ミュンヘン大学（LMU）と早稲田大学の共同研究チームが、人間とAIロボットの協力関係に関する興味深い文化的差異を発見した。日本人は協力的なAIに対して人間と同程度の協力行動を示す一方、アメリカ人はAIを人間よりも搾取する傾向があるという。この発見は、将来の自律型ロボットや自動運転車の社会実装に大きな影響を与える可能性がある。
文化によって異なるAIへの対応—経済ゲームで明らかに
研究チームは、研究チームは、日本とアメリカから集めた約1,200人の参加者を対象に、自己の利益と相互の利益の間で選択が求められる古典的な経済ゲームである「信頼ゲーム」と「囚人のジレンマ」を用いて実験を行った。参加者は人間または「AI」と対戦し、互いに協力すれば両者が適度な報酬を得られるが、一方が協力を拒否すると自分だけが高い報酬を得られるという状況に置かれた。
実験の結果、日本の参加者は相手が人間であろうとAIであろうと、ほぼ同程度の協力率を示した。一方、アメリカの参加者はAIと対戦した場合、人間と対戦した場合と比較して著しく協力率が低下した。例えば、信頼ゲームにおいて、日本人のプレイヤー2の立場では、人間に対する協力率が66%、AIに対しては56%とわずかな差だったのに対し、アメリカ人は人間に対しては75%の協力率を示したが、AIに対しては34%と大幅に低下した。
「日本ではAIに対する協力率が人間と同程度だったのに対し、アメリカではAIに対する協力率が人間の半分以下でした。これは極めて顕著な差異です」と、論文の筆頭著者であるミュンヘン大学のJurgis Karpus博士は述べている。
感情反応の違いが鍵—AIを搾取する罪悪感
研究者たちはさらに、ゲームの結果に対する参加者の感情的反応も調査した。その結果、AI搾取（AIが協力しているのに自分は協力しなかった）をした場合、日本人はアメリカ人よりも強い否定的感情を示すことが判明した。
日本人参加者はAI搾取した際、アメリカ人と比較して有意に高レベルの罪悪感、怒り、失望を報告し、また喜び、勝利感、安心感は低レベルだった。さらに、日本人は人間に対する搾取とAIに対する搾取を比較した結果、感情に大きな差はなかったが、アメリカ人は人間に対する搾取の場合にはある程度の罪悪感を示したものの、AIに対する搾取にはほとんど罪悪感を示さなかった。
「日本人とアメリカ人との最も注目すべき違いは、AIに対する感情的反応でした。日本の参加者はAIに対して搾取をした場合、人間に対する搾取した場合とほぼ同程度の罪悪感を示しましたが、アメリカの参加者はAIに対して搾取しても、ほとんど罪悪感を感じないようでした」と研究チームは報告している。
文化的背景と今後の技術普及への影響
この研究結果は、日本における伝統的なアニミズムや仏教の影響によって、非生物に魂や感情を見出す文化的傾向が関係しているかもしれないと研究者たちは推測している。実際、先行研究では、日本人はアメリカ人と比較して、ロボットが感情を経験できると考える傾向が強いことが示されている。
これらの文化的差異は、自動運転車などの自律型技術の社会実装に大きな影響を与える可能性がある。Karpus博士は「日本人が人間とロボットを同等に尊重するなら、完全自律型タクシーはベルリン、ロンドン、ニューヨークよりも東京で先に普及するかもしれません」と述べている。
研究者たちは、今回の発見が人間とAIの相互作用に関する理解を深め、文化的背景を考慮した技術設計の重要性を示していると強調している。AIとの相互作用が増加する未来社会において、こうした文化的差異を理解することは、技術の効果的な実装と受容に不可欠だと言える。
論文
- Sciencitif Reports: Human cooperation with artificial agents varies across countries
参考文献
- Ludwig-Maxmilians-Universtat Munchen: Philosophy: cultural differences in exploitation of artificial agents
故・長岡鉄男の受け売りとなるが、有機物にアクティブな意思を認めるなら無機物にはパッシブな意思が有る。速度を出すために作られたスポーツカーは生まれついてスピードを出そうとする意志を持ち、それが運転手の意思を上回った場合は制御が不可能になって事故になる。
かつて汎用機は巨大な意思を持って我々の生活を支えてきた。それがダウンサイジングを繰り返し今では我々はパソコンや携帯電話の意思に生活を依存しているが、そのようなインフラの上でAIはどのような意思を持って生まれてくるのだろうか。人間の発展に尽くしたAIのために、日本には将来「AI供養」の塚ができているかもしれない。