• 何が起きた: 英国控訴院は10月13日、ValueLicensingとの訴訟でMicrosoftが求めた英国最高裁への上訴許可を拒否した。
  • なぜ重要か: 中古Windows・Officeの再販を著作権侵害とするMicrosoftの主張を退けた控訴院の判断が維持された。
  • 次に見るべき点: Microsoftが最高裁に直接上訴許可を申請するかに加え、10月末と11月末に期限を迎える社内資料の説明・開示が焦点となる。

英国控訴院は2026年10月13日、中古ソフトウェア販売業者ValueLicensingとの訴訟で、Microsoftによる英国最高裁への上訴許可申請を拒否した。ValueLicensingを運営するJJH Enterprisesが15日に控訴院の命令を公表した。これにより、中古のWindowsやOfficeの再販を著作権侵害とするMicrosoftの主張を退けた7月の控訴院判断が維持されることになった。ただし、訴訟の中心である中古ライセンスの供給制限が競争法に違反したかどうかは、まだ判断されていない。今後は、Microsoftの社内資料に関する証拠開示が進み、供給制限の実態やその背景にある社内の認識が争点となる。

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上訴許可の拒否は競争法違反の認定ではない

10月13日付の命令原本には、Microsoftの申請を拒否する旨が記されているが、その理由は示されていない。今回の命令が対象とするのは、7月7日の控訴院判決について最高裁への上訴を許可するかどうかである。Microsoftによる競争法違反や損害賠償責任を認定したものではない。 この違いを理解するには、英国競争控訴審判所(CAT)と控訴院が、それぞれ何を判断したのかを区別する必要がある。

これまでの手続きを、7月7日の控訴院判決第1〜6項、7月21日のCAT停止命令第1項、9月14日のCAT同意命令第12項、そして今回の命令に基づいて整理すると、次のようになる。

判断・手続き 根拠となる文書 決まったこと・残ること
最高裁への上訴許可 控訴院の10月13日命令 控訴院は許可を拒否。最高裁自身への申請経路は残る
管轄と著作権に関する先決問題 控訴院の7月7日判決 CATの管轄と再販に関する判断を支持し、Microsoftの控訴を棄却
競争法上の責任・損害 CATの7月21日停止命令 本案の審理は停止中。違法性や賠償責任については未判断
指定された証拠開示 CATの9月14日同意命令 審理停止の例外として、照会や文書検索、追加開示を進める

ここでいう先決問題とは、訴訟の本案について結論を出す前に判断しておく必要がある論点を指す。Microsoftは、問題となっている中古ソフトウェアの再販自体が違法であれば、その供給を妨げられたとするValueLicensingの請求は成立しないと主張していた。しかし、控訴院はこの主張を退けており、今後は供給制限が競争法に違反するかどうかが問題となる。

もっとも、Microsoftが最高裁で争う道が完全に閉ざされたわけではない。英国最高裁の実務指針によると、下級審で上訴許可を拒否された場合でも、最高裁自身に許可を申請できる。申請期限は通常、拒否命令の日から28日以内だ。最高裁が審理を認めるかどうかは、一般的重要性があり、その時点で最高裁が判断すべき法律問題が提起されているかを基準に決まる。Microsoftがこの手続きを利用するかどうかは、今回の命令からは分からない。

独立したコピーなら一括購入後の分割再販も可能

7月の控訴院判決で重要な根拠となったのが、EU司法裁判所が2012年に下したUsedSoft対Oracle判決である。この判決では、権利者が対価を受け取り、期間を定めずにソフトウェアの使用権を与えて販売した場合、そのコピーに対する著作権上の頒布権は「消尽」すると判断された。つまり、権利者は著作権を根拠に、そのコピーの再販を制限できなくなる。この原則はダウンロードで提供されたソフトウェアにも適用され、最初の購入者が使用をやめれば、中古品として第三者に再販できる。

Microsoftは、WindowsやOfficeにはコンピュータプログラムだけでなく、アイコンや画面上の図形など、別の著作物も含まれていると主張した。これらにはプログラムとは異なる著作権の規定が適用されるため、UsedSoft判決の原則をそのまま当てはめるべきではないという立場だった。しかし控訴院は、購入された製品の実質はコンピュータプログラムであり、アイコンなどの著作物はそれに付随するものだとしたCATの判断を支持した。プログラムにアイコンなどを含めるだけで、UsedSoft判決に基づく中古再販を制限できるという解釈は認めなかった。

