テクノロジーと科学の最新の話題を毎日配信中!!

Meta・Andurilが軍事向けXRデバイス開発で提携へ:IVAS後継「EagleEye」構想で戦場はどう変わる?

Y Kobayashi

2025年5月30日

Metaと防衛テクノロジーの気鋭Anduril Industriesが、軍事用XR(エクステンデッドリアリティ)デバイスの共同開発で手を組んだ。このニュースは、Oculus創業者でありながらMeta (formerly Facebook)を追われたPalmer Luckeyが、古巣と再びタッグを組むというドラマチックな展開と共に、テクノロジー業界と安全保障分野に大きな波紋を広げている。かつてMicrosoftが巨額の予算を投じながらも難航した軍事プロジェクトIVASの後継を目指し、両社は「EagleEye」と呼ばれる野心的なXRエコシステムの構築に乗り出す。この提携は何を意味し、未来の戦場にどのような変革をもたらすのだろうか。

スポンサーリンク

Palmer Luckey氏とMeta、衝撃の再タッグ

Anduril IndustriesとMeta Platformsは、米軍向けXRデバイスを共同開発することを発表した。Andurilの共同創業者であるPalmer Luckey氏にとって、これはまさに「おとぎ話のような結末」と言えるかもしれない。Luckey氏はかつてVRのパイオニア企業Oculusを創業し、2014年に当時のFacebook(現Meta)に20億ドルで売却したが、その3年後の2017年に同社を解雇された経緯がある。

Andurilの公式ブログで、Luckey氏は「再びMetaと仕事ができて嬉しい。私の長年の使命は、兵士たちをテクノマンサー(魔法と技術を操る者)に変えることであり、Metaと共に開発する製品はまさにそれを実現するものだ」と、今回の提携への熱意を語っている。

Metaの創業者兼CEOであるMark Zuckerberg氏も、「Metaはこの10年間、未来のコンピューティングプラットフォームを実現するためにAIとAR(拡張現実)に投資してきた。Andurilと提携し、国内外で我々の利益を守る米軍兵士にこれらの技術を届けられることを誇りに思う」とコメント。両社のトップが、この提携の戦略的重要性を強調している。

巨大軍事契約IVASの変遷が生んだ必然の提携

この提携の背景には、米陸軍の巨大プロジェクト「IVAS(Integrated Visual Augmentation System)」の複雑な経緯が存在する。IVASは、兵士向けにHoloLensのようなARゴーグルを開発するもので、総額220億ドル規模の予算が組まれた野心的な計画だった。当初この契約は2018年にMicrosoftが獲得したが、開発は度重なる問題に直面。今年2月、米陸軍はプログラムの管理権をMicrosoftからAndurilに移管し、Microsoftはクラウドプロバイダーとして関与を続ける形となった。

この決定は、Andurilにとって大きな飛躍の機会となったと同時に、Metaのような企業が軍事XR市場へ本格参入するためには、Andurilとの連携が不可欠であることを示した。IVASプログラムは現在「SBMC(Soldier Borne Mission Command) Next」と改称され、複数のサプライヤーによるMR(複合現実)グラスの調達を目指している。AndurilとMetaは、このSBMC Nextに対して既に共同で白書を提出済みだ。

Andurilは、IVASプログラムをコンセプト段階から兵士がテスト可能な実用レベルへと移行させる上で、ソフトウェア更新にかかる時間を従来の180日から18時間未満へと劇的に短縮するなど、目覚ましい進捗を達成していると主張している。これは、Andurilが持つ迅速な開発サイクルと現場への適応能力の高さを示すものと言えよう。

スポンサーリンク

「EagleEye」が見据える未来 – XR技術が戦場をどう変えるのか?

AndurilとMetaが共同で開発する製品ファミリーは「EagleEye」と名付けられるという。これはLuckey氏がAnduril創業時の最初のピッチデック草案で構想していたヘッドセットの名称であり、彼のXR技術にかける長年の情熱が再び形になろうとしている。

EagleEyeは、単なるデバイスではなく、兵士の聴覚や視覚を強化するセンサーを搭載したXRデバイスのエコシステムとなる見込みだ。具体的には、MetaのAR/VR研究部門であるReality Labsの先進技術と、オープンソースのAIモデル「Llama」が活用される。これらが、AndurilのAI駆動型指揮統制ソフトウェア「Lattice」と緊密に連携する。Latticeは、数千ものソースから貴重なデータを統合し、リアルタイムで戦場のインテリジェンスを提供するプラットフォームだ。

この統合により、兵士はヘッドアップディスプレイを通じて、戦場の状況認識、敵味方の位置情報、戦術データなどを直感的に把握できるようになる。「兵士をテクノマンサーに変える」というLuckey氏の言葉通り、XRインターフェースは兵士の知覚を拡張し、Latticeの分析能力へのアクセスを容易にすることで、戦闘シナリオにおける戦術的意思決定を劇的に向上させることが期待される。それは、まさにSF映画で描かれる未来の兵士の姿を彷彿とさせる。

