Manusは2026年9月28日、AIエージェント製品の大幅アップデート「Manus 2.0」を発表した。デスクトップアプリを「Manus Studio」へ刷新し、生成した動画やゲームを人が直接編集できる環境を追加する。新着メールなどをきっかけに処理を始める「Automations」や、スマートフォンから手元のPCへ作業を指示できる「Computer Use」も加わった。

AIに完成品を一度作らせて終わるサービスから、人が途中で手を加え、その続きからAIに作業を任せたり、クラウドと手元のPCをまたいで処理を続けたりできる制作・実行環境へ広げる更新だ。

ただし、今回発表された機能がすべて新しく、同じ条件で一般提供されたわけではない。Cloud Computerや予定実行、ローカルPCやブラウザーとの連携は以前から提供されていた。別アプリのCueは招待制の早期アクセスで、Cascadeの効率改善を示す数字についても詳しい測定条件は明らかにされていない。

Manus 2.0の変化は、機能の数を追うより、「どこで処理するのか」「誰が編集するのか」「AIにどこまで権限を与えるのか」に分けて見ると分かりやすい。

AD

AIが作ったものを、人が直接直して続きを任せられる

Manus StudioのVideo Editorでは、AIが生成した完成動画だけを受け取るのではなく、クリップ、画像、文字、モーショングラフィックス、音声などを個別の素材としてタイムライン上で編集できる。

利用者は曲を変更したり、自分で撮影した映像へ差し替えたり、アニメーションの動きを調整したりしたうえで書き出せる。さらに、編集後の状態から再びManusに作業を任せることもできる。従来はこうした変更を加えるたびに指示を書き直し、動画全体を作り直す必要があったという。

想定されているのは、30〜60秒の商品広告、チュートリアル、Vlog、データを使ったモーショングラフィックスなどだ。Alchemyモードでは動画生成とコード生成を組み合わせ、Manus側に映像表現を大きく任せることもできるとしている。

ただし、「品質が上がる」「動きが洗練される」といった評価はManus自身によるもので、従来版や他社製品と同じ素材を使った比較試験は公開されていない。

今回、具体的に確認できる変化は、AIが使った素材やタイムラインを利用者自身が編集できるようにしたことだ。

Game Devも、同じ考え方をゲーム制作へ広げている。利用者はゲームを実際に動かしながら、素材やコードを確認し、キャラクターの動き、グラフィック、シーンなどを直接修正できる。一部分だけを変更しても、それ以外を最初から作り直す必要はない。

完成したゲームはWeb上で公開でき、マルチプレイにする場合はCloud Computerをサーバーとして利用できる。Manusはレース、対戦、競技、3Dゲームなどを例に挙げているが、同時接続数や通信遅延、サーバー性能などの保証値は示していない。

動画とゲームに共通するのは、AIの出力を「そのまま採用するか、全部作り直させるか」の二択にしないことだ。

人が一部分だけを修正し、その状態を維持したままAIへ再び作業を任せられれば、制作の中心は「プロンプトを書き直して再生成すること」から「実際の成果物を編集すること」へ移る。Manus 2.0で最も分かりやすい変化の一つがここにある。

Cloud Computer、手元のPC、Cueはそれぞれ別の環境

Manus 2.0では「コンピューター」という言葉が何度も登場するが、すべて同じ仕組みではない。

Cloud ComputerはManusが提供するクラウド上の常時稼働環境で、Computer Useは利用者が接続して許可した手元のPCを操作する機能だ。Cueはさらに別のアプリで、それぞれのAIエージェントに専用のコンピューターや連絡手段を持たせる構想を掲げている。

機能 動作する場所 主な用途 利用条件・公開されている範囲
Manus Studio macOSまたはWindowsのデスクトップアプリ 文書、動画、ゲーム、コードなどの作成・編集 ローカルファイルや各種ツールを利用。動画とゲームには専用の編集環境を用意
Cloud Computer Manusが提供するUbuntu Server 24.04 LTSの専用クラウド環境 マルチプレイサーバー、常時稼働する自動化 月単位で契約する専用環境。継続して稼働可能
Computer Use 接続して利用を許可したユーザーのPC ファイル、ブラウザー、アプリを使った作業 許可した範囲でPC上の環境を操作
Cue Manusと同じ基盤を使う別アプリ上のエージェント環境 メッセージ、通話、予算内での支払い、複数エージェントによる分担 招待制の早期アクセス。コンピューター資源や決済の詳細は未公表

この違いは、実際に導入する際に重要になる。

Cloud Computerでは、常時稼働させるための料金や公開サーバーとしての管理を考える必要がある。Computer Useでは、どのファイルやアプリへのアクセスを許可し、利用者が席を離れている間にどこまで操作させるかが問題になる。

Cueではさらに、メッセージの送信や支払いまで任せるため、それぞれの操作をどの段階で確認し、誤った処理をどう取り消すのかが重要になる。

これらをすべて「AI用のコンピューター」と一括りにすると、料金体系や与える権限の違いを見落としやすい。

Manus 2.0以前にも、「My Computer」は手元のPCでコマンドを実行し、操作ごとに許可するか、信頼できる処理には継続的な許可を与える仕組みを備えていた。「Browser Operator」も、許可したChromeやEdgeを別端末から操作・監視できた。

