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OpenAI、コーディング向けAIエージェント「Codex」発表:新たな自律型システムの登場は開発現場にどのような変革をもたらすのか?

Y Kobayashi

2025年5月17日

OpenAIが、ソフトウェア開発のあり方を根底から覆す可能性を秘めた新たなAIエージェント「Codex」を発表した。OpenAIのCodexはこれまでのコード生成ツールの能力を大きく超えるものであり、複数のタスクを自律的に並行処理するこの「仮想同僚」は、開発者の生産性を飛躍的に向上させるのか、そして私たちの働き方をどう変えるのだろうか?

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OpenAIが放つ次世代AIコーディングエージェント「Codex」とは?

OpenAIは2025年5月16日(現地時間)、クラウドベースのソフトウェアエンジニアリングエージェント「Codex」のResearch Previewを発表した。 このCodexは、かつて同社が提供していたコード生成APIの名称を冠しているが、その実態は大きく異なる。新しいCodexは、バグ修正、新機能の実装、コードベースに関する質問応答、テストの実行、プルリクエストの提案といった一連のソフトウェア開発タスクを、開発者に代わって自律的に、しかも複数同時に処理できる「AIエージェント」として設計されている。

Codexの頭脳となるのは、OpenAIの最新推論モデル「o3」をソフトウェアエンジニアリングに特化して最適化した「codex-1」だ。 このモデルは、実際のコーディングタスクを用いた強化学習によって鍛え上げられ、人間が書いたような自然なコードスタイルやプルリクエストの慣習を理解し、指示には正確に従い、テストが通るまで繰り返し修正を試みる能力を持つという。

現在、CodexはChatGPT Pro、Enterprise、Teamのユーザー向けに提供が開始されており、PlusおよびEduユーザーへの展開も近日中に予定されている。

ベンチマークで示された「codex-1」の驚異の実力

OpenAIが公開したベンチマーク結果は、「codex-1」の潜在能力の高さを示唆している。

「SWE-Bench Verified」と名付けられた評価では、複数の試行回数(pass@k)における正解率で、既存のo3-highモデルを上回る性能を見せている。特に試行回数が少ない段階での改善が顕著で、より効率的に正しいコードを生成できる可能性を示している。

また、「OpenAI Internal SWE tasks」という社内ベンチマークにおいては、codex-1は75%の正解率を達成。これはo3-highの70%、o4-mini-highの67%、そして第一世代の推論モデルo1-highの11%を大きく引き離す結果だ。 これらの数値は、codex-1が複雑な実世界の開発タスクにおいても高いパフォーマンスを発揮することを示していると言えるだろう。

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開発ワークフローを変革するCodexの主な機能

Codexは、開発者の日常業務を多角的に支援する機能を備えている。

  • タスクの実行: ChatGPTのサイドバーから、「Code」ボタンでコーディングタスクを、「Ask」ボタンでコードベースに関する質問をCodexに指示できる。
  • 並列処理と独立環境: 各タスクは、ユーザーのリポジトリがプリロードされた、独立した隔離クラウドサンドボックス環境で並列に実行される。これにより、複数の作業を同時に進めることが可能だ。
  • ファイル操作とコマンド実行: Codexはファイルの読み書きだけでなく、テストハーネス、リンター、型チェッカーなどのコマンドも実行できる。
  • 進捗確認と検証可能性: タスクの完了には通常1分から30分程度かかり、進捗はリアルタイムで確認可能。完了後は、ターミナルログやテスト出力といった形で実行ステップの証拠が提示され、開発者は変更内容を詳細にレビューできる。
  • 柔軟な連携: レビュー後、さらなる修正を要求したり、GitHubプルリクエストを開いたり、ローカル環境に直接変更を統合したりすることが可能だ。

「AGENTS.md」で実現する開発現場への最適化

Codexのユニークな特徴の一つが、「AGENTS.md」ファイルによるカスタマイズ機能だ。 これはリポジトリ内に配置するテキストファイルで、README.mdが人間開発者向けの説明書であるのに対し、AGENTS.mdはCodexエージェントに対する指示書となる。

このファイルを通じて、開発者はCodexに対し、コードベースのナビゲーション方法、実行すべきテストコマンド、プロジェクト固有のコーディング規約やプルリクエストメッセージの書き方などを教え込むことができる。 AGENTS.mdの指示は、そのファイルが存在するディレクトリツリー全体に適用され、より深くネストされたAGENTS.mdファイルが優先される。 OpenAIによれば、適切に設定された開発環境、信頼性の高いテスト設定、明確なドキュメント(AGENTS.mdを含む)がある場合に、Codexエージェントは最高のパフォーマンスを発揮するという。

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安全性と透明性への取り組み

AIエージェントが自律的にコードを扱うことに対する懸念に応えるため、OpenAIはCodexの設計において安全性と透明性を重視している。

  • セキュアな実行環境: Codexエージェントは、インターネットアクセスが遮断された、安全で隔離されたクラウド上のコンテナ内で動作する。アクセスできるのは、GitHubリポジトリ経由で明示的に提供されたコードと、ユーザーがセットアップスクリプトで設定したプレインストール済みの依存関係のみだ。
  • マルウェア開発の防止: OpenAIは、Codexが悪意のあるソフトウェア開発(マルウェア開発など)に利用されることを防ぐための訓練を施している。不正な目的のリクエストを識別して拒否する一方で、低レベルのカーネルエンジニアリングのような正当なタスクはサポートするように設計されている。 これらの評価については、o3システムカードの追補版で詳述されている。
  • 検証可能なアウトプット: 前述の通り、Codexはターミナルログやテスト結果を通じて、そのアクションを検証可能な形で提示する。不確実な場合やテストに失敗した場合は、その問題を明確に伝え、ユーザーが情報に基づいて判断できるようにする。 ただしOpenAIは、「エージェントが生成したすべてのコードは、統合・実行前にユーザーが手動でレビューし、検証することが依然として不可欠である」と強調している。

Codex CLIとの連携:ローカル開発も強力にサポート

OpenAIは、先月発表したターミナルで動作する軽量オープンソースコーディングエージェント「Codex CLI」のアップデートも発表した。

新しいCodex CLIには、Codex-1の小型版であり、o4-miniをベースにCodex CLI向けに特化して設計された「codex-mini-latest」モデルがデフォルトで搭載される。 このモデルは、低遅延でのコードに関するQ&Aや編集に最適化されており、CLIでのより迅速なワークフローを支援する。

また、Codex CLIへの接続も簡素化され、APIトークンを手動で設定する代わりにChatGPTアカウントでサインインし、API組織を選択するだけでAPIキーが自動的に設定されるようになった。 PlusおよびProユーザーは、期間限定で無料のAPIクレジットも利用できる。

codex-mini-latestモデルはResponses API経由でも利用可能で、価格は入力100万トークンあたり1.50ドル、出力100万トークンあたり6ドル(プロンプトキャッシングにより75%割引あり)となっている。

利用方法と気になる価格設定

Codexは、ChatGPT Pro、Enterprise、Teamユーザー向けにResearch Previewとして提供が開始された。 今後数週間は追加費用なしで利用でき、その後、レート制限が導入され、オンデマンドで追加利用量を購入できる柔軟な価格オプションが展開される予定だ。 PlusおよびEduユーザーへの提供も近日中に予定されている。

前述の通り、Codex CLIで利用されるcodex-mini-latestモデルは既に価格設定が公開されている。

開発現場の声:アーリーテスターからの評価

OpenAI社内では、繰り返し発生する定型的なタスク(リファクタリング、命名規則の統一、テスト作成など)のオフロードにCodexが活用されているという。 また、新機能の骨子作成、コンポーネントの連携、バグ修正、ドキュメンテーション作成などにも役立っているとのことだ。

外部のアーリーテスターからも好意的な声が寄せられている。

  • Cisco: エンジニアリングチームが野心的なアイデアをより迅速に実現するための手段としてCodexを評価している。
  • Temporal: 機能開発の加速、問題のデバッグ、テストの作成と実行、大規模なコードベースのリファクタリングにCodexを使用。複雑なタスクをバックグラウンドで実行させることで、エンジニアの集中力を維持しつつイテレーションを高速化している。
  • Superhuman: テストカバレッジの向上やインテグレーションエラーの修正といった、小規模だが反復的なタスクの高速化にCodexを活用。プロダクトマネージャーがエンジニアの手を借りずに(コードレビューは除く)軽微なコード変更を行えるようにし、迅速な製品出荷を支援している。
  • Kodiak: 自動運転技術「Kodiak Driver」の開発において、デバッグツールの作成、テストカバレッジの向上、コードのリファクタリングにCodexを利用。エンジニアが不慣れなスタック部分を理解するための貴重なリファレンスツールにもなっているという。

OpenAIは、アーリーテスターからの学びとして、適切にスコープされたタスクを複数のエージェントに同時に割り当て、様々な種類のタスクやプロンプトを試すことで、モデルの能力を効果的に探求することを推奨している。

AIコーディングの未来

OpenAIは、Codexを単なるツールとしてではなく、開発者の働き方そのものを変革する存在と位置づけている。 将来的には、リアルタイムでのペアプログラミングのような使い方と、非同期でのタスク委任という二つのインタラクションモードが融合し、IDEや日常的に使用するツール全体でAIエージェントと協力する統一されたワークフローを目指しているという。

具体的な計画としては、タスク実行中に指示を出したり、実装戦略について協力したり、進捗状況をプロアクティブに受け取ったりできる、よりインタラクティブで柔軟なエージェントワークフローの導入が予定されている。 現在のGitHub連携に加え、将来的にはCodex CLIやChatGPT Desktop、さらには課題管理システムやCIシステムからもタスクを割り当てられるようになることも構想されている。

激化するAIコーディング市場とCodexの位置付け

AIによるソフトウェア開発支援ツールの市場は、急速な成長と競争激化の様相を呈している。MicrosoftのGitHub Copilotが市場をリードし、AmazonのCodeWhispererなども存在する中、Codexの登場は大きな注目を集めている。

先日より、OpenAIがAIコーディングスタートアップWindsurfの買収交渉を行っているとの報道があったが、今回のCodex発表(特にResearch Previewという形でのリリース)が、WindsurfやCursorといった競合他社に対する交渉圧力の一環である可能性もありそうだ。 奇しくも、WindsurfはCodex発表の前日に独自のコーディング特化型基盤モデル「SWE-1」を発表しており、両社の動きは市場関係者の憶測を呼んでいる。

OpenAIの担当者はWindsurf買収の噂についてはコメントを控えているが、同社のAgents Research Teamを率いるJosh Tobin氏は、「エージェントとは、実世界と対話することで、より長期間にわたってユーザーのために大きな仕事をこなせるAIシステムだと考えている」と述べ、Codexがそのビジョンを体現するものであることを強調している。

ソフトウェアエンジニアリングは、AIによる生産性向上の恩恵を最も早く受ける業界の一つであり、Codexのような高度なAIエージェントの登場は、開発者の役割、必要なスキルセット、さらには技術教育のあり方にまで影響を与える可能性がある。

OpenAIが「これは始まりに過ぎない」と語るように、Codexが切り開くAIコーディングの未来は、まだ多くの可能性を秘めていると言えるだろう。

A research preview of Codex in ChatGPT

Sources

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