2026年4月12日、イランのインターネット遮断が1,000時間を超えた。NetBlocksが「史上最長の全国規模遮断」と認定したこの事態で、国内の接続レベルは通常比約1%に落ち込み、1日あたり約37億円の経済損失が積み上がっている。

それでも当局が遮断を解除しない理由は、コスト計算の問題ではない。市民の情報アクセスを止める一方で、国家のサイバー作戦は止まっていない。この非対称性こそが、現代の権威主義的情報統制が到達した新しい形だ。

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史上最長1,000時間:数値が示す異常な規模

2026年4月5日、NetBlocksはイランの遮断を「史上最長の全国規模インターネット遮断」と公式に認定した。4月12日時点で1,000時間を超え、接続レベルは通常比約1%にまで低下している。Tom’s Hardwareが報じたこの数値は、単なる「制限」や「減速」ではなく、インフラとして機能する水準を完全に下回っている。2019年の抗議活動時は6日間(約144時間)、2022年のMahsa Amini抗議時も部分的遮断にとどまった。1,000時間はこれらを大幅に上回り、同国のインターネット統制の新しい基準点となっている。

NetBlocks ディレクターの Alp Toker氏は遮断の目的をこう説明する。「インターネット遮断は主に、国外向けの情報を整え、国内の反体制運動を抑制し、メタデータや位置情報のリークを防ぐためのメカニズムだ」。この説明が示すのは、遮断がインフラ上の事故や不備ではなく、意図的な情報管理ツールだという点だ。Human Rights Watch上級技術・人権研究員の Tomiwa Ilori氏はその人道的コストを指摘する。「危機時のインターネット遮断は、空爆がどこで起きているか・どう安全に医療を受けるかといった命に関わる情報へのアクセスを制限する」。

2段階で完成した遮断:抗議と戦争の交点

遮断は一度で決まったわけではない。2026年1月8日、イラン国内の抗議運動が激化した12日目に当局はインターネットと電話回線を遮断した。通貨リアルが半年で半減し、インフレ率が40%を超えた経済危機に端を発したこの抗議運動への対応として、当初の遮断は実施された。その段階では、VPN(仮想プライベートネットワーク)アプリのダウンロード数が500〜579%急増し、海外在住のイラン系市民約40万人がPsiphonを通じて国内ユーザーへの接続支援を開始した(2月時点)。

2月28日、米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃(イスラエル側は「Operation Roaring Lion」、米国側は「Operation Epic Fury」と伝えられる)が実施されると、接続レベルは通常比4%に急落した。軍事的な局面に入ったことで、当局は情報統制をさらに強化した形だ。その後も回復することなく、4月12日時点で約1%にまで低下した。1月の遮断が市民運動への対処であったとすれば、2月以降の強化は戦時下の情報管理という別の文脈が重なっている。

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Starlinkとの戦い:死刑規定と密輸端末

地上回線が遮断された状況で、衛星通信サービスStarlinkが代替手段として注目を集めた。これに対し当局は「軍用グレードのジャミング」を展開し、一部地域ではパケットロスが80%に達した。同時に2025年に成立した反スパイ法改正により、Starlink端末の使用・所持がスパイ目的と見なされた場合、死刑を含む罰則が適用される法的根拠が整備された。端末を持つこと自体が犯罪となりうる環境だ。

一方、複数のメディアの報道によれば、Trump政権はStarlink端末約6,000台をイランに密輸したという。遮断に対抗する情報ルートの確保と、それを封じようとする当局のジャミングおよび法的規制が、衛星という新しい戦場で対峙している。パケットロス80%という数値は、ジャミングが実際に機能していることを示しており、Starlinkが完全な回避手段にはなっていない現状を反映している。

1日37億円の経済コストを払っても続ける理由

イラン通信相の発表とNetBlocksの推計によれば、遮断のコストは1日3,570〜3,700万ドルに上る。1,000時間を超えた現時点では、累積損失は約15億ドル(約2,250億円)に達する計算だ。この数字を「高すぎるコスト」と見るかどうかは、何と比較するかによって変わる。イラン政府にとって、このコストは市民の情報アクセスを制限し、組織的な抗議行動の形成を妨げ、外部への映像・位置情報の流出を防ぐための費用だ。

遮断継続の論理を理解するには、誰がコストを負担しているかを見る必要がある。経済的ダメージを直接受けるのは民間企業と一般市民であり、当局ではない。インターネット経由でビジネスを行う中小事業者、フリーランサー、輸出入業者が打撃を受ける一方、政府機能は別系統のインフラで維持されている。経済損失と政治的コントロールのトレードオフが、市民と政府の間で非対称に分配されている構造だ。

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遮断中も国家ハッカーは動き続けた

1,000時間の遮断が「国内向け」の措置である最も明確な証拠が、国家連携サイバー攻撃グループの活動継続だ。Seedworm、Homeland Justice、Handalaの3グループは、国内インターネットが事実上使用不能な状態の中でも、外部インフラを通じて攻撃を継続している。これらのグループの標的は国外のシステムや組織であり、国内ネットワークを経由する必要がない。

遮断は「イランのインターネットを止めた」のではなく、「イランの市民がインターネットを使えないようにした」のだ。国家機能——諜報、攻撃的サイバー作戦、対外的な情報発信——は止まっていない。止まったのは、市民が抗議の様子を動画で共有すること、外部の報道機関と連絡を取ること、位置情報が海外に漏れることだ。Alp Toker 氏が「メタデータや位置情報のリークを防ぐ」と表現した機能が、ハッカーグループの継続活動という反証によって、逆照射される形で明確になっている。

同様の手法はミャンマー(2021年クーデター後)やロシア(2022年以降の段階的遮断)でも確認されており、市民向け回線を選択的に切断しながら国家機能を温存するモデルは、権威主義的政権による標準的な統治手法として定着しつつある。1,000時間を超えた遮断は、技術的な記録である前に、統治の設計図だ。市民に向いたネットワークだけを切断し、国家の手足は動かし続けるという設計の。


Sources