NASAの科学ミッション局(Science Mission Directorate)が47%削減される。米Trump政権がFY2027(2027会計年度)予算案で提案した大規模削減は、稼働中のミッション41件以上を強制終了に追い込み、科学予算を1984年以来最低の水準に押し下げる。NASA総予算はFY2026確定予算比で23%減の188億ドルとなる見込みだ。

一方、月探査を中心とするアルテミス計画は増額となっており、宇宙開発の優先順位が「科学」から「有人探査」へと大きく傾いている。前年度(FY2026)にも同様の削減提案が出され、議会が超党派で否決した経緯がある。今年も同じ攻防が繰り返されるとみられているが、今回の削減規模は過去最大級だ。

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2年連続の予算攻防:今年の削減規模は史上最大級

Trump政権は2025年に続き、2026年にもNASA予算の大幅削減を提案した。FY2027予算案におけるNASA総予算は188億ドル。FY2026確定予算の244億ドルから56億ドル、率にして23%の削減となる。

前年度のFY2026でも同様の削減提案が出されたが、議会は超党派の賛成多数でこれを否決した。宇宙科学に強い関心を持つ議員を中心に構成される「惑星科学コーカス」には、下院議員の4分の1が署名しており、NASA予算削減への抵抗勢力は党派を超えて存在する。

ただし、今年の提案は前年を大幅に上回る規模だ。単純な年度比較では「2年連続の攻防」に見えるが、その中身は質的にも量的にも異なる。特に科学部門への集中的な削減は、研究者コミュニティに深刻な衝撃を与えている。

科学ミッション局に47%削減——1984年以来最低水準

最大の打撃を受けるのは科学ミッション局だ。FY2027予算案では72.5億ドルから39億ドルへと、47%もの削減が提案されている。

各分野別の削減率は以下の通りだ。

分野FY2026FY2027提案削減率
宇宙物理学(Astrophysics)15億ドル4.87億ドル約67%
地球科学(Earth Science)22億ドル10.33億ドル53%
太陽・宇宙物理学(Heliophysics)8.05億ドル4.55億ドル43%
惑星科学(Planetary Science)27億ドル19億ドル30%

Planetary Society(惑星協会)の試算では、廃止対象ミッションへのこれまでの投資額は総計120億ドル以上に上る。これらが中断・終了された場合、研究成果なしにその費用が無駄になる。科学予算全体では1984年以来最低の水準まで落ち込む見通しだ。

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廃止が提案されるミッション:失われる具体的な探査計画

41件以上のミッション終了という数字の裏には、それぞれ具体的な探査計画がある。

火星サンプルリターン(MSR)は、探査機Perseveranceが現地で採取済みのサンプルを地球に持ち帰るためのプロジェクトだ。ESA(欧州宇宙機関)との共同プロジェクトでもあり、廃止は国際的な信頼にも影響する。Chandra X線天文台は稼働中に1万本を超える科学論文を生み出しており、燃料は10年以上残存しているにもかかわらず予算対象から外れる可能性がある。

冥王星を初めて詳細に観測したNew Horizonsは現在も太陽系外縁部を航行中で、観測を続けている。Junoは木星衛星を調査中だ。小惑星探査機OSIRIS-APEXは2029年に予定する絶好の観測機会を失う恐れがある——小惑星アポフィスが7,500年に一度の規模で地球に最接近(約3万2,000km)するこの機会は、予算削減で逃すことになる。

金星探査ミッションDAVINCI+とVERITASも廃止対象に含まれる。金星への本格的な探査は約50年ぶりとなる予定だったが、実現しない見込みだ。Fermiガンマ線望遠鏡も終了対象に挙げられている。製造がすでに完了しており2027年の打ち上げが予定されていたNancy Grace Roman宇宙望遠鏡は、予算50%削減により打ち上げそのものが実質的に困難な状況に追い込まれているが、現時点で公式なキャンセル発表はされていない。

唯一の勝者はアルテミス——月探査予算は増額

全面的な削減の中で例外が一つある。月・火星への有人探査を目指すアルテミス計画だ。

アルテミス計画を含む「人間探査・宇宙活動(Human Exploration and Operations)」部門は、FY2027予算案で78億ドルから85億ドルへと10%増額されている。Trump政権が宇宙政策において「有人月探査」を最優先課題と位置付けていることが明確に現れた予算配分だ。

ただし、アルテミス計画が順調かというとそうでもない。NASAでは政府効率化局(DOGE)主導の自発的退職プログラムにより、すでに約3,800名が退職しており、組織的な実行能力の低下が懸念される。科学ミッション局の予算が大幅に削られれば、宇宙技術の基盤も失われかねず、将来的な有人探査の遂行にも影を落とす。宇宙技術部門(Space Technology)もFY2027予算案で32%削減、9.2億ドルから6.24億ドルへと縮小される予定だ。

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長官は削減支持、科学者・議会は猛反発

NASA長官のJared Isaacman氏は削減提案を明確に支持する立場をとっている。「Yes, of course I do(もちろん支持する)」と発言し、「NASAの科学予算は世界中の全宇宙機関の合計よりも多い」と正当化した。

これに対し、科学コミュニティの反応は強烈だ。Planetary Societyで宇宙政策部長を務めるCasey Dreier氏は今回の予算案を「NASAサイエンスへの絶滅レベルのイベント(extinction-level event)」と呼んだ。稼働中の有益なミッションを不必要に終了させ、建造中の新ミッションもキャンセルし、数十億ドルを無駄にすると批判している。

研究者コミュニティ以外でも反発は広がっている。惑星科学コーカスは下院議員の4分の1が署名する超党派の圧力集団であり、NASAの研究継続を求める声は共和党内にも存在する。

議会の行方は?昨年も否決された前例

FY2027予算案の最終的な行方は、議会の審議次第だ。

FY2026でも同様の大規模削減が提案されたが、議会は超党派でこれを否決した。この前例は、今回の予算交渉における重要な参照点となる。科学・宇宙コミュニティの組織的なロビー活動と、超党派の議員連携は今年も機能する可能性が高い。

ただし、前年度の否決は現状維持を保証するものではない。提案規模が前年を上回ること、すでに3,800名の職員が退職していること、複数のミッションが予算不透明なまま継続を強いられていることを考えると、部分的な削減が通過するシナリオも現実的だ。今後の予算審議の過程で、各ミッションの存廃が一つひとつ決定されていく。

科学コミュニティにとってこの予算案が示しているのは、一時的な圧力ではなく構造的な優先順位の転換だ。議会が再び全面否決するか、それとも一部を容認するか。その判断が、数十年にわたる宇宙科学の蓄積を守るかどうかを左右する。


Sources