Manus 2.0では、こうしたPC操作をスマートフォンから音声で指示し、デスクトップ上で動く様子をリアルタイムに確認できるようになった。

つまり、クラウド上のAIが無条件に自宅や職場のPCを操作する仕組みではない。PCとの接続と、必要な操作への許可が前提になる。

AD

時刻で始める自動化から、出来事をきっかけに動く自動化へ

Automationsで大きく変わったのは、作業を開始する条件だ。

従来のScheduled Tasks 2.0では、毎朝や毎週といった時刻を指定して作業を始められた。また、同じ会話の文脈を引き継ぐか、新しいタスクとして開始するかを選択でき、プロジェクト内のファイルや指示、接続したサービスなども利用できた。

Manus 2.0のAutomationsでは、新着メール、広告実績の変化、カレンダー上の予定、Slackのメッセージ、Notionの更新などをきっかけに処理を開始できる。

例えば、問い合わせメールが届いた時点で関連情報の調査を始めたり、広告指標が変化したら報告書を更新したりできる。決められた時刻に同じ処理を繰り返す仕組みから、外部サービスで起きた出来事に反応する仕組みへ広がった。

一方、開始条件が増えるほど、「情報を見る権限」と「何かを変更する権限」を分けて考える必要がある。

メールを読む権限と送信する権限、広告データを見る権限と広告設定を変更する権限は同じではない。

Manusが以前から用意している確認を省略する設定についても、単なる利便性の機能ではなく、「どの処理なら人の確認なしで実行してよいか」を利用者自身が決める仕組みとして考える必要がある。

「23.2%減」「28.2%短縮」「32%減」は条件付きの公表値

新しいAIエージェントの実行基盤「Cascade」は、プロジェクト開始時の構成を軽く保ち、必要になった段階で専門的な機能を追加する設計になっている。企画書、Webページ、動画、自動化などを一つのプロジェクトとして扱いながら、必要のない機能を最初からすべて読み込まない仕組みだ。

Manusは発表文で、従来システムとの比較として3つの数字を示している。

指標 Manusの公表値 比較条件
使用トークン 23.2%減 あるテスト構成で従来システムと比較
タスク完了時間 28.2%短縮 同上
実行コスト 32%減 同上

ただし、この削減率について、使用したタスク、モデル、試行回数、比較前後の絶対値、結果のばらつきなどは公表されていない。

また、23.2%、28.2%、32%は、それぞれトークン使用量、処理時間、実行コストという異なる指標だ。3つを足して総合的な改善率として扱うことはできない。

「実行コスト32%減」という数字だけから、利用者が実際に支払う料金が32%下がると考えることもできない。比較前の実行コストそのものや、製品料金との関係が示されていないためだ。

第三者が同じ条件で再現した結果でもない。現段階で確認できるのは、Manusが一つのテスト構成で、従来システムより効率が改善したと報告していることまでとなる。

仕組みそのものには合理性がある。必要のない機能や長い文脈を毎回読み込まなければ、処理するトークン量や待ち時間を減らせる可能性がある。

ただし、短い動画編集、長時間の調査、ゲーム開発、自動化では利用するモデルや機能も異なる。Cascadeによる改善を実際の利用環境で評価するには、代表的なタスクごとの所要時間やコスト、試行回数に加え、効率化によって成果物の品質が低下していないかも確認する必要がある。

AD

一般提供された機能と、早期アクセスの機能を分けて見る

Manus 2.0は、Web、デスクトップ、モバイルで提供を開始したと発表されている。ただし、どの料金プランでVideo EditorやGame Devを利用できるのかは、発表文では明確にされていない。

Cloud Computerについても別途契約する仕組みになっている。現行のヘルプでは、Ubuntu Linuxを使う常時稼働の専用クラウド環境として説明され、用途に応じてプランやストレージ、設置地域などを選択する仕組みになっている。

Cueはさらに提供段階が異なる。

Web、デスクトップ、モバイル向けに案内されているものの、現時点では招待コードが必要な早期アクセスだ。公開時には「MEETCUE」というコードが案内され、先着順の限定提供となっている。iOS版はApp Storeの審査後に提供する予定だ。

Cueでは、それぞれのエージェントが専用のメールアドレス、電話番号、ウォレット、コンピューターを持ち、設定された予算の範囲内で支払いまで行えるとしている。

さらに複数のエージェントをグループに参加させ、調査、候補選び、資料作成といった作業を分担させる構想も示している。

ただし、支払い時にどの操作で利用者の確認が必要になるのか、誤った取引をどのように取り消したり返金したりするのか、電話番号を利用できる地域、エージェントごとに割り当てられる計算資源など、実運用に関わる詳細はまだ十分に公開されていない。

Manus 2.0は、AIが作った成果物を人が直接編集できるStudioと、クラウドや手元のPCを使って継続的に作業できる環境を、一つの製品群として近づけた。

今後を見るうえで重要なのは、機能の数ではない。

Studioで人が加えた修正を維持したままAIに続きを任せられるか。Automationsで閲覧と変更などの権限を適切に分けられるか。Cascadeの性能改善を第三者が判断できるだけの測定条件が公開されるか。そしてCueでエージェントに支払いまで任せる際、利用者が重要な取引を確認し、必要なら取り消せる仕組みが用意されるか。

こうした点が実際の製品で確認できれば、AIエージェントは「完成品を生成して終わるサービス」から、人とAIが同じ成果物を引き継ぎながら継続して作業する環境へ、一段進むことになる。