常に親和性が高い。ユーザーがPocketに保存した良質な記事がDiggで話題となり、逆にDiggで見つけた興味深いコンテンツがPocketに保存される、といった相互補完的なエコシステムの構築も期待できるだろう。これは、新生Diggがコンテンツのパイプラインを確保し、ユーザーエンゲージメントを高める上で極めて有効な一手となり得る。
Mozillaの胸中と買収実現の可能性:過去にはMediumも関心か
Rose氏の熱意ある提案に対し、Mozilla側がどのような反応を示すかは現時点では不明だ。MozillaがPocketのサービス終了を決定した背景には、Firefoxへのリソース集中という明確な経営判断がある。一度下した決定を覆し、売却交渉に応じるかどうかは予断を許さない。
興味深いことに、ブログプラットフォームMediumのCEOであるTony Stubblebine氏も、2023年にPocketの買収を検討したものの、Mozilla側からの返答は得られなかったという。Stubblebine氏は「Mozillaが何をしているのか分からないが、少々腹立たしい」とコメントしており、Pocketのソフトウェア自体は再構築が容易であるものの、Web上での既存のインフラや統合を置き換えるのは困難であるため、誰かが引き継ぐ価値はあったはずだと述べている。
この事実は、MozillaがPocketの売却に必ずしも積極的ではなかった可能性を示唆している。しかし、今回はDiggという、かつて一時代を築いたブランドの創業者自身からの直接的な提案であり、状況が異なる可能性も否定できない。
もし買収が実現すれば、Pocketユーザーにとっては朗報であることは間違いない。単にサービスが存続するだけでなく、新生Diggとの連携によって新たな価値が生まれるかもしれないからだ。一方で、交渉が不調に終われば、Pocketは予定通り歴史に幕を下ろすことになる。
「あとで読む」サービスの現在地とDigg復活の意義
Pocketのような「あとで読む」サービスは、情報過多の現代において、Stubblebine上の興味深いコンテンツを一時的に保存し、後でじっくりと読むためのツールとして多くのユーザーに支持されてきた。Instapaperと並び、この分野の草分け的存在であったPocketの終了宣言は、市場環境の変化やユーザーのニーズの多様化を象徴しているのかもしれない。
しかし、Kevin Rose氏の今回の動きは、こうしたサービスに対する根強い需要が存在すること、そして魅力的なユーザーベースを持つサービスは、形を変えてでも存続しうる可能性を示唆している。
Diggの復活劇そのものも、インターネットの歴史における興味深い一章と言えるだろう。Web 2.0の寵児から一度は表舞台を去ったサービスが、創業者たちの手によって再び現代に蘇ろうとしている。その挑戦が、Pocketという別の物語と交差することで、どのような化学反応を起こすのだろうか。
この買収提案が単なる話題作りで終わるのか、それともPocketとDigg双方にとって新たな未来を切り開く一歩となるのか。今後のMozillaとRose氏の動向から目が離せない。いずれにせよ、この出来事は、テクノロジー業界におけるサービスの栄枯盛衰と、それを支えるユーザーコミュニティの重要性を改めて浮き彫りにしていると言えるだろう。
Sources
- Kevin Rose (X)
- via TechCrunch: Digg founder Kevin Rose offers to buy Pocket from Mozilla