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Microsoft 365 Copilot大型刷新:AIエージェントと検索で仕事が変わる

Y Kobayashi

2025年4月25日

MicrosoftがMicrosoft 365 Copilotの大型アップデート「Wave 2」を発表した。OpenAIの最新モデルを活用した高度な推論能力を持つAIエージェント、組織横断的なAI検索、最新AIモデルGPT-4oによる画像生成、プロジェクト情報を集約するNotebooks機能などを統合し、私たちの働き方を根底から変えうる可能性を秘めた大きな改革となる。

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Microsoft 365 Copilot、”Wave 2″で新次元へ

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Microsoftは今回のアップデートを「Wave 2 Spring Release」と位置づけ、人間とAIが協働する新時代の幕開けを告げている。同日発表された「2025 Work Trend Index」では、「フロンティア・ファーム(Frontier Firm)」という新たな組織形態の出現が示唆された。これは、いつでも利用可能なインテリジェンス、人間とAIエージェントによるチーム、そして「エージェント・ボス」という新たな役割を中心に構築される組織だ。

Copilotは、もはや単なるアシスタントではない。Microsoftによれば、Copilotは「エージェントの世界への窓」となり、より高度なAIモデル、適応型メモリ、そしてユーザーと共に働く推論エージェントによって駆動される次世代の協働基盤となる。今回のアップデートは、その基盤を強固にするための重要な一歩と言えるだろう。

Microsoftでデザインとリサーチ担当のコーポレートバイスプレジデントを務めるJon Friedman氏は、The Vergeのインタビューに対し、「我々はアプリ、Microsoft 365 Copilotをゼロから再構築しました」と語り、「コンピューティングの次の波に向けた舞台を整えています。その舞台とは、Microsoft 365 Copilotがメモリや理解を通じて真にユーザーを理解し始め、必要な適切なツールを提供し始めるという考えです」と述べている。この言葉からも、今回のアップデートが単なる機能追加ではなく、根本的な設計思想の変化を伴うものであることがうかがえる。

主役は「AIエージェント」:ResearcherとAnalyst登場

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今回のアップデートの目玉は、間違いなく「推論エージェント」の導入だろう。特に注目すべきは「Researcher」と「Analyst」という2つの新しいエージェントだ。これらは、Microsoftが「仕事のための初めての推論エージェント」と称するもので、OpenAIの高度な推論モデルを基盤としている。

  • Researcher: このエージェントは、複雑で多段階にわたるリサーチタスクを支援する。メール、会議、ファイル、チャット、そしてWeb上の情報を横断的に収集・分析し、市場分析、戦略文書、顧客レポートといった質の高いアウトプットを生成するという。Microsoftが示したデモでは、「スマートスニーカー発売に向けたマーケティングプランを作成。人間工学に基づいたデザイン、健康追跡、GPS統合を強調し、適切なデジタルチャネルとコンテンツ戦略の推奨、競合状況と過去のキャンペーンからの洞察を含めること」といった複雑なプロンプトに対応していた。まるで優秀なリサーチャーが隣にいるかのようだ。
  • Analyst: こちらはデータ分析に特化したエージェントだ。「思考の連鎖(chain-of-thought)」と呼ばれる推論プロセスを用いて多段階の分析ワークフローを実行する。驚くべきことに、このエージェントはPythonコードを自律的に実行し、その結果を表示できるという。Microsoftの担当者は、「コードを一行も書いたことがなくても、Pythonだけが提供できるリッチなデータインサイトを得ることができる」と説明している。生データからセグメント分析、需要予測、売上予測などを導き出すことが可能になる。

これらのエージェントの基盤となるモデルについて、Microsoft公式は「OpenAIの高度な推論モデル」と述べるに留めているが、メディアによって「o3」モデルファミリーへの言及が見られるが、このあたりはまだ流動的なのかもしれない。

ResearcherとAnalystは、まずMicrosoftの「Frontier Program」参加顧客向けに提供が開始され、その後、新しいAgent Storeを通じて順次展開される予定だ。

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エージェント発見・管理の拠点「Agent Store」

これら強力なエージェントや、今後登場するであろう多様なエージェントを簡単に見つけ、利用するためのハブとなるのが「Agent Store」だ。

このストアでは、前述のResearcherやAnalystといったMicrosoft製エージェントに加え、Jira、Monday.com、Miroといったサードパーティパートナー製のエージェント、さらには企業が独自に開発したカスタムエージェントも一元的に管理・利用できる。ユーザーは必要な専門知識を持つエージェントをオンデマンドで呼び出し、自身のワークフローに組み込むことが可能になる。

The VergeのFriedman氏が指摘するように、Microsoft 365 Copilotアプリの左ペインは、従来のアプリケーション中心の考え方から、コンテンツやエージェント中心のインターフェースへと最適化されつつあるようだ。Agent Storeの導入は、この方向性を明確に示すものと言えるだろう。

組織の知識を瞬時に引き出す「Copilot Search」

日々の業務で必要な情報を探す時間は、決して少なくない。組織内のデータが様々な場所に散在している場合はなおさらだ。「Copilot Search」は、この課題に対するMicrosoftの回答である。