LuckeyはX(旧Twitter)への投稿で、「MetaがOculusを買収する前に私が作ったもの、私たちが一緒に作ったもの、そして私が解雇された後に私たちが独自に行ったこと、そのすべてがこの共同作業のために私たちの指先にあるのは、かなりクールだ」と、過去の経験全てが今回のプロジェクトに繋がっている感慨を述べている。

単なるビジネス提携ではない?Luckeyの過去とMetaの戦略

今回の提携は、単なる技術やビジネス上の利害の一致だけでは説明しきれない側面を持つ。Luckey氏が2017年にFacebookを解雇された背景には、2016年の米大統領選挙におけるDonald Trump支持団体への献金問題があったとされる。この一件は当時、シリコンバレーで大きな議論を呼んだ。

CNBCは、Trump氏が大統領に就任して以降、Zuckerberg氏を含むテック企業の幹部たちがホワイトハウスとの関係構築に動いていると指摘。Metaがコンテンツモデレーションのガイドラインを緩和したり、Llama AIモデルを政府機関や国防関連の用途に提供する方針を示したりしていることも、その文脈で捉えられている。

Metaにとって、今回のAndurilとの提携は、成長著しい政府・防衛分野への本格的な足がかりとなる。MetaのCTOであるAndrew “Boz” Bosworth氏は、「世界は新たなコンピューティングの時代に突入しており、それは人々に無限の知性へのアクセスを与え、これまでにない方法で彼らの感覚と知覚を拡張するだろう。我が国の国家安全保障は、アメリカの産業界がこれらの技術を実現することで莫大な利益を得る」と述べており、国家安全保障への貢献を強調している。

一方、Luckey氏にとって、この提携は古巣に対するある種の「雪辱」と、自らのビジョンをより大きなスケールで実現する機会を意味するのかもしれない。AndurilがFacebookページを開設したというニュースは、両者の関係が新たな段階に入ったことを象徴しているかのようだ。

スポンサーリンク

専門家が見る今回の提携の意義と今後の展望

今回のMetaとAndurilの提携は、いくつかの重要な示唆を含んでいると筆者は考える。

第一に、デュアルユース技術(民生・軍事双方に利用可能な技術)の軍事転用が加速している現実だ。Metaがコンシューマー向けに培ってきたXR技術やAI技術が、最先端の軍事システムの中核を担おうとしている。これは、技術開発のスピードとコスト効率の観点からは合理的だが、同時に倫理的な議論や規制の必要性も提起するだろう。

第二に、防衛産業におけるイノベーションのあり方の変化だ。Andurilのような新興企業が、アジャイルな開発手法とAIなどの最先端技術を武器に、従来の巨大防衛企業に伍して、あるいはそれを凌駕する形で存在感を示している。今回の提携は、この流れをさらに加速させる可能性がある。Andurilが主張するように、民間資本を活用し、商業用の高性能コンポーネントを転用することで、米軍のコストを数十億ドル単位で削減できるのであれば、そのインパクトは計り知れない。

第三に、米国の技術的優位性の維持という国家戦略との関連だ。両社は共同声明で、「AIと身体装着型デバイスの上に構築される新たなコンピューティングの時代が形成される中で、MetaとAndurilはアメリカの技術的優位性を維持し、経済的および国家安全保障を強化することにコミットしている」と述べている。これは、特に中国との技術覇権争いを意識した動きとも解釈できる。

今後の焦点は、まずSBMC Nextプログラムの契約をAndurilとMetaのチームが獲得できるかどうかだ。The Wall Street Journalは、両社が最大1億ドル規模の陸軍契約に入札していると報じているが、契約の有無にかかわらず提携は進められるとしている。仮に契約を獲得すれば、EagleEye構想は現実の戦場へと大きく近づくことになる。

しかし、その先には、これらの技術がもたらす戦場の非人間化や、AIによる自律兵器制御のリスクといった、より根源的な問いも待ち受けている。テクノロジーが戦争の様相を変える時、私たちはその恩恵と同時に、潜在的な脅威にも真摯に向き合う必要があるのではないだろうか。

まとめ – 戦場の未来を左右するタッグの行方

MetaとAndurilの提携は、Palmer Luckeyという特異な才能を持つ起業家のドラマチックな物語であると同時に、テクノロジー、ビジネス、そして国家安全保障が複雑に絡み合う現代を象徴する出来事だ。XR技術とAIが融合することで、戦場の兵士はかつてないほどの情報処理能力と状況認識能力を手にすることになるかもしれない。それは、より効率的で、より安全な作戦遂行を可能にする一方で、新たな倫理的課題も生み出すだろう。

「兵士をテクノマンサーに変える」という野心的なビジョンが、どのような未来を現実のものとするのか。そして、この異色のタッグが生み出す「EagleEye」は、文字通り戦場の未来を鋭く見据え、そして変革していくのだろうか。


Sources

Follow Me !

\ この記事が気に入ったら是非フォローを! /

フォローする
スポンサーリンク

コメントする