Reutersは9月29日、米マクドナルドが機械学習を使った価格設定システムで、米国内約1万4000店の商品ごとに「最適価格」を算出し、2026年1月から加盟店にこのツールの利用や価格に関する協議への参加を求めていると報じた。加盟店向けの画面には、地域の顧客の「支払い意欲」という言葉も表示される。この表現だけを見れば、顧客がいくらまで払うかをAIで推定し、できるだけ高い価格を設定する仕組みにも見える。
しかし、別の見方もできる。このシステムは顧客一人ひとりの財布事情を読むためのものというより、加盟店売上に連動して収入を得る本部が、加盟店の価格設定に関与するための仕組みとして機能している可能性がある。そう考える根拠は、売上に比例するマクドナルド本部の収益構造と、価格方針に従わない加盟店について、場合によっては事業評価の中で取り上げるというCEOの発言にある。
5.69ドルと6.89ドル、わずか2マイルで変わるビッグマック価格
Reutersによると、このシステムは米国約1万4000店(2025年末時点で1万3706店)から集まる1日数百万件の取引データを機械学習で分析し、店舗・商品ごとに、同社が「the optimal price(最適価格)」と呼ぶ価格を算出する。システムはTiger Analyticsが運用しており、Reutersは2026年8月に撮影された画面を確認したほか、9人の関係者に取材した。
画面には「この店舗の顧客は価格に対して中程度の感応度を示している」といった情報が表示され、その判断材料の一つとして「地域の顧客の支払い意欲」も示される。さらに、近隣にあるWendy'sやBurger Kingについて、オンライン上で公開されている価格も表示される。ただし両社はReutersに対し、AIを使って価格を決定しているわけではないと回答している。
Reutersが9月にアプリで確認したところ、カリフォルニア州フレズノのある直営店ではビッグマックが5.69ドルだったのに対し、約2マイル離れた別の直営店では6.89ドルだった。価格差は約21%になる。
The Economistのビッグマック指数(2026年7月)で使われた為替レート、1ドル=162.135円で換算すると、それぞれ約923円と約1117円になる。同指数が示す米国のビッグマック価格6.22ドル(約1008円)を、一方は下回り、もう一方は上回る。ただし、この価格差が今回のシステムの推奨によって生じたのかどうかは、Reutersも確認できていない。
地域の「支払い意欲」と近隣店舗の価格が並ぶ画面だけを見れば、顧客が払える上限に近づけるための仕組みにも見える。しかし、この画面を利用するのは顧客ではなく加盟店である。
加盟店売上に連動して収入を得る本部と、利益を確保したい加盟店
マクドナルドの店舗は2025年末時点で世界全体の約95%が加盟店で、米国でもほぼ同じ比率となっている。同社の年次報告書(10-K)によると、従来型のフランチャイズ契約では、加盟店は売上に応じた賃料とロイヤルティを本部へ支払う。本部側の収入についても、「大部分が加盟店の売上によって決まる」と説明されている。
一方、同じ10-Kには、マーケティングや価格設定については加盟店が自ら管理すると記載されている。
2025年の米国では、マクドナルド本部が加盟店から受け取った賃料やロイヤルティなどは73億7100万ドルだった。加盟店売上519億4600万ドルに対して約14.2%に相当する。
この14.2%は、10-Kに記載された二つの数字から編集部が算出した全体平均であり、個々のフランチャイズ契約で定められた料率ではない。また、本部は米国の加盟店向け不動産について12億9300万ドルの占有費用を負担しているため、14.2%をそのまま本部の利益率とみなすこともできない。
重要なのは、本部と加盟店では価格設定によって最大化したいものが必ずしも一致しない点だ。
売上に応じて収入を得る本部にとっては、価格と販売数量を掛け合わせた総売上が最大になる価格が有利になりやすい。一方、食材費や人件費などを負担する加盟店が重視するのは、売上から費用を差し引いた最終的な利益である。