これはAIを活用した新しいエンタープライズ検索機能で、組織内のアプリケーションやデータ全体から、文脈に応じたリッチな回答を即座に見つけ出すことを目指している。特筆すべきは、Microsoft 365内のデータだけでなく、ServiceNow、Google Drive、Slack、Confluence、Jiraといったサードパーティ製アプリにも接続できる点だ。これにより、データがどこに保存されていても、迅速かつ関連性の高い検索結果を得られるようになる。

さらに、Copilot Searchは単にファイルを見つけるだけでなく、その内容を要約してくれる機能も備えている。「ファイルを開かなくても内容がわかる」とFriedman氏は説明しており、情報収集の効率を大幅に向上させる可能性を秘めている。

ただし、The Registerが指摘するように、エンタープライズ検索には課題も伴う。多様なデータリポジトリに対して適切なアクセスポリシーを適用し、機密情報などが不適切に参照されないようにすることは、技術的に複雑な問題だ。Microsoftはこの点に対し、「Copilot Control System」を用意し、IT管理者がCopilotの対話やアクセスを管理・統制できる仕組みを提供している。

誰でもデザイナーに?「Create」機能とGPT-4o

デザインスキルは専門職のもの、という時代は終わるのかもしれない。新機能「Create」は、OpenAIの最新マルチモーダルAIモデル「GPT-4o」の画像生成能力をMicrosoft 365 Copilotにもたらす。

これにより、ユーザーはプロンプト(指示テキスト)を入力するだけで、マーケティング用のコピー、ソーシャルメディア用のアセット、ニュースレターのバナー、アンケート、さらにはPowerPointプレゼンテーションからの動画作成まで、様々なクリエイティブコンテンツを生成できるようになる。

重要なのは、企業が承認したブランドガイドラインに準拠した画像を生成したり、既存のブランドイメージを修正・カスタマイズしたりできる点だ。これにより、デザインの一貫性を保ちながら、誰もが手軽に高品質なビジュアルコンテンツを作成できる環境が整う。その可能性は広範囲にわたるだろう。

情報集約と洞察を加速「Copilot Notebooks」

プロジェクトを進める中で、関連するメモ、ドキュメント、Webサイト、会議の録画など、情報は多岐にわたる。これらを一元的に管理し、Copilotに参照させることで、より的確な洞察やアクションを得られるようにするのが「Copilot Notebooks」だ。

ユーザーは特定のプロジェクトに関する様々なコンテンツをノートブックにまとめることができる。Copilotはこのノートブック内の情報に基づいて応答するため、より文脈に即した、関連性の高いサポートを提供できる。こうした機能から想起されるのはGoogleの「NotebookLM」だが、同様のコンセプトを持つ機能と言えるだろう。

さらに興味深いのは、Notebooksがコンテンツの更新をリアルタイムでスキャンし続ける点だ。これにより、常に最新の情報に基づいた対話が可能になる。Microsoftによれば、ノートブックの内容を要約したポッドキャスト風の音声概要を作成する機能まで備わっているという。2人のホストがキーポイントを解説する形式で、情報を楽しく柔軟に把握できる新しい方法を提供してくれる。

よりパーソナルに進化:MemoryとPersonalization

Copilotが真の「相棒」となるためには、ユーザーのことを深く理解する必要がある。今回のアップデートでは、「Memory」と「Personalization」機能が導入され、Copilotがユーザーの働き方、ニーズ、好みを学習する能力が強化された。

チャットの履歴、職務プロフィール、カスタム指示などを通じて、Copilotはユーザー固有の文脈を理解し、よりパーソナライズされた応答を提供するようになる。これは、コンシューマー版のCopilotで既に導入されている機能と同様のコンセプトだ。

もちろん、プライバシーへの配慮は不可欠だ。このMemoryとPersonalization機能はユーザー個人にプライベートなものであり、機密情報を扱う際には、Copilotに何を記憶させるかをユーザー自身が制御できる仕組みになっている。

スキルベースのチーム編成を支援「Skills Agent」

組織構造が従来の階層型から、プロジェクトや成果ベースへと移行する中で、リーダーは組織全体で誰がどのようなスキルや専門知識を持っているかを把握する必要性が高まっている。

新しい「Skills Agent」は、Microsoft 365 Copilot内の「People Skills」データレイヤーを活用し、この課題に対応する。このデータレイヤーは、ユーザーのアクティビティに基づいてスキルセットを推測するもので、Skills Agentはこれを利用して、リーダーが特定のプロジェクトに最適なスキルを持つメンバーで動的なチームを編成したり、従業員が必要なスキルを持つ同僚を見つけたりすることを支援する。