もう一つの重要な争点が、一括購入したソフトウェアの一部を切り離して再販できるかという問題である。控訴院は判決第9項で、企業が1000本のソフトウェアをまとめて購入し、そのうち500本を売却して残り500本を使い続ける例を挙げている。それぞれのコピーが独立して使用できるのであれば、一括購入したという理由だけで分割再販を禁止することはできないという考え方だ。

これに対し、UsedSoft事件で問題となったOracleの製品は、単一のサーバー上に置かれたコピーに複数の利用者がアクセスする仕組みだった。サーバー上のコピーを使い続けながら利用人数枠の一部だけを売却することと、独立したコピーの集合を分割して再販することは、法律上の扱いが異なる。控訴院は判決第92項以降でこの違いを説明し、契約書に「単一のライセンス」と記載されているかどうかだけでは、分割再販の可否を判断できないとした。重要なのは契約上の名称ではなく、実際にどのようなコピーが販売され、使用されているかという点である。

判決第100項では、権利の消尽は法律の作用によって生じると明言している。著作権法上の消尽が成立した場合、契約条項によってその効果を妨げることはできず、再販にMicrosoftの承諾を得る必要もない。ValueLicensingがMicrosoft所定のライセンス移転書式を使用していなかったことも、再販を禁止する理由にはならなかった。

ただし、中古ソフトウェアの再販が認められるからといって、売り手がコピーを保持して使い続けてもよいわけではない。元の購入者には、再販したコピーを使用不能にする義務がある。売却後も使い続ければ、その購入者による使用は無許諾となる。一方、控訴院は、元の購入者による違反が次の購入者の使用権を損なうものではなく、削除したことの証明も権利の消尽が成立するための必須条件ではないと判断した。

なお、この訴訟の請求対象期間は2014年1月から2022年12月までで、対象地域は英国と欧州経済領域(EEA)に及ぶ。控訴審では、対象期間に適用されていたEU法を用いることで当事者が合意していた。したがって、今回の判断を日本国内でのソフトウェア再販や、あらゆる中古プロダクトキーの適法性、Microsoft 365の契約移転にまで一般化することはできない。

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審理停止中も進むMicrosoftの社内文書開示

著作権に関する判断とは別に、競争法違反の有無を調べるための証拠開示も進められている。CATが9月14日に出した同意命令では、顧客がサブスクリプション型サービスへ移行する際、中古ライセンスを売却できるとMicrosoftが認識していたか、あるいは売却できないようにする意図があったかについて、関連する社内文書の照会を求めている。これは著作権の解釈にとどまらず、販売条件がどのような意図や認識の下で設けられたのかを調べるための手続きである。

特に注目されるのが、2013年6月に作成された「Second-Hand Software Presentation」という社内資料だ。9月の命令の前文によると、Microsoftはこの文書を2025年12月22日に開示している。つまり、これから初めて提出される資料ではない。問題となっているのは、この資料がなぜもっと早く発見され、開示されなかったのかという点である。

Microsoftは10月31日午後4時までに、Kenny Henderson氏による証人陳述書を提出し、資料がいつ、どこで、誰によって発見されたのかを説明しなければならない。さらに、自社に不利な文書として早期に特定・開示されなかった理由や、Microsoft社内および法務部門が資料の存在を認識した時期についても説明を求められている。ただし、命令には資料の本文が掲載されておらず、その内容や開示の遅れをもって競争法違反や意図的な隠蔽が認定されたわけではない。

続く11月30日午後4時には、照会結果と指定された追加文書の開示期限が設定されている。Microsoftには、元幹部への連絡について合理的な努力を尽くすことに加え、指定された関係者のメールボックスやSharePointなどを検索することが求められている。検索対象期間は2012年7月3日から2020年6月1日までで、中古ソフトウェアに関する用語と、供給、売上、競争法などに関連する語を組み合わせた検索条件も定められた。

文書の秘密指定についても、厳格な条件が設けられている。命令第6項では、秘密として扱う箇所を文書ごとに限定し、それぞれについて具体的な理由を示すよう求めている。文書全体を一律に秘密扱いすることは認めず、当事者間で確認できる情報の範囲を明確にする狙いがある。ただし、証拠開示が進むことと、対象文書がすべて一般公開されることは別である。

9月の同意命令は、本案の審理停止を維持しながら、指定された証拠開示だけを例外的に進める仕組みとなっている。10月末の証人陳述書と11月末の追加開示では、Microsoftが中古ソフトウェア市場をどのように認識し、それが実際の販売条件や供給制限にどう反映されていたかが重要になる。控訴院が示したのは、中古ソフトウェアの再販に関する著作権法上の判断であり、競争法違反があったという結論ではない。今後の焦点は、ValueLicensingが主張する供給制限の実態と、その違法性を裏付ける証拠が示されるかどうかに移る。