Googleは、AIモデル「Gemini」に新機能「Scheduled Actions(スケジュール済みアクション)」を実装したと発表した。これにより「指示待ち」が当たり前だったAIアシスタントが、自ら未来のタスクを記憶し、実行する段階へと進化することになる。センセーショナルな内容ではないかも知れないが、Googleアシスタントからの世代交代を加速させ、私たちのデジタルライフを根底から変える可能性を秘めた、大きな一歩と言えるだろう。
Geminiがあなたの「未来の予定」を記憶する新機能「Scheduled Actions」とは?
今回、Google Geminiの有料プラン(AI ProおよびAI Ultra)と一部のGoogle Workspaceユーザー向けに提供が開始された「Scheduled Actions」は、その名の通り、ユーザーが指定した時間に、あるいは特定のイベントの後に、Geminiが自律的にタスクを実行する機能だ。Googleのアナウンスによれば、展開されている地域などについては触れられていないが、本稿執筆時点(日本時間6月7日午前5時)では、日本エリアの筆者のGemini AI Proプランには実装されていないようだ。
Geminiの利用に際して、これまでは、ユーザーがその都度プロンプト(指示)を入力する必要があった。しかし、この新機能によって、まるで秘書に「月曜の朝にこれをやっておいて」と頼むように、未来のタスクを予約できるようになっている。
Googleは、この機能で可能になることの具体例をいくつか紹介しているが、その内容は多岐にわたる。
- 毎日のルーティンを自動化:
- 「毎朝7時に、今日のカレンダーの予定と未読の重要メールを要約して」
- 「平日の夜7時に、明日の夕食のレシピを3つ提案して」
- クリエイティブな作業をサポート:
- 「毎週月曜の朝9時に、私のブログのためのアイデアを5つ考えて」
- 「毎週末に、その週の主要なテクノロジーニュースの要約を作成して」
- 情報のキャッチアップを効率化:
- 「応援しているサッカーチームの試合が終わった翌朝に、試合結果とハイライトを教えて」
- 「アカデミー賞の授賞式が終わった翌日に、受賞結果をまとめて」
これらのタスクは一度設定すれば、Geminiが自動で実行してくれる。設定の管理や変更は、Geminiアプリの設定内にある「scheduled actions」ページからいつでも可能だ。これまでユーザーが能動的に行っていた情報収集や定型作業を、AIがプロアクティブ(積極的)に肩代わりしてくれるようになる。
Googleアシスタントからの世代交代を象徴する一手

この「Scheduled Actions」は、長年Androidユーザーに親しまれてきた「Googleアシスタント」から「Gemini」への完全な世代交代を示す、戦略的な一手と見られる。
思い出してほしい。Googleアシスタントには「ルーティン」という、似たような機能が存在した。「おはよう」と声をかけると、天気やニュース、今日の予定を読み上げてくれる、あのおなじみの機能だ。しかし、「Scheduled Actions」は、そのコンセプトをさらに推し進め、より柔軟で強力なものへと進化させている。
アシスタントのルーティンが、比較的単純なコマンドの組み合わせだったのに対し、GeminiのScheduled Actionsは、より複雑で文脈に依存したタスクの実行を可能にする。「未読メールの要約」や「ブログアイデアの生成」といったタスクは、単純な情報読み上げではなく、Geminiの高度な言語生成能力をフル活用するものだ。
Googleはすでに、Googleアシスタントの機能を段階的に縮小し、Geminiへの統合を進めている。この流れの中で登場した「Scheduled Actions」は、来るべき「Gemini時代」の到来を告げるものであり、アシスタントの「ルーティン」機能の実質的な後継者、いや、それを凌駕する存在と位置づけられるだろう。
熾烈化する「AIエージェント」開発競争の最前線
この動きは、Googleだけのものではない。AI業界全体が今、「AIエージェント」の開発を目指してしのぎを削っている状況だ。AIエージェントとは、単に質問に答えるだけでなく、ユーザーの意図を深く理解し、複数のステップにまたがる複雑なタスクを自律的に計画・実行するAIのことだ。
競合であるOpenAIも、すでにChatGPTの有料プランで同様の繰り返しタスクを実行する機能を提供している。今回のGoogleの動きは、この「AIエージェント」開発競争において、OpenAIに後れを取るまいとする強い意志の表れだ。
「毎日の情報収集を自動化する」というレベルから、「旅行の計画を立て、航空券とホテルを予約し、現地のレストランの予約まで済ませる」といった、より高度なエージェント機能の実現へ。両社の競争は、私たちの生活を劇的に変えるポテンシャルを秘めている。今回のアップデートは、その壮大な競争における重要な布石なのだ。
利用条件と今後の展望:なぜ有料プランからなのか?
現時点で「Scheduled Actions」が利用できるのは、Geminiの有料プランユーザーと一部の法人・教育機関向けプランのユーザーに限定されている。この点に、もどかしさを感じる無料ユーザーも多いだろう。
なぜ有料限定なのか。明確な理由は公表されていないが、主に2つの理由が考えられる。
- サーバーリソースの問題: スケジュールされたタスクを多数のユーザーに対して24時間365日待機させ、指定された時間に確実に実行するには、膨大な計算リソースが必要となる。これを全ユーザーに無料で提供するのは、現時点ではコスト的に現実的ではないのかもしれない。
- 高度な機能の価値付け: 高度な言語モデルを活用した複雑なタスク実行は、単純な検索や応答とは一線を画す付加価値の高い機能だ。これを有料プランのキラーコンテンツとして位置づけ、サブスクリプションへの加入を促す狙いがあるのだろう。
とはいえ、Googleのこれまでの製品展開パターンを鑑みれば、将来的には機能の一部が無料ユーザーにも開放される可能性は十分にある。まずは有料ユーザーでデータを収集・分析し、機能を安定させた上で、段階的に提供範囲を拡大していくというシナリオが最も有力ではないだろうか。
AIが「指示待ち」から「自律実行」へ – 新たな時代の幕開け
Google Geminiの「Scheduled Actions」は、AIアシスタントの役割を「受動的」から「能動的」へと転換させる、画期的な一歩だ。私たちはもはや、AIを単なる検索ツールやチャット相手として見るのではなく、信頼できる「パートナー」や「秘書」として捉え直す必要に迫られている。
毎朝のうんざりするような情報チェックから解放され、創造的な仕事に集中する。膨大な情報の中から、自分に必要なものだけをAIが届けてくれる。そんなライフスタイルが、もはや夢物語ではなくなりつつある。
もちろん、プライバシーやセキュリティ、AIの判断の正確性など、解決すべき課題は山積みだ。しかし、この技術が秘める可能性は、そうした懸念を乗り越えて追求する価値がある。AIが私たちの指示を待つ時代は終わりを告げ、AIが私たちの未来を先読みして手助けしてくれる、新たな時代が今、幕を開けようとしている。
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