値上げによって客数が多少減ったとしても、1商品あたりの利益が大きく増えれば、加盟店の利益は増える可能性がある。しかし、客数減少によって総売上が落ちれば、売上に連動する本部の収入も減る。こうした利害の違いから、加盟店側が本部より高い価格を選ぼうとする場面も生じうる。
経済学者のLafontaineとSladeも、米国で起きた加盟店価格をめぐる紛争について、本部側が加盟店に値下げを求めるケースが多いと整理している。
全米レストラン協会(NRA)の推計では、平均的な飲食店の総費用は2019年から2026年までに36%増加し、従業員の時給は41%、卸売食品価格は35%上昇した。マクドナルドの2026年第2四半期の米国既存店売上は0.8%増えたものの、客単価の上昇が寄与した一方で、既存店の客数は減少している。
Reutersが確認した社内通知によると、マクドナルドは2026年1月、新たな事業基準の一つとして、加盟店に対し「承認された価格コンサルタントやツールとの建設的な関与」を求め始めた。
8月4日の決算説明会では、Chris Kempczinski CEOが、加盟店の成長や適格性に影響する事業評価の中に価格についての議論を加えたと説明し、「場合によっては、価格方針に従っていないことも話し合いの対象になる」と述べた。Reutersによると、この評価は加盟店の契約更新や新規出店の資格にも影響する。
Tiger Analyticsの元社員2人はReutersに対し、マクドナルド本部がシステムに、客数の増加や利益の増加といった目標に加え、どの商品を値上げ対象とするかについてのルールを設定していたと証言している。Reutersによれば、2026年6月の加盟店向け文書には、推奨価格からどの程度外れたかについても詳しく記録されていた。
加盟店側の受け止め方は一様ではない。元加盟店主のKaren Kingは「もう選択の余地はあまりない」と話した一方、別の元加盟店主は、価格を強制されているとは感じなかったと答えている。
Kempczinski CEOは同じ決算説明会で、4月に導入した「10商品を3ドル未満」にする低価格メニューについて、本部が推奨する価格構成を実施している店舗は全体の「60~65%」にとどまり、実施していない店舗は業績が「かなり弱い」と説明した。
一方、3ドルという上限には一定の余裕があり、一部の加盟店が個別商品の価格を調整しているとも述べている。
この推奨価格が機械学習システムによって算出されたものかどうかは公表されていない。確認できるのは、マクドナルドが2026年1月から加盟店に価格設定ツールへの関与を求め、価格方針から外れた運用について、場合によっては加盟店の事業評価で取り上げているという点までである。
機械学習システムが出した推奨価格への不一致そのものが、この評価に使われているかどうかは明らかになっていない。その部分まで結び付けるには推論が含まれる。
エンジンは値上げも勧めていた――分析が成り立つ範囲
この見方に対する重要な反証材料もある。価格エンジン自身が、常に値下げを勧めてきたわけではないからだ。
Reutersの取材に応じた一部の加盟店によると、このシステムはパンデミック中や、その後のインフレ局面では大幅な値上げを推奨していた。本部直営のフレズノ2店舗でもビッグマックの価格には21%の差がある。
売上に応じて収入を得る本部にとっても、価格を上げても客数があまり減らない地域であれば、値上げによって総売上が増えることは十分にありうる。
マクドナルドはReutersへの声明で、価格設定ポータルについて「義務ではなく、あくまでツールだ」と説明し、店舗ごとにコスト構造が異なると指摘した。そのうえでReutersの報道を「憶測に基づき、事情を十分に理解していない」と批判している。ポータルの利用規約にも、加盟店は「常に最終的な価格を自由に決められる」と記載されている。
こうした事実を踏まえると、このシステムが加盟店に一方向の価格変更、たとえば値下げだけを求めるものだとは言えない。
本部にとって総売上が最大になる価格は、顧客の価格感応度が低い地域では値上げになることもある。一方、Reutersによれば、ここ数カ月のシステムは値下げを含む比較的抑制的な価格を推奨するようになり、それが一部加盟店との摩擦につながっている。
したがって、注目すべきなのは推奨価格が上がるか下がるかだけではない。システムが推奨価格を提示し、そこからのずれを記録し、さらに本部が価格方針について加盟店の事業評価で取り上げる場合がある、という一連の仕組みである。
マクドナルド自身は価格設定システムを「義務ではなくツール」と位置付けている。その一方でCEOは、価格方針に従っていないことが加盟店との話し合いの対象になる場合があるとも説明している。
ニューヨーク州一般事業法§349-a(2025年11月10日施行)の表示義務、2026年6月4日に同州議会の上下両院を通過したOne Fair Price Act(知事による署名は確認できていない)、さらにFTCが8月19日に意見募集を決めた執行方針案は、いずれも個人データを使って顧客ごとに価格を変える行為を主な対象としている。
Reutersが報じたマクドナルドのシステムは、確認された範囲では店舗単位で価格を推定する仕組みであるため、こうした規制の直接の対象にはなりにくい。
一方、カリフォルニア州AB 325は、競合他社のデータを利用する価格アルゴリズムを複数の事業者が使用する状況で、他者に推奨価格の採用を「強制(coerce)」する行為を違法とした(§16729(b))。
ただし、条文では「競合者のデータ」や「coerce」の具体的な範囲は定義されておらず、フランチャイズ本部にどのように適用されるかを示した裁判例もまだない。
Reutersが取材した専門家の一部は、加盟店同士が競争関係にあることに加え、本部による加盟店の価格管理について米国の裁判所がこれまで一定の裁量を認めてきたことから、マクドナルドが法的問題に直面する可能性は低いとみている。
加盟店の事業評価から価格が消えるか、個人データが使われるか
今後、この見方を検証するうえで注目すべき点は二つある。
第1は、今後の決算説明会などで、価格方針に従っているかどうかが加盟店の事業評価の対象であり続けるかだ。マクドナルドが価格に関する項目を評価から外したと説明すれば、本部が推奨価格を通じて加盟店の価格設定に関与しているという見方を支える根拠は弱くなる。
第2は、ニューヨーク州のマクドナルドアプリなどに、「この価格はあなたの個人データを使ったアルゴリズムで設定された」といった§349-aに基づく表示が現れるかどうかだ。
もしこうした表示が出れば、少なくともその価格については、店舗単位の需要推定だけではなく、個人データを使った価格設定が行われていることになる。現在の分析の前提を見直す必要が出てくる。
マクドナルドは、特に利用頻度の高い顧客に向けてパーソナライズしたデジタル特典を強化する方針も示している。一方で、価格設定そのものには個人データを使わないと明言しているわけではない。
日本マクドナルドは2023年7月19日から、賃料や人件費などの負担が特に大きい東京・大阪・名古屋の都心部など184店舗(全国約3000店舗の約6%)に「都心型価格」を導入すると発表した。このケースでは、価格差が生じる理由を店舗の立地条件として明示している。
日本の公正取引委員会が示すフランチャイズに関するガイドラインでも、統一的な営業イメージを維持するために本部が希望価格を示すこと自体は認められている。一方で、加盟店の販売価格を不当に拘束すれば、独占禁止法上の拘束条件付取引に当たる可能性がある。
本部が価格を「推奨」することと、加盟店に事実上「従わせる」ことを区別する考え方は、日本の制度にも存在する。
今後、マクドナルドが、推奨と異なる価格を設定した加盟店に対して事業評価の場で実際にどのような対応を取るのかを明らかにすれば、この価格エンジンが果たしている役割もより検証しやすくなる。
その手掛かりは、顧客のレシートに表示された価格だけではなく、加盟店に対してどのような価格方針や評価基準が適用されているかにある。