細やかなUX改善と連携強化

大規模な新機能だけでなく、日々の使い勝手を向上させるための細かな改善も多数行われている。

  • アプリ体験の刷新: Microsoft 365 Copilotアプリのデザインが見直され、初めて利用するユーザー向けのチュートリアルも用意される。チャットビューでは、過去のチャット、Copilot Pages、エージェントへのアクセスが容易になる。
  • Copilotキーとショートカット: Copilotキー(対応キーボードの場合)や Win + C ショートカットでのCopilot呼び出しが、よりスムーズで邪魔にならないように改善される。
  • モバイルアプリUI変更: モバイルアプリのナビゲーションが変更され、「OneDrive」が「Search」に、「Copilot」が「Chat」に名称変更され、新たに「Create」タブが追加される。
  • Click To Do (プレビュー): Windows Insider向けに、Win + 左クリック で画面に表示されている内容に基づいてCopilotと連携できる機能のプレビューが開始される。
  • Copilot Pages in Word: Copilot PagesをMicrosoft Word内で直接開けるようになる。モバイルデバイスでの作成も可能に。
  • 音声概要: OneDrive、Outlook、Teams、Word内のドキュメントや会議の要約を音声で聞ける機能(まず英語から)。
  • Outlook優先度ソート: Copilotがメールの重要度を判断し、優先度順に並べ替える機能。
  • スマホからの画像転送: QRコードを利用して、スマートフォンの画像をPC上のMicrosoft 365ドキュメントに簡単に転送し、Copilotで分析やテキスト抽出を行える機能。
  • Teams会議要約: インテリジェント会議要約機能が多言語に対応。画面共有されているコンテンツの分析も可能に。
  • Officeアプリ連携強化: Wordでは最大150万語/3,000ページ/20ファイルのフォルダを参照可能に。Excelでは表データの要約や洞察抽出、PowerPointではCopilotによる推奨に基づいたスライド作成などが強化される。

これらの改善は、Copilotを日常業務にシームレスに統合するための地道な努力と言えるだろう。

IT管理者向け:Copilot Studioと管理ツールの強化

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AIの導入を組織全体で推進するには、IT管理者による適切な管理と統制が不可欠だ。Microsoftは「Copilot Studio」と「Copilot Control System」を通じて、そのためのツールを提供している。今回のアップデートでは、これらの管理機能も強化された。

  • Copilot Studio: 企業固有のニーズに合わせてエンタープライズグレードのエージェントを簡単に作成・カスタマイズできるプラットフォーム。新たに「agent flows」と呼ばれる機能で、複雑なビジネスプロセスを実行するマルチステップのワークフローを設計できるようになった。
  • Apps and Agents in Data Security Posture Management for AI with Purview: Microsoft Purview内に新設されたダッシュボード。IT管理者は、AIアプリとエージェントを単一の画面で表示・管理し、データ分類、保護ポリシー、アクセス権限などを完全に制御できる。
  • Agent Management: Microsoft 365管理センター内の機能。特定のユーザーやグループに対してエージェントを有効化、無効化、またはブロックする権限を管理者に付与。これにより、組織のビジネスニーズに合わせて適切な人材が適切なエージェントを利用できるようになる(一般提供開始済み)。
  • Copilot Analytics: エージェントの利用状況とそのビジネスインパクトを測定する機能。「Copilot Studio Agents Report」がMicrosoft Viva Insightsで利用可能になり、エージェント支援によるアクションが生産性向上やROI(投資対効果)にどのように貢献しているかを包括的に把握できる。

これらの強化により、企業はAIエージェントの活用を加速させつつ、セキュリティとガバナンスを維持することが容易になるだろう。

「フロンティアファーム」:Microsoftが描く未来の職場像

Microsoftが描くAIと人間の協働の未来は輝かしいものだが、市場はどのように反応しているのだろうか。

Gartnerによれば、初期の概念実証(POC)における失敗率の高さや、現在の生成AIの結果に対する不満から、生成AIの能力に対する期待は低下しているという。しかし、それにもかかわらず、基盤モデルプロバイダーはモデルのサイズ、パフォーマンス、信頼性を向上させるために年間数十億ドルを投資しており、世界の生成AI支出は2025年に6,440億ドルを超え、2024年から76%以上増加すると予測されている。この期待と現実のギャップ、そして投資の継続という矛盾は、2025年から2026年にかけて続くとGartnerは見ている。

一方、Microsoft自身は、Work Trend Indexの結果に基づき、「エージェント・ボス」という新しい役割の台頭を予測している。これは、AIエージェントを構築し、タスクを委任し、管理することで、自身のインパクトを増幅させ、キャリアをコントロールする人材を指す。MicrosoftのAI at Work担当チーフマーケティングオフィサーであるJared Spataro氏は、「役員室から現場まで、すべての労働者はエージェント駆動型スタートアップのCEOのように考える必要があるだろう」と述べている。

これは、かつて注目された「プロンプトエンジニア」の進化形とも言えるかもしれないが、同時に「どれだけ多くのAIエージェントが必要で、それらを導くためにどれだけ多くの人間が必要か」という問いも投げかけている。AIエージェントがますます高度化・自律化していく中で、人間とAIの関係性がどのように変化していくのか、注意深く見守る必要があるだろう。

Microsoft 365 Copilot Wave 2は、単なる機能アップデートを超え、私たちの働き方そのものを再定義しようとする野心的な試みだ。AIエージェントが日常業務に深く浸透し、人間がそれを管理・活用する「フロンティア・ファーム」の時代は、もうすぐそこまで来ているのかもしれない。